それだけの話

白詐欺

それだけの話

あの子は可愛い、あの子は綺麗だ。


あの子と付き合いたい、あれが面白かった。


なんてことはない具体性のない話。



「篠崎君何読んでるの?」


「えぇっと君は?」


「五十嵐 美緒。」


「それでどうしたの?」


「何読んでるのか気になって。」


「そっか。」



なんてことはない世間話。


「なんで答えないの?」


「なんで答えなきゃいけないの?」


「友達いないでしょ。」


「いるよ、ただ別にいてもいなくても変わらないよ。」


「ならどうして答えてくれないの?」


「めんどくさいから。」



世の中にはなくても困らないもので溢れてる。


結局は興味を持つか持たないかただそれだけ。


「篠崎君何読んでるの?」


「えぇっと・・・」


「五十嵐 美緒。この前言ったじゃん。」


「そうそう、五十嵐さん。どうしたの?」


「何読んでるのか気になって。」


「そっか。」



昨日は肉だから今日は魚にしよう。


セールだから早めに帰ろうかな。


「どうして答えてくれないの?」


「めんどくさいから。」



ただそれだけ。


「篠崎君何読んでるの?」


「確か君は・・・」


「五十嵐 美緒。なんで覚えてないの?」


「なんでだろうね。」



ただ興味がないだけ。


「いつも1人で楽しい?」


「人それぞれじゃないかな?」


「そっか。」



結局今日も何も変わらない。


「篠崎君何読んでるの?」


「あー君は・・・」


「五十嵐 美緒。そろそろ覚えられない?」


「どうだろ?」


「篠崎君、私のこと嫌いでしょ。」


「嫌いじゃないよ。ただ」


「ただ?」


「興味無いだけ。」



周りに興味がないだけ。


「篠崎君何読んでるの?」


「確か君は・・・」


「覚えてないんでしょ、いいよ。」


「ごめんね。」


「謝るくらいなら覚えてよ。」


「覚えたよ。」


「嘘つき。」



人と関わるのがひどく面倒なだけ。


「篠崎君何読んでるの?」


「君も懲りないね。」


「篠崎君が覚えてくれるまで聞きに来るよ。」


「友達いないの?」


「いるよ、ただいてもいなくても変わらないでしょ。」



そうかもしれない。


「篠崎君何読んでるの?」


「五十嵐さんか。」


「そうそうって私の名前・・・」


「めんどくさいからね。」


「聞かれるのが?」


「そうかもしれない。」



彼女はご機嫌なまま帰っていた。


何がしたかったのか興味がなかった。



いつもの問いかけがなかった。


彼女の興味がなくなったのだろう。



ひと月しても彼女は来なかった。


名前を忘れてしまった。


興味がなかったから。



1年後、彼女は入院していた。


みんなは行くのだろうか。



興味が少しだけあったかもしれない。



お見舞いに行こうとした。


名前を覚えてなかった。


彼女の名前はなんだったのだろうか。



1年後彼女はやってきた。


「久しぶり篠崎君。」


「確か君は・・・」


「五十嵐 美緒。結局見舞いには来なかったね。」


「行こうとはしたよ。」


「興味がなかったから?」


「名前を覚えてなかったから。」


「そっか。」



罪悪感はあった。


「篠崎君何読んでるの?」


「五十嵐さんか。」


「やっと覚えてくれたんだ。」


「どうだろ。」



興味がないからまた忘れるかもしれない。



桜が散って、海が賑わい、紅く染まり、白くなる


気づいたら1年が経っていた。



もう彼女とも会うことも無いだろう。


確か名前は


「久しぶり篠崎君。」


「そう五十嵐 美緒。」


「・・・」


「・・・」


「覚えてたの?」


「興味が・・・湧いたのかもしれない。」


「そっか。」


変わらないものはないのかもしれない。


ただそれだけの話。

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