第2話 強引は正解

俺は部屋を出て、ドラックストアに立ち寄ろうとしている。道路に出て、目の前の交差点を渡るとドラックストアが一軒ある。


最近、全国にチェーン展開中の有名な薬屋ドラックストアだ。


店の前に来ると女性が自分の前に滑り込んできた。


危うくぶつかりそうになる。


女は俺の方を少しにらめつけ、店に入っていった。


「何だよ」と思いながら、俺はゆっくりと店の中に入った。


「やけに人が多いな・・。」


この店は、商品などは陳列ちんれつしていなくバーカウンターのように、テーブルと椅子が並んでいるだけである。


店員に症状を見てもらうことで、薬を買える仕組みだ。


「空いているところは・・・」


俺は、列で空いている場所へ並んだ。


俺より先に店に入ったにも関わらず、先ほどの女は窓の側で携帯をかけていた。


列が進み、俺の番が近づいてくると、電話を終えた女が言いがかりをつけて来た。


「私が先よ!あなたの前に店に入ったのを見たでしょ!」


「並んだのは、俺が先だ!」


と言ったのにも関わらず、俺の前に割り込む。


「うるさいわね!もう、この列に私が並んだでしょ!!!」


周りの客はいっせいに俺たちの方を向く。


女の言っている意味不明な言葉を聞いて、一瞬、頭が混乱したが体調も悪いので、どうでも良くなって、順番が一つ下がるくらいどうでも良いかと自分に納得させていた。


でも、完全に納得したわけじゃないので、何か仕返しか、嫌がらせをしてやろうと考えた。


そうだ!俺は多分、風邪を引いたから、この女に近づいて列を待ってやる。


ソーシャルディスタンスなんて無視してやろうと思った。


それから、しばらく、自分の番が来るまで、周りの客の様子を見ていると、あることに気がつく。


診察しんさつが終わった患者は店の奥の赤いドアに入っていくのだ。


出口?


戻ってくる患者はいないから、出口に間違いはなさそうだ。


全員が、赤いドアに入るのと思うと、一人、二人くらいは、赤いドアの横の青いドアに入っていく。


この場所で自分の番が来るまであと、2人。


やっと、目の前の女の番がやってきた。その女はカウンター越しの店員と話が始まる。


聞こえるように、そーと、女の間合いを詰めて聞き耳を立てた。


「・・・検査の結果、陰性いんせいです。良かったですね。」


店員の声も聞こえ、この女は陰性だったようだ。


ちぇっ!残念。


「・・・青いドアは感染者の出入り口になっているので、あちらの赤いドアからお帰り下さい。お大事に・・・。」


ああ、なるほど、セーフティーゾーンを分けているのね。


赤いドアは陰性者用で、青いドアは陽性者用と理解した。


すると、女は振り向いて後ろにいた俺に一瞬、驚いた顔をしたが、ニコッと笑みをこぼし、あの赤いドアに入っていった。


やっと、俺の番になった。


「こんにちは。どうなされましたか?」


「風邪っぽいので、風邪薬がほしいです」


そう答えると店員は、俺に唾液の提供を呼びかけてきた。


綿棒のような器具を口に入れ、取り出して唾液を採取し、店員に渡した。


店員は、機械に俺の唾液のついた綿棒をセットした。


結果が出るのは一瞬らしい。すぐに店員は答えた。


「残念です。普通の風邪のウィルスが検出されました。陽性ようせいの反応が出ています。薬を用意しますので、あちらの青いドアに入り、お待ちください。」


えーやはり、風邪かー


そう思った瞬間、店の奥から騒がしい声が聞こえたかと思うと、あの赤いドアが内側から開き、大男が現れた。


「うおおおー!!!!!あああー!!」


わめく大男は、俺の方に来た。


俺は何が起こっているのか分からず、動けずにいる。


すると、その大男は、俺に向かって血を吹きかけてきた。


大男の口から吐き出された大量の血を浴びることになる。


さらに俺の上に覆い重なってきた。


振り払おうと、もがいたが、大男の力が強く逃げることができないでいた。


横を見ると、隣に並んでいた青年の顔が引きつっていることが分かる。


店中に大男のうめき声と店の防犯用ブザーが鳴り始めた。


俺とこの大男以外の客はいっせいドアに殺到さっとうし、店から逃げるように出て行った。


ようやく、男を振り払い身動きが取れるようになると、店の窓がすべて鉄格子てつごうしで閉じた。


カウンターもシャッターが下りて閉じ込められた。


店の中は二人だけになり、照明が青紫色あおむらさきいろ変わる。


何分が立つだろう、俺は壁際かべぎわで横になっていた。


体中、男の鮮血せんけつで染まり、その上、怖さと寒さで震えていた。


「最悪だ。あの時、強引に女の前に並べば、こんなことにならずに済んだのだ・・・」


しばらく、うめき声を上げていた大男は静かになり、動かなくなっていた。


「ん?なんだ!なんだ?」


男の体が更に大きくなったようにみえる。


注目して大男を見ていると、黒い毛のようなものが、大男が着ていた服を破り、体から生えてきているのが見えた。


その毛は、生きているかのように瞬く間に、成長して、元が人間すら分からなくなるくらいの毛の量が体を覆い隠す。


何が起こっているのか、本当に理解できない。


戸惑いながら、その様子を何もせずに眺めていると、突然、あの赤いドアが開き、化学防護服かがくぼうごふくのようなマスクを着け、手にはライフル銃を持った軍人らしい人たちが次々と入ってきたところが見える。


「あなたを連れて行きます。立てますか?」


そう言って、防護服を着た男たちが、俺の両脇りょうわきをつかんで、引きずるように赤いドアに向かった。


「助かった!」


俺は、大男の姿を見ながら、引きずられ、赤いドアの前まで来ると、大男がニョキッと立ち上がる。


それを見た防護服の男たちは、一斉にライフル銃をぶっ放した。


銃の弾丸を浴びた大男は、崩れるように倒れた。


死んたと思われる大男に、俺は中指を立てて、一言、言い放つ。


「ざまー(笑)wwwwwwwwwww」


防護服の男たちは、俺の腕をつかんで引きずりながら、赤いドアを通り抜ける。


ドアがしまり、薄暗い通路を通っている。


出口と思っていたこの通路がやけに長い。


いくつかドアを通ったかと思うと、椅子に縛り付けられた。


また、現状がどうなっているのか分からず、ゆっくり、あたりを見る。


すると、隣には先ほど俺と口論したあの女が、俺と同様に縛られて、すわらされていた。


どこか変だ!?ここは変だ!?


なんで俺は、拘束こうそくされているんだ。足も手も、動かないように縛られた。


俺は握りこぶしを作り、力一杯、引っ張った。


しかし、びくともしない。


もう一度、引っ張る為に、腕を180度回すと。


「うわ!」


手首から毛のようなものが生えてきた。


それをみてパニックなりかけたとき、目の間にいる防護服の男が俺の頭に、銃口を向けた。


俺は、この時、ようやく、悟った。


あの赤いドアは、コロナβの感染者だけが通る事ができる、地獄への門だった。







そして、最後の時を迎える。






そう、この部屋は、コロナβに感染した人を殺すための処刑場だった。


地上から人知れず、人が次々と消えている謎がここにある。


この毛が生える人々は、人間なのか。


人が『進化』した姿なのか。


生物が、環境の変化で自分自身を発達させ新しい生物に生まれ変わり変化させることを分からず、殺処分にする愚かさを忘れてはいけない。


現代人はこれ以上、進化するとは思っていなかったのだろう。


現実はすぐ目の前にある。


終わり。

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新型コロナウイルスのあるドラックストア 深空 悟 @TsuKiGimeLiSa

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