50日目 ハンバーグはレトルトだった

 ポイタイン支社のプロスペロさんが仕事中にこんなことを話しかけてきた。

 プロスペロさんは仕事中に平気で通話してくるのでちょっとハラハラするコタンだった。


『ウチの会社、上流階級向け食堂も経営してるの知ってます?』

 もちろん、コタンは知っていた。

 立地が本社に近いこともあり、何度か給仕として手伝いに行かされたことがあったからだ。

 魔術師志望の写本師オペレーターとして採用されたのに、食堂の手伝いにたびたび行かされることは釈然としなかったし、ストレスの原因になった。

 ちなみに当然ながら出張手当などはなかった。


『その看板メニューの合い挽肉焼きハンバーグがあるの知ってるでしょ? あれって、うちの社長がとある店にレシピをもらって作ったの知ってます?』

「知らないです。オリジナルじゃないんですね」

『とある店でその合い挽肉焼きハンバーグの味を気に入った社長は、なんと3年間もその店に通い続けてレシピを教えてくれって頼み続けたんですよ。断られ続けても毎日通って。その店としても教えられないですよね、看板メニューなんですから』

「聞いてるだけで吐きそうです」

 実際にコタンは気分が悪くなってきていた。社長のしつこさエピソードに、常識離れした人間性というか、暗い不気味なものを感じたのだ。


『で、その店もとうとう根負けして、レシピを教えてくれたんですよ。誰にも教えないでくださいねって言って』

「ほう」

『そしたらなんと、その合い挽肉焼きハンバーグは、そのまたよその店の合い挽肉焼きハンバーグを冷凍魔法で固めて市場で売ってるものをただ買ってきて、温め直したものだったんですね』

「えっ……」


 誰でもすぐに買えるものを、3年間も通ってレシピを聞き続けたとは。


『ま、我々はその程度の舌の社長に仕えてるってことです』

 プロスペロさんはそうまとめた。


 しばらくしてコタンは、だんだん合い挽肉焼きハンバーグが食べたくなってきたので、今日は市場か食堂によって帰ろうと考え始めていた。

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全自動戦術型ネクロマンシー ~100日後に崩壊する魔術系企業~ ODANGO WORKS @odangodragon

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