49日目 どくろマーク

「なんでどくろマークにしたの! イメージ悪いでしょ?」


 会議内に甲高い声が鳴り響いた。

 もう風物詩のようだな、とコタンは考えた。が、胃痛と頭痛、吐き気と寒気を伴う風物詩はほとんどの人間には受け入れられないだろう。


 社長が怒っているのは、魔機構システムの起動に使用する根幹の箱型の魔道具ツールに刻印される予定の意匠が、骸骨をかたどったものだったことに対するものだった。


「なんで? ヴァレリアさん、なんでどくろにしたの? そうしてって誰か言った?」

「いやーあの、死霊術ネクロマンシーなので、一般にはそのイメージが強いかと考えまして。分かりやすさ優先のデザインです」


 総呪文書作成士グランドデザイナーである、アケロン支社のヴァレリアは年輩の女性社員だった。体つきがたくましく、態度もそれに劣らず頑健で、社長に対してもあまり物おじしない数少ない人物の一人だった。


「でもさ、生き返るんだから、もっとポジティブなイメージにしないと! 天使! 天使のデザインに作り直して!」

「はい。前回のチェックでは社長のOKの判子いただいてましたが、修正の認識でよろしいでしょうか。刻印師に依頼しなおしなので、10日遅れることになりますが」


 一瞬社長の動きが止まったが、さらに甲高い声の返答がすぐさま返ってきた。


「こっちもさ! 全部目が届くわけじゃないから! おかしいところがあったら、お互いに社員同士で声を掛け合える体制をとっててほしいのよ、こっちは! 全部俺が見られるわけじゃないからね!」


 空気がびりびりと震えた。

 普段は全部自分が確認するとよく言っているが、今日は違うようだ。


「アムラト君、〈全自動〉チームのチェック体制ってどうなってるの? ちょっと全員のチェック項目を一覧表にして、提出してくれる? あとそれについてのミーティングね、ヴァレリア君とザルトータン君で。チェック項目の提出は何時にできる? 今日の最優先で頼みますよ!」


 最近、混乱しながらもコタンは考える。

 ひょっとして、このプロジェクトを本格的に始める前に、1週間、いや、3日の余裕があれば、すべてうまくいったのではないだろうか。


 〈今日中〉。

 〈最優先〉。


 その言葉に踊らされたせいで皆が冷静さを失って、ありあわせのデザイン・知識、間に合わせの素材・計画を用意してしまう結果になり、それが後々にありとあらゆる場面で足を引っ張り、混乱が混乱を呼び、計画が遅れてしまう要因になったのではないか。


 コタンはちらっと隣の席を見た。

 ナフェルタリの笑顔がだんだん少なくなっているような気がした。

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