48日目 幻術師

幻術師イリュージョニスト! 幻術師イリュージョニストを雇おう! という話にね、なりましたというお話を、皆さんに今日はします。することになります」


 まだるっこしい甲高い声の説明を聞いたコタンは、いつものように吐き気を覚えてうんざりした。


「話になったって、自分で決めただけだよね……」


 コタンはびっくりした。

 アムラトが聞こえるように独り言を言ったのだ。もちろん、会議内にその声が漏れることはないのだが、コタンは他人事ながら血の気が引いた。

 日を追うごとに、上司のアムラトは気が緩んでくるというか、本音を出すようになってきたような気がした。


「えー、日々みなさんに協力してもらっている〈全自動〉魔機構システムなんですが、残念ながらまだ形になっているとはいい難い状況です。ですが、王都をはじめとするお客様にはね、期日までに完成品を見せたければならないという状況がありますのでね、幻術師イリュージョニストを雇って、説明会に臨むことになりました」


 完全な納品の期日はまだ先なのだが、納品までに何回か、説明会を設けて魔機構システムの説明をしなければならないらしい。呪文書や解説書は今までいくつか見せたり、受像で生き返る様(ダミー)を客先に提供したりはしたが、実際に戦で使用している、「本物」の受像、絵が必要になったとのことだった。


 ところが当の魔機構システムは完成していない。

 そこで、幻術師イリュージョニストを雇って、説明会にやってきた客に幻影をみせ、ごまかそうとのことだった。


「説明会は3日後なんでね、今日は皆さん、全社員協力して、わが社の魔機構システムを再現してくれる幻術師イリュージョニストさんを探してもらいます。一旦ね、午後になる前にどんな人材が見つかったか報告してもらいますのでね、今日は最優先でお願いしますね」


 もはや、誰も幻術でごまかすことには口を挟まないのだな、とコタンは考えた。

 なんだか、全員が他人事のように動いているような気がする。

 出かける準備をしながら、コタンが考えていたのは、どう調査してどう幻術師イリュージョニストが見つからなかったかをどのように報告するか、ということだった。


 もちろん人材は見つからなかった。

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