最後の部屋

ガチャン。


前方を確認すると、もうドアは無かった。


物も光源も無かったが、私はその部屋の構造を知っていた。


部屋の真ん中まで移動し、足元を探る。


紙切れが落ちていた。




紙切れを開くと、こう書かれていた。


「エラベ」


次の瞬間、部屋全体が明るくなり、目の前に4つの"モノ"が現れる。


綺麗なおもちゃ


液晶が割れたパソコン


笑い声がするドア


そして、歪んだ口元の奇物


の、4つ。


私は…。


"ワタシハ?"


逡巡したが、それもほんの少し。


私は迷わず奇物に手を差し伸べた。


"ハァ…。マタカ。"


奇物は形を崩し、砂の集合体と化し、地面へと崩れた。


差し伸べた手は、虚空で止まり、私はどうしたらいいのか検討もつかなかった。


伸ばした手は、引っ込めていいのだろうか。

気づくと、他の3つのモノも消えていた。


"ナゼ、マタ、ソレヲエラブ?"


わからない。ただ、これだけは逃してはいけない。

酷く、強くそう思う。

固執している。遠い昔から、ずっと。

もう、失った要素の方が多いだろう。

過去の積み重ね。

取り返しは出来ないが、せめて。


失うわけにはいかないのだ。


"ヤリナオシ、ダナ"


いつの間にか、またドアが出現していた。

駄目。入ってはいけない。


"ハイレ"


私は自分の足を止められなかった。

入ってはいけない。

また、最初からやり直しになってしまう。


もう嫌だ。やめてくれ。

やめ、

ヤめテくれ…。


…。


さァ、もういチど、ドアをアケよう。


…ガチャン。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

"進める"だけのドア テマツカ佐藤 @yammyhl

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ