4部屋目

…ガチャン。


余分な力を使った気がする。次のドアを開ける力は残っているだろうか。


この部屋の明るさは普通だった。体で感じ取る空気感。日常生活が出来そうなほど、優しいものであった。


むしろ。


これまでの部屋が、あまりにも無機質だったのかも。


真っ直ぐに歩いていると、奇妙な物を目にした。


人の形をしているが、目玉はついておらず、鼻もない。

"笑顔"のまま固定された口元だけが張り付いていた。


奇物、とでも呼称しようか。


奇物は10体いた。どの奇物も、歪な笑みを口元にたたえ、こちらを向いていた。


部屋の奥から、心に直接響くような笑い声が鳴り響く。


あぁ、うるさい。少し黙っていてくれないか。


笑い声の方へ歩を進める。

奇物の横を通り過ぎるも、奇物はまだこちらを見ているようだった。


1体の奇物の手を取り、笑い声へと向かう。


引っ張って歩き始めた。

連れて行った奇物以外は、蒸発してしまった。

沸騰した水が、水蒸気となり、やかんの口から出ていく。

同じことだ。


人体と水蒸気。ちょっと、ちょっとだけ見た目が違うだけ。


私に引っ張られる奇物からは、表情が失われていた。


それはつまり、顔のパーツから、遂に口が欠如したということである。


ただののっぺらぼうと化した奇物と歩く。


笑い声が発せられている元。また、新しい奇物らがいた。


私が連れてきた奇物とは違い、その奇物達は色が着いていた。


黄色。紫。群生。


色彩豊かな色はいなかった。皆が皆、ある程度暗い色を模していた。


そして、同じ色同士で連立ち、談笑していた。


言語と呼べるものでは無かった。奴らが交わしているのは、ただの音。不快な音。

耳障りな金属音と同レベル。


少しだけ立ちすくんだすきに、私が連れてきた奇物は、黄色の奇物のグループに加わった。


すると突然、失われていた口が蘇り、またあの笑みを浮かべた。


姿も黄色に変化した。


奇物どうし、色を持っていないやつは他の色に染められてしまうのだろうか。


もういい。


私は興味を完全に消失し、ドアへ向かう。


シンプル、言い方を変えればチープ、そんなドアだった。


もはや何も考えずドアを開ける。


ドアノブを掴んだ感触がやけにやわらかかった気がする。


ガチャン。

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