第18話 けれど桜は舞っていた

「先輩、ちょっと良いですか?」


「……………」

意を決して聞いてみたが彼女は俺の姿も声も認識していないかの様に無視して歩き続ける。


「先輩、少しお時間よろしいでしょうか?」

再度敬語で聞き直すがやはり無視される、どうやら聞き方の問題では無いようだ。


「…………………先輩、今から話せますか?」


「…………さっきから何よ」


三度目にしてようやく反応してくれた彼女に安堵しつつ話を進める。


「今から話せますか?」


「………手短にしなさい」

きっと彼女は律儀でとても優しいのだろう、だから自らの優しさを否定されたことが許せなかった。

所詮、俺も彼女も人間で、だからお互いの望みを求めすぎてしまったのだ。


だけど、その望んだ物は何処にもなくて………



「……………あの…昨日はs」


「歩きながらで良いかしら?」

話始めた俺を止めるように彼女がそう薦めてくる。

「………はい」


本来の帰り道へ戻るように歩く俺達に見えてきたのは桃色の綺麗な花が散り、ちらほらと若葉が見えてきている桜の木が並ぶ川沿いの道だった。


「……………………………」


「……………………………」

沈黙が支配するその一瞬を彼女が切り裂く。


「…………何か喋りなさいよ」


「はい………」


その時、まるで〈あの時〉とは対照的にされど〈あの時〉と同じ様に風が吹く、前に進もうとする俺を後退りさせるような向かい風。


だけどその風は地面に落ちた桜の花びらを巻き上げ、〈あの時〉と同じ様に景色を彩る。


「あの………昨日はすいませんでした」


「何がかしら……」

分かっているはずなのに…


「なんか……自分勝手になってしまって…」


「そう…………それで?」


俺は彼女のその問にどう答えるか迷っていた。

只仲直りがしたい訳では無い……

このままでいたい訳でも無い……

きっと俺は……………


きっと俺は二人許し合って〈あの時〉みたいにしていたい、そう成りたいのだろう。

分かってる、これも醜い欲でどうしようもない自己満足だ。


けど、だけど彼女も何かを望んでいるのなら……


「……………許して……ほしいです………」


「……そう………」

彼女は一息吐き言う、

「良いわ………私も大人気が無さすぎた……悪いとは思ってるの…………」


許してくれたのだろうか?

彼女は少し微笑む。


「もう家に着いちゃったわね…」


「そうですね……」


「週明け……朝エントランスで待ってるわ……」


「えっ?あっ、はい……」



そして彼女は最後に、


「それと、尾行は静かにするものよ、友達と一緒だとすぐにバレてしまうわ………」

そう言って去っていった。



経験者は言うことが違うな…てか見張ってた事気づいていたのかよ………俺はそう思いながら家に帰ったのだった。


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桜舞うあの道でもう一度 松葉あずさ @MatubaAzusa

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