最終話 終わりは新たな始まりへ

 冥婚亭、東の大陸には珍しい洋館風の黒い石壁の夜の店。

 この世でもあの世でも出会いの場は需要があり一夜の恋だけでなくその名の通り客の男と店の女が二世の契りを交わせ夫婦になることもできる現世と冥府の社交場。

 今宵は貸し切り、仲間のめでたい祝いの席と連れて来られた捕吏三人。

 広間の下座のテーブル席で酒を一杯ひっかけながら新郎新婦を待つ身である。

 「お~う♪ 姉ちゃん、酒追加~♪」

 美しいキョンシー娘に酒の追加を頼むチェン。

 「おいおい、主役よりよってどうする」

 チェンをたしなめるのはハン。

 「新郎側は俺達だけ、周りはドラゴンばかりなり」

 ピョウが呟き酒を煽る。

 新郎たる笑快、親や家族は転生済みで縁が切れて孤独の身。

 自分達以外の参列者は新婦側の赤橙黄緑青藍紫と虹の七色の龍達が揃い踏み。

 龍達は人の身に化けているが着物に見えるは竜の鱗、薄暗い照明の中でもそれぞれの色が反射して目に悪い。

 そんな中勢いよく銅鑼の音が鳴り響き店の戸が開かれて、赤い着物に身を包んだ新郎新婦が入場すれば万雷の拍手で迎え入れる。

 「先輩方お久しぶりです」

 笑快が仲間達を見て笑顔になる。

 「おう、おめでとう♪」

 ハンが祝う。

 「身を固めるの早過ぎだろ、色男♪」

 チェンが囃す、自分の夫が褒められているので翠鈴は笑顔。

 「結婚おめでとう」

 ピョウも軽く祝う。

 主役の到着が到着し、婚礼の盃が笑快と翠鈴の間で交わされると再び拍手が沸き起こり乾杯の掛け声と共に酒が振舞われる。

 酒が入れば気も緩む、花火の如く冥銭が舞い酒や料理が運ばれるは店の女と別室で楽しみに行くものが出るはの盛況な宴が始まった。

 ハン達捕吏も例にもれず、それぞれが店の女と一夜を過ごしと誰もが幸せになって結婚式はお開きとなった。


 次の日、結婚式があろうとも休みと言うわけではない捕快の仕事。

 笑快達は詰所があった場所で立ちすくむ、昨日まで一軒家程度だった詰所が一夜にして屋敷へと格が上がって建て直されていた。

 「おお、出仕ご苦労諸君♪ さあ、新しい仕事場だ入り給え♪」

 屋敷から出て来たのはジミー、上司に言われ付いて行くと中では式で見た人に化けた龍達や一夜を過ごした冥界の女達が働いていた。

 「え~っと、これは一体?」

 笑快がジミーに尋ねる。

 「おお婿殿、まさか組織が龍宮に買われるとは思わなかったよ♪ 君の奥方が此処の主だ」

 ジミーが笑って、笑快の肩を叩く。

 「え~っと、冥界云々は?」

 自分達は冥府の役人だったはずと笑快は説明を思い出す。

 「龍王の娘婿が冥界の平役人とは何事だと上でひと悶着があってな、我々は出向扱いで君は龍宮の扱いだ大出世だな後輩よ♪」

 ジミーが軽く語る、どうやら出世したらしいと笑快は感じた。

 ハン達先輩捕吏は、自分達が一夜を過ごした冥界の女達に掴まっていた。

 「嘘だろ~! 女遊びができない!」

 チェンは自分が女房持ちになったことを嘆いて妻に殴られた。

 ハンやピョウも尻に敷かれていた、どうやらあの一夜で父親になったらしい。

 笑快の婚姻により、一夜にして大規模な強化が行なわれ捕快は街のバランスを壊す大勢力となった。

 「これからどうなるんだ?」

 唖然とする笑快を屋敷の奥から伸びて来た龍の尾が巻き付けて引き寄せる。

 叫ぶ間もなく屋敷の中へ連れ込まれたは立派な官服を纏った妻である翠鈴と対面した。

 「おはようございます貴方♪ さあ、これからは局長の私の下で公私ともに末永く暮らしましょうね♪」

 精力に満ちた艶のある笑顔で微笑む翠鈴に笑快も笑うしかなかった。

 

 かくして、前世の縁で結ばれた妻による大きすぎる内助の功で笑快は出世を遂げた。

 騙されて冥府の役人にされた青年の物語は終わり、龍の婿の大英雄としての笑快の道が開いたのである。

                                完

 

 

 

 


 

 

  

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捕快物語 ムネミツ @yukinosita

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