第4話 前世の縁で結ばれて
「うふふ♪ もう離さないわ、愛しい人♪」
青水晶の床と壁、 部屋の九割を占めるのは白い布団の巨大な寝台。
上半身は白い肌に豊満な裸体の美女、 下半身は赤き鱗の龍。
生気を吸い取り疲れ切った裸体の笑快を抱きながら龍女が微笑む。
高位の神格や妖魔には生き物の魂が見える、魂を見ればその者の前世すら
見える。
龍王の娘である
「さあ、これを飲んで元気を出して♪ 私達の可愛い赤ちゃんが早く欲しいわ♪」
長い尾を伸ばし、近くの台に置いていた薬湯の瓶を尾で掴み引き寄せては笑快に口移しで飲ませる。
薬湯により笑快は意識を取り戻した。
「……う! す、
火龍公女の名である翠鈴を呼ぶ笑快、彼は前世と現世の記憶が混濁していた。
「……ああっ♪ 思い出してくれたのね♪ そうよ、私はあなたの妻よ♪」
翠鈴が笑快を抱きしめる、そして龍の中でも情欲が強い赤龍である彼女は
再び笑快と交わうのだった。
一方、笑快を巡回中に連れ去られたジミーは冥王の庁で呼び出しを受けていた。
「世の中、何が起こるかはわからぬものだな」
冥王が書状を読みつつ茶を飲みながら語りだす。
「まさか弟弟子がそのような宿業を持っていたとは、私は不遇の幼友達に今生の福と冥福を与えたかっただけですが」
ジミーも茶を飲みながら答える。
「責めてはおらん人の身で見通せるものではない故なしかし、龍王の娘婿となるとこの笑快という男はぞんざいに扱えんぞ? 死後も龍宮に引き渡さねばなるまい」
冥王が頭を悩ませる、自分の末端の部下になる者に強大な後ろ盾が付いたとなると扱いが面倒になる。
「それは致し方ありませんが今晩、
ジミーがさらりと饗応すると告げる。
「ほう、何を企んでおるかはわからんがその下心には乗ってやろう♪ だが、天の王など他の神々も誘わなければな」
こちらもさらりと応じる冥王、ズブズブであるが話の通じる男であった。
この世界の神々は俗っぽく人のように欲に忠実であった。
「その点は抜かりなく手配済みでございます、部下達にも
女を抱かせ酒を飲ませ金を掴ませとは神々も篭絡できる手練手管である。
放蕩息子であるジミーの手腕は神々をも落とした。
「うむ、良き働きの為には良き遊びが大事である。 その為の部下達の福利厚生は不可欠であるからして惜しみなく予算を使おう」
冥王も喜んで乗る、この上司にしてこの部下有りだった。
「ははっ♪ 全ては皆の幸せの為に」
ジミーと冥王のやり取りは円滑に進んだ、神が許せば人などどうにでもなる。
この時代、いまだ人々は神々の行いの下に生きていた。
「新人、まさか神様に連れていかれるとは参りましたね」
二日酔いに苦しむチェンが茶を飲みながらつぶやく。
「まったくだ、だがそれが天命なら仕方ない帰って来ても責めるなよ?」
ハンも胃薬を飲みながら返事をする。
「笑快、あの神様と結婚するらしいですね捕頭から聞きました」
ピョウも目に隈ができていた、彼ら捕吏達はその後現れた冥王と共に
予約した店で大宴会の相伴に預かった。
寿命が百年延びる酒や、あらゆる異世界の美女の歓待を受けて精根尽き果てた
状態で朝を迎えた。
「寿命が延びる酒を飲んでも、絞られちゃあトントンですよ」
サキュバスに絞られたチェンがげんなりする。
「俺もだ、世の中そんなに甘くねえって事よ」
ハンも太っていた体が痩せるほど絞られた。
「何のご祝儀かは知りませんが、お金もいただきましたしね」
ピョウが分厚い熨斗袋を懐から取り出す。
「それな、どうせなら冥銭でなく現世で使える金にして欲しいぜ」
チェンも熨斗袋を取り出す、中身は数字が描かれた紙幣の束。
この紙幣、冥界や魔界だけでなく天界でも使える
異界の通貨で人間の店では使えず、この世では夜の鬼市での魔物などの店の支払いにしか使えない面倒な金である。
だが、人間が扱わない特別な物を買うには大変有用で死後の裁きの弁護料や冥界での土地代に天界の任用試験の賄賂もとい手数料などにも使える。
あの世の暮らしも金次第という奴で、死者の霊が生きている遺族に仕送りを要求しに化けて出るなんて話も後が立たない。
故人の墓に宛名書きと共に供えて燃やせば送金完了だ。
冥銭の入手方法は、夜の鬼市で人間の現金と交換したり冥府から寺院へ使用された物が回ってくるので寺院で買うなどである。
この世もあの世もマネーロンダリングというのはなくならぬ物で、寺社も冥府とお金でズブズブな繋がりを見せていた。
「この世でもあの世でも、神と銭を味方につけろって奴だ仕事の用意をするぞ」
ハンが他の二人に昼の巡回の用意をするように促す。
どんな状態でも、捕快の仕事は真面目にやる。
そんなハンの人柄をチェンもピョウも慕っていた。
だが、支度をして出ようとした捕吏達を止める者が現れた。
黒の官帽、黒の官服に全身が絵の具のように青い肌をした男達だ。
「何だあんたら、冥界のお仲間が何の用だ?」
ハンが進み出て男達に尋ねる、青肌に黒の官服は冥界の役人の特徴で
ある意味自分達の未来の姿であるから敵ではないと判断したハン。
「冥王様からの言伝です、今晩冥婚亭にて難笑快様と火龍公女翠鈴様の結婚の祝宴
に皆様をご招待する旨をお伝えに参りました」
青肌の一人が用件を伝える。
「新人、身を固めるの早いな」
チェンが唖然とした顔で語る。
「何やら無体な事はされていないようで良かった」
ピョウも笑快の無事を知り安堵する。
「おお、それはめでたいな♪ 嫁は早いうちに貰った方が良い♪」
ハンも新入りのめでたい話に喜ぶ。
「あ~、今度あいつを良い店に遊びに連れて行ってやろうと思ったのに」
チェンが残念がる。
「チェンさんも遊んでないで早く身を固めたらどうです?」
ピョウがチェンにツッコむ。
「俺よりハン先輩だろ?」
チェンがハンを見て口を出す。
「やかましい、仕事に行くぞ!」
ハンが怒ると同時に、用の済んだ青肌の役人達は姿を消した。
かくして捕吏達は巡回任務へと出立した、昼間の街はほぼ平和という
様子で彼らがこなした事と言えばひったくりの捕縛や喧嘩の制裁といった小さい荒事から老人の愚痴聞きに迷子の親探しと言うような小さい事までとモンスター退治などに比べれば些細な事を片付けるだけで済んだ。
そして昼の時間が終わり、人も神も妖魔も騒ぎ出す夜の鬼市の時間がやってくる。
笑快の祝言という事で、着替えず詰所で待機していたハン達。
詰所の外からチリンチリン♪ と、鈴の音が響き渡りトントンと人が飛び跳ねる音が聞こえてくる。
「お、迎えが来たか? お前ら行くぞ」
ハンが立ち上がり戸を開けると、紺の法衣を纏った道士が胴体にランタンをぶら下げたキョンシー達を引き連れて待ち構えていた。
「冥婚亭か、俺達も天人楼が良かったぜ」
チェンが見目麗しい天女を想像しながらぼやく。
「冥婚亭も綺麗処は沢山いますよ」
ピョウがなだめる。
「俺は吸血鬼やキョンシーやゾンビは苦手なんだよ、あの黑い魔力がどうもな」
チェンがハーフエルフらしくキョンシー達から漂う陰気な魔力を嫌がる。
「諦めろ、決まったことだし後輩の祝言なんだから」
ハンがチェンをたしなめる。
かくして、捕吏達は店の娘が吸血鬼や幽霊やアンデッド系のマニアックな夜の店へと向かうのであった。
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