捕快物語

ムネミツ

第1話 笑快、騙されて職に就く

 「なんよ、まあ饅頭でも食え♪」

 青地の官服、胸には赤で書かれた丸に捕の字の胸章。

 黑い官帽にも丸の内に捕の字と間違いなく格好は捕快ほかい

捕吏ほりの物。

 であるが、金髪碧眼に色白の肌。

 目鼻立ちの整った顔と掛けた眼鏡から感じさせる

知性は文官の物で罪人や悪党相手の荒事に勤しむ役職に

似つかわしくない柔和な笑顔の美青年。

 この男の名はジミー・おう

 西洋のブリリカ人の母を持つ混血児で領主のボンボンだ。

 街の治安維持を司る捕快の長、そんな面倒な相手から飯屋に

呼び出されて菓子を差し出されているのは何者か?


 短い黒髪、黄色い肌と言われる東洋人。

 こちらは精悍な顔つきで、今現在眉をひそめて気難しい顔を

していなければ好青年。

 赤い詰襟の短袍たんぽうと言うジャケットの下は黒い綿生地のパンツ。

 引き締まった体付きから武芸の腕があると感じさせられる男だ。

 彼の名は難笑快なん・しょうかい、身分は平民で生業は武術道場の

師範代。

 目の前のジミーは同門の兄弟子、領主の息子だが妾腹の五男坊には

町の小さい道場で十分と通っていた彼と笑快が出会ったのは幼少の頃。

 色白で美しい見た目とは裏腹に悪戯好きなジミーには苦労をかけられて

きた、特にこうして甘い顔で菓子などを差し出される時のジミーは碌な事を

企んではいない。


 だが、菓子の誘惑に笑快は勝てず熱々の甘い桃饅を手に取った。

 「良し、手付を受け取ったな♪ ほれ、銀札だ♪」

 ジミーが笑快の首に銀で出来た四角い札をかける。

 「な! 師兄よ! また罠か!」

 笑快が叫び桃饅を掴んだ掌を見ると、丸に捕の字が刻まれた。

 「何を言う、可愛い弟弟子に仕事を与えてやったのだ♪」

 ニヤニヤと笑うジミー、簡単な罠にはめられて落ち込む難。

 「師兄よ、饅頭が手付とはせこくないか?」

 諦めたので言外に報酬の保証を要求する笑快。

 「任せろ、月の給金やら衣食住など面倒を見てやる♪

さっそく明日から出仕してもらうぞ♪ 官服などは届けさせる」

 弟弟子の想いを察して約束するジミー。

 かくして笑快は、兄弟子に嵌められて捕吏の職を得たのであった。


 翌日、官帽に官服と新人捕吏の姿に着替えて家を出た笑快は

灰色の石畳が敷き詰められた街の表通りを通って詰所に出仕した。

 捕快の詰所は石造りの簡素な四角い二階建ての建物だった。

 戸を開けて中に入ると、質素な長机で三人の捕吏が茶を飲み

饅頭を食いながらくつろいでいた

 「失礼いたします、本日より勤務させていただく難笑快と申します

皆様宜しくお願いいたします」

 自分と同じ丸に捕の字の服装の先輩捕吏達に挨拶をする笑快。


 先輩捕吏達が自分を見やる、その中で緑の肌に太めの体形の

ハーフオークの男性捕吏が

 「おう、聞いているぜ♪ 俺はハンだ、宜しくな」

 と笑顔で挨拶をする。

 次に鼻が大きめで陽気なハーフエルフの男が笑快に語り掛ける。

 「俺はチェン、宜しくな後輩♪」

 チェンが手を素早く動かして構えを取る、その動きは実力者の物だった。

 最後に小柄で細面な小人族の青年も鳥が羽ばたくような構えを取り

 「俺はピョウ、話は聞いているよろしく頼む」

 と挨拶をした。

 この三人の先輩捕吏を見て、笑快は全員只者ではないと感じた。

 「よろしくお願いします!」

 先輩の気を当てられて身が引き締まる笑快。

 

 「お? 俺達の気と腕前がわかるようだな♪」

 チェンがニヤリと笑う。

 「まあ、しっかり面倒見るから気楽にしろよ♪

上に行って伏魔刀ふくまとうを支給してもらって来い」

 ハンが部屋奥の階段を差して行くように促す。

 「刀をもらったら巡回に付き合えよ」

 ピョウの言葉に頷く笑快。

 

 階段を上って二階に行くと『捕頭室』と書かれた扉を見つける。

 扉をノックするとジミーが入れと声を出す。

 「出仕しましたよ、王捕頭」

 うんざりした顔で目の前で事務仕事をしているジミーに挨拶する

笑快。

 「うむ、ご苦労だこれがお前の伏魔刀だ受け取れ」

 黑い革の鞘に入った刀を笑快へと差し出すジミー。

 「これが人間だけでなく妖魔も切れる伏魔刀ですか」

 刀を受け取る笑快。

 「使い方などは先輩達に聞け、仕事の仕方もな」

 ざっくり語るジミー。

 「わかりました、頑張って勤めます」

 そう言って笑快は捕頭室を退室した。

 伏魔刀を腰に差し、格好だけは捕吏らしくなった笑快。

 下に降りると先輩達が待っていた。

 「おう♪ 初々しいな後輩♪」

 ハンが近づいてきて笑顔で笑快の肩を叩く。

 「まずは巡回だ、教えて行くぜ」

 チェンが陽気に語る。

 「新人は銅鑼持ちだな、鳴らすタイミングは道中で教える」

 ピョウから銅鑼とバチを渡される笑快、先輩達は捕縄と長い棒を

取り出し身に着ける。

 「ああ、新人の分のお縄と棒も用意してもらわねえとな」

 ハンがつぶやく。

 「ま、しばらくは荒事は俺達に任せろよ♪」

 チェンが陽気にほほ笑む。

 「そうそう、まずは俺達を見習う所からだな」

 ピョウの笑顔に笑快も微笑む。

 意外にも明るい雰囲気で、捕吏としての笑快の初仕事が

始まろうとしていた。

 

 

 

 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る