第9話 真珠夫婦物語その2
その年の冬は稀に起きる極寒だった。
荒狂う吹雪が続く日々で、日照りは減り作物が枯れ始め、食料は減って行く現状。
父、領主は領民優先で領主館の蔵を開放して、食料や薬を配給制にした。
この国では一人でも餓死者が出るものなら、領主しては末代の恥。という風習がある。
ようは領主として責任能力がないと見たされる。
「その代わり、俺達も乏しい生活だけど」
「仕方ないわよ。自然現象ですもの」
季節とは必然だ。当然のように毎年繰り返し、繰り返し続いて来た。
だが今年は、稀の寒さで体調を崩す者も出た。
その対処に俺は領民の為に、寒い中領民の為に動いた。
そんな中、領民の妊婦に体調を崩した者が出た。残念に流産してしまった。
餓死者ではなかったとはいえ、未来ある子供を救えなかった事に、俺の父もその家族も暗い表情が見て耐えなかった。
屋敷に戻り、フローラに告げると同じ気持ちだった。
早くこの冬が超えて欲しいと、毎日を耐え忍んだ。正直息子が同じ目に会ったと思うと、 いたたまれない思いだった。
「リュウも元気に育っているが嬉しい限りだ」
「そうね。この子の為にも頑張らないとね」
息子の寝顔を見て微笑む妻の顔に、必ず幸せにしたいと思った。
レント家の屋敷は、領地の真ん中の丘の上にポツンと建っている。屋敷と言うには普通の一軒家をほんのちょっと広い家。
そんな屋敷には、滅多に人が訪れることはない。ましてこんな極寒な冬に。
玄関を開け、客人を迎えると友人ロッザとお付きの者だった。
「急にすまん。薪と薬を分けて欲しい。金は払う。相場より少ないが頼む」
代金として金貨50枚を俺に手渡した。
「まったく馬鹿か。金はいらん。早く暖まれ」
暖炉のある部屋まで案内し、温かいお茶をだした。
「すまん。この異常な寒さで病人が多くなって、手に負えない状況で」
「ああ、この寒さだ。うちも被害者が出たのが悔しい気持ちは一緒だ。
金はいい。友人の窮地だ。少ないが薬と薪。
あと焼き石だ。無いよりマシって感じだが持っていけ。石はタダたしな」
「恩に着る。焼き石って?」
「偶然にもタダの石を焼いて熱を持たせた。直に触ると焼けるが革袋で巻くと温かいぞ。村の住人が教えてくれた」
「なるほど。いいなそれ。有り難く頂くよ」
「足りそうか?」
用意した薬と薪を見ると少ない。
うちも大量にあるわけ無いが、出せる量はこれだけ。心伴いが。
「ありがとう。少なからずとも助かる。この恩は必ず返すさ」
「気にするな。こんな時はお互い様だ。息子さんは大丈夫か?」
「ああ、健やかに今寝てる」
寝てる息子に一目見せた。ロッザも結婚して娘が二人いる。
「今が一番可愛い時期だな。うちはお転婆娘で手がかかるわ」
その後子供達の他愛もない話をした。
「これから帰るのか? それともユースのところにも行くか?」
「ああ、先にアストのところに行く。足りない場合はローレス侯爵の元へ行かなければならない」
田舎の弱小領地など、大貴族には分かってもらえないだろう。
自領作られた作物には限りがある。
納税して残った主食はライ麦、不出来な野菜や豆。家畜には残り物である。
領民共同で猟で獲れた獣の肉。兎や猪、鹿の肉、それを干し肉している。
この領地にも行商人は来る。手土産品と干し肉や宿を提供して、そのうちの何割かは販売して金銭を稼ぐ日々。
自家製のワインを作れるほどの余裕もない、領民が少なからずある田舎領地。
それでもやり繰りしなければならない。
友人と協力しても、領民の生活を困窮させないのが、その地を任される領主貴族たる性なのだ。
犠牲者を出したくないのだ。これから未来ある者達の為に。
「すまない。一緒に行けないがまた帰りにでも寄ってくれ」
「ああ、助かる。ありがとう」
お互いに握手を交わし、俺は友人ロッザ達を見送った。
もしもの場合ブレイン樣は話しの分かる人物だ。友人ユースもいる。無碍にされないだろう。
数日後、ロッザは友人達を訪れ、薬品や薪を持ち帰り、無事うちに寄って話しをして帰った。
冬を過ぎると花の蕾が綺麗に咲く、この頃が俺が一番好きな時期。それを家族と一緒に見るのが今から楽しみだ。
〜〜〜
あれからなんだかんだ5年。楽もあれば苦もある日々だが家族、領民揃って無事に過ごした。
毎年連休を取った。、数少ないが真珠を買いに行った。大きさも今までと同じく揃えた。
都市ではちょっとばかし有名になってしまったが…。
息子リュウも領地内で友達も出来た。領主の息子って事もあるだろう。
だからこそきちんと教えないといけない。
「リュウ、大事な話しがある」
「何?父上」
「そろそろ、コレを渡しておこう」
一本のナイフをテーブルの上に置いた。
何の装飾もない、普通のナイフ。
「これからお前も枝集めや薪割りする。その為にナイフを渡す。だがこれは危ないモノだ。
見ればわかるが刃がある。切れ味もそこそこあるから簡単に切れる。
あ〜、言いたいのはこれ武器になるモノだ。例えナイフでも人に使えば怪我をする。怪我ではすまない場合もある。
これを持つ以上はそれなりの知識と覚悟が必要だ。人には決して向けない。向けると攻撃意思と満たされる場合がある。だが自分もしくは大切な人や守りたい時は使っていい」
「うん、わかった。明日からクラ達と一緒に薪集めに行ってくるよ」
明日から息子は友人達と一緒に林に出て薪集めをするが、年長組が指導、誘導するのでそんなに気にはならない。
村の子供達の登竜門と言ったところだ。
俺は影の王!~楽園が遠退いてゆく~ タコさん五世 @momo1341
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