第8話 真珠夫婦物語


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「すまない。真珠を買いたい。見せてくれ」

「へい、いらっしゃい」


 港町で一人の男がとびっきり大きく、綺麗な真珠を求めた。

 数ある真珠を見比べては、色艶、形、大きさ、と、かなり慎重に選んでいるようだ。


「他の店は?」

「真珠を扱っているのは、他に三件だ」


 その男は真珠を扱う三件を見比べて、ようやく一つを買った。


「一つ細工をお願いしたい」

「わかった。チョイと待ってな」


 この男は、かなり拘りを持って買いに来た。


「ほらよ。これでいいか?」

「ああ、これでいい。まず、一つ。先は長いな」


 その男はハール・レント。現在21歳。レント領男爵の嫡男。妻子持ち。産まれたばかりの息子がいる。

 レント領には海がない。

 ハールには、"どうしても成し遂げたい事がある"



 故に月1の連休を使って、隣のローレス都の港町にやって来た。


 シーハスト大陸国南西部に位置する国。セキリ。その第二の都市。ローレス都は真珠が捕れるようになったは、ごく最近の出来事。


 流通も始めたばかりの品。加工品技術もまだまだ遠く及ばないが、真球のピアスや指輪が主な品。


 真珠は捕れる量も決まっている。時期も決まっている故に、まだまだ値が高い。


「また長い時間、送迎車で帰るのか」


 送迎車には衝撃を和らげる性能がない。

 長時間乗っていたら、腰を痛くする。 

 自領にも馬車の1台はある。レント領紋章付き。

 外側だけは見栄えはいい。だが中はボロボロ。送迎車と対しても代わらない。

 

 自領の紋章付き馬車を使うとローレス都主である、ブレイン殿に挨拶をしなければならない。

 故にブレイン殿に挨拶をすると時間を取られる。あくまで、私用でユースには買い物に行くので、と手紙を出していた。


「買い物は済んだか?」

「ああ、一つだけ買った。だがまだ高いな。もうちょい安くならんか?」

「それはすまんな。品も流通もまだまだなんだ」


 声をかけたのは、このローレス都の領主の息子。名をユース・ローレス。

 

 ユースの父はブレイン・ローレスは大貴族。

 セキリ国の侯爵で元宰相を努めていた。

 ユースが騎士学校の入学時に引退し、自領の発展に尽力している。

 また、真珠の価値を見出したのが、ブレインである



「今日くらい泊まっていけば、いいのに」

「悪いな、可愛い息子と妻が待っている。また今度な」

「また来年買いに来るのか?」

「ああ、来年も買い来るつもりだ」


 一応幼馴染みで、共に騎士学校で切磋琢磨した仲。

 幼い頃からローレス都の祝賀会やお茶会で、会うようになり、仲が良くなった。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 十歳で騎士学校に入学させられる。

 それまでは自領で勉強や鍛錬をさせられる。

 騎士学校に入学すると身分差は関係無く、誰もが一学生とされる。これは国法で定められている。

 中には身分差を気にしている者もいる。

 騎士学校の成績次第で卒業後には、能力を買われ、国の重要なポスト、爵位の身分を与えられる。


 学生時代、ユースともに五人で良く遊んだ。

 ユース、アスト、ディード、ロッザ、俺ハール。

 かなりの遊び癖が強い五人組みで、一時は時の有名人になった事もある。

 お互い性格も得手不得手も剣の腕前も知っている仲になっていた。


「一番のトラブルメーカーがユース」ディード談。

「相乗りして調子の乗るのがアスト」ユース談。

「後始末に追われるがロッザ」俺ハール談。

「冷静沈着なのはわかるが、先ばかり見てコケるのハール」ロッザ談。

「一番真っ先に罰を受けるのがアスト」ディード談。


 アストはユースのお守り役であり、諌める立場なのに共に遊ぶ癖があるので、一番に怒られる。


 ユース以外の四人は、侯爵のご子息と友人関係で有名になったが、その時は嫁ごうとするご令嬢も現れなかった。

 ローレス都の隣の領地といえ、資源の貧し領地。魅力的な話がない領地。嫁がせようと思う、親はいないだろう。一番の要因であった。


「「「「まぁ、ユースはモテていたけど」」」」


 当然だろう。侯爵の嫡男。次期侯爵。ローレス都の次期領主。

 四人に比べれば天と地の差だった。



 五年間に渡り、俺達は学生生活を楽しんで卒業した。その話しは割愛。

 ユースは卒業後から国政の重要なポストについた。

 俺達四人はそれぞれ領地に帰り、父から領地の仕事に就いた。次期領主として勉強と現地より様々な研修を受けた。

 

 この時は、俺は男爵の息子ってだけの存在。平民と対した差はない。次期領主としているが、まだ領地を継ぐ経験が無い為、勤勉にほぼ毎日努めている。


 5年後、父の紹介で、自領内のアドバン商店の娘が嫁ぎにやって来た。

 相手の名はフローラ。幼馴染みの一人だった。

 セキリ国では自由な恋愛も出来る。だが伯爵以上となると貴族の娘を娶り正室にする決まり事がある。

 俺は男爵の息子であるが、まだ爵位はない。

 爵位任命権は王様が持っている。

 まだ父が現役で、領地で指揮を取っているからだ。


 金銭援助目的か、父が決めた相手だった。

 今の俺は爵位がないので自由結婚が出来る。

 が、やはり父も男爵。政略結婚だろうか?

 断る理由も無かった。


 美人にも見えるが、まだ可愛いに見えるタイプ


「フローラです。末永くよろしくお願い致します」

「ええー、フローラまじか?」


 小さい頃はこの領を出て、商会を大きくするって夢があったはず。

  

「フローラ……いいのか?君の夢があったはず」

「……」(断れるわけないじゃない)アイコンタクトで察した。

「よろしくな」(すまんな)


 ……まあ、普通はこんなことをいきなり言われればそうなるわな。

 貴族の結婚なんて、親が決めてくるのが常識みたいなところがあるし、仕方ないと諦めるしか無い。


 結婚したら今までと違う世界に身を置く事に

なる。

 この先の事も視野に入れ貴族婦人の教育を受ける事になるが、その覚悟して嫁ぎに来たのだろう。

 

 俺はフローラとの生涯を大事にして、必ず幸せにすると決めた。

 こうして俺は結婚した。


 婚約披露とかはない。身内、友人内ですませた。現爵位持ちならせざる負えないが、まだ男爵の息子なので、いや金が無かったのだ。


 結婚翌日からフローラの行動は早かった。

 半年間は勉強時間を設けたのだが、貴族教育を学んでいたのか、習得予定より速く済ませて、二人の時間を作った。

 生活に必要な日用品などはリサイクルしたり、中古を買っていた。


 本来ならば年頃の女性の流行りの服装を着飾ったらり、二人デートで店に行って食事したり、買い物する事だろう。


 だが貧乏貴族、その余裕は無かった。

 二人して領地改善に翻弄する日々だった。

 でも家族との仲は良好で、事故も病気も無く、ワイワイと暮らしている。


 この日、ローレス都でブレイン侯爵が真珠の価値を発見し、加工、販売するようになった。

 その情報を聞き、どんな物かを知った。

 俺は領地内で働いて少なからずお金を貯めていった。



 そして、"どうしても成し遂げたい事が出来た"



 翌年には息子が産まれた。難産だったが母子ともに無事だった。


「あなた、私達の息子よ」

「ああ、可愛い息子だ。よく無事で良かった。」

「名前決めないとね」

「名はリュウだ。東方でドラゴンをリュウと呼ぶらしい。ドラゴンのように強く逞しく育つように、それにカッコイイじゃないか」

「あらら、私も考えたのに〜。でも賛成よ」


 その後、両家一家で祝われた。アドバン商会からもお祝いの品をたくさん貰った。


 そんな感じの日々で和やかに時が過ぎていったのだった。

 


 〜〜〜

 そして今、一つの真珠を手に領地へ帰った。

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