第23話 ボックス席の悪戯と悪魔




 出発しかけていた電車にギリギリ乗れて、しかもBOX席に座れた。疲れた足が悲鳴を上げていたからホントありがたい。

 カイと僕が隣り合わせですわり、竹川君と和泉さんは少し奥の方の席に隣り合わせで座った。意外と二人って仲良しだな~。


「ふぅ…乗れた乗れた。もうこれで京都駅まで座ってるだけだね」

「いやぁ…疲れた。あのさ、さっきなんで『なるほどね』とか言ってたの?」


 安心しているところに、そう、話を蒸し返された。


「…え…いや…」


 え…えっと…それは…。

 言えない、言える訳がない、言うなんて事出来る訳はない。

 …実は、タピオカを飲んで噎せた瞬間、口の中のタピオカとミルクが容器に戻ってしまったのだ。

 いや、その時は噎せてて気にもしなかった。忘れていた。

 そして…カイが飲み始めてから気付いた。

 つまり、間接キス以上にとても濃密な接触を僕らはしてしまったということだ。


 きっと竹川君も和泉さんも気付いているんだろう。恥ずかしいぃ…。


 きっと言ったらカイに痴女扱いされちゃう…黙っていよう。

 でもなんて誤魔化せば…もし『何でも無い』って誤魔化しても、カイが竹川君たちに聞いたら、竹川くんが言ってしまうかもしれない…。


「じ、実はね…」

「うん…」

「あのタピオカって何で出来てるか知ってる?」

「タピオカはタピオカでしょ?」

「いや、黒いやつ」

「あ~あれね、それがどうかしたの?」


 …全国のタピオカ好きの皆さん…ごめんなさい。でも僕がカイに嫌われないためなんです…。

 僕の応えを待ってるカイの耳に口を寄せる。ちょっとビクッてするあたり女慣れしてないんだな、と思った。


「あれ、蛙の卵が原材料なんだよ」

「え?」

「皺があるでしょ?あれ細胞分裂の途中」

「う…うそ…」

「ホント…」

「いや、でもそんな知っててミナは飲んだの!?」


 …っ。このやろうっ、次から次に誤魔化さなきゃいけないこと増やしやがって…。

 これを肯定すれば僕は変人だ…いや、タピオカJK皆が変人だから変人じゃないけどカイが他の人に教えるかも知れない。

 このポンコツは騙されてるけどいずれ嘘とバレてしまう…。


「アハハハハッ、そんな訳ないだろ?蛙の卵が入ってるかも、しれないって事。安心しな、今回のタピオカは大丈夫だから」

「…よかった…。けどさ、その限定法をどうにかして欲しいんだけど。じゃないと一生タピオカ飲めないよ」

「ハハハッ、サァ?どうだろうね」


 これで…一難去ったか。うん、よかった。

 そう思ったもつかの間、カイが口を開く。


「あっ、もう一個あった」


 おい嘘だろ!僕そんなにフラグ立てたかい!?回収するべきフラグ多くない!?絶対これラノベだろ!作者居るだろ!日常生活にこんなフラグ立たないからな!?

 ※さぁ?どうでしょう?


「な…何?」

「小春に叱られて横断歩道渡った後『なんでもない』って言ったじゃん?あれは何かあったの?

 できれば教えて欲しいんだけど…」


 カイは遠慮がちに顔を歪めて頬を掻いている。…あぁ、アレのことか。なぁんだ、たいしたことない。


「小春のあの程度のドス声でビビってるカイが可愛いな~って思っただけだ…?…ぜ…?」


 待て、待てよ?何かが引っ掛かる。

 言ってから気付いた。…何僕は相棒の事を『可愛い』とか言ってるんだよ!オカシイだろ!


「っ!別にビビってねぇしっ、ちょっと怖かっただけだし!」

「ち、違うっ。取り消しっ、今の無しでっ。別に可愛いとか思ってないからっ!」

「う、うるせぇっ…。…は?…いや、今なんて?可愛い?おいミナてめぇっ!ガッ…」

「ウゲッ…」


 瞬間、頭の中に火花が散った。痛い、頭頂部が凄く痛い。


「おい馬鹿共、電車内では静かにしろ。

 あと、私達は仲のいい、友達だ?」


 小春…あんた何言ってるんですか…。そう返そうとした瞬間、ドスの効いた声が僕の心臓を縮み震え上がらせる。


「そうだよなぁ?」

「「は…はい」」

「今のげんこつは友達のお巫山戯で、教師の体罰じゃない」

「「はい…」」

「夕食後に私の部屋に来い」

「「はい…」」


 小春の背中が遠ざかる、竹川君と和泉さんがこちらを覗いて、ニヤついていた。助けろよ!酷いじゃないか!


「君のせいだからな…」

「いや、ミナのせいだ」

「いいやっ、君の…」


 瞬間、小春が振り向いた。つい1時間前に小春に叱られたカイを笑ってごめんなさい…。

 謝罪して訂正します…怖い。


「…休戦協定だ…というか普通に仲良くしようぜ?」

「そうだな。ん…」


 差し出された手を握る…ふっと心が穏やかになって眠気が僕を包んだ。

 気がついたら、京都駅の手前まで既に来ていた。





「…っ!?」


 京都駅到着まであと3駅。気付いたら寝てしまっていた。

 いや、そんなことはどうでもいい。今、僕が気にしているのは、繋いでいる手だ。そして、動かせない肩。


 ラブコメかよ!なんで肩に頭乗せ合って手なんか繋いで寝てるんだよ!

 ※ラブコメです。


 うるせぇ人の人生をラノベ扱いするなっ!

 で…確か…あぁ、寝る寸前に握手はした気がする…休戦協定だっていって握手したんだ。

 でも…そのまま寝るかよ!しかも二人とも!


「…マジでどうしよ…」


 ミナの髪からいい匂いがする。昨日の旅館のシャンプーだから一緒の匂い筈なのに、僕とは違う匂いがした。

 女子の甘い匂いだ。


「…ん…」


 落ち着くんだ。大丈夫。

 ここでミナを起こしてしまえば嫌われてしまうかも知れない。

 …なんで嫌われたくないんだ?…いや、うん、フツーに。フツーにいい相棒だから嫌われたくないだけ、それだけだろ。


「…んん…。や…」


 寝言だ、これは寝言だ。決してエロいことをした時に女性が言う『や…』じゃない。興奮するな馬鹿者。

 BOX席とは言え隣のBOX席から丸見えだぞ…。


「…」


 ゆっくり、握っていた手を離す。

 ふぅ…大丈夫。ゆっくり…腕を抜けば…。


「っ!?」

「…や…いっちゃ…や…」


 ぎゅっと腕を捕まれて、そのまま胸の中に引きずり込まれる。

 …っ!?や、柔らかい!ミナなのに!?柔らかい!


「…ぇ…ぇと…離して…下さいませんか?」


 かすれ声が喉から出てきたが、反応はなく、ますます腕を掴む力が強くなっただけだった。

 俺はこれに耐え続けなきゃいけないって事なのかよぉぉぉ!


 僕の心の叫びは、誰にも届かなかった。




PS:投稿遅れてすいません。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クラスの僕っ娘ヒロインが可愛すぎる件 ~部室で始まる共同生活~ 小笠原 雪兎(ゆきと) @ogarin0914

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ