第22話 どうせすぐ捨てられるんだろ!?





「ねぇ、小春との遭遇率異様に高くない?」

「ストーカーでもされてるんじゃない?」


 …集団の中、圧倒的一人だけ場違いな男、それが僕。


「…あのさ…このお店の裏回ってみてもいい?」

「なんで?」

「…皆写真撮ってSNSに上げるだけ上げてポイでしょ?その惨状を見てみたい」

「それはホントに一部だからっ」

「…だって…みんな太るから飲まないって聞くよ?」


 その瞬間、周りのJKの動きが止まった。

 怖いっ!みんな太るって言葉に敏感すぎ!


「僕も初めてなんだよっ!ちょっと飲んでみようぜって!」

「…あのさ…男って僕だけじゃない?」

「いいだろっ、和泉さんは飲まないって言うし!竹川君は絶対拒否するし!」

「ひとりで飲めよ!」

「…怖いんだよ」


 一瞬、視線を逸らして気まずそうにそう言った。その時、僕等の番が来る。

 そう、僕はタピオカを買うために並んでいたのだった。


「…抹茶タピオカ1つ。ストロー2つでお願いします…」

「はいっ、700円お願いしま~す!抹茶タピオカはいりました~」

「…」


 不覚にも、不安がるミナが可愛いと思ってしまった。別に惚れて駄目な訳ではないが、恋は辛いからしたくない。


「はい、抹茶タピオカです。どうぞ~」

「ありがとうございます…」


 もらってすぐ、その場から逃げる。竹川と和泉さんは奈良公園で遊んでいるらしい。

 道ばたの石段に座ってストローをミナに渡した。瞬間、この先の想像図が頭に浮かぶ。


「あのさ…ストロー二本あるのはいいよ?でもどうやって飲むの?」


 ストロー二本差しをしたら飲むときに互いのストローに顔なり目なりが当たってしまう。

 流石にそれは衛生上イヤだ。汗いっぱい掻いてるし、申し分けなさすぎる。


「…っ…、別に僕は気にしてないから…ん…」

「え…?」

「…別にか、間接キスとか気にしてないし?…2…いめ…だし?」

「…」


 絶対に気にしてる人の言い文句だ。ホントに気にしてないなら僕を煽ったりしてくるはずだ。


「嘘つけ、気にしてるくせに…言い方が気にしてる人間以外の何物でも無い」

「…ふぅ…なんてね。君は馬鹿かよ。間接キスなんて気にする訳がないだろ?相棒、それとも君が気にしてるのかい?」


 なっ…ミナはため息を吐くと、そんないつもの調子でしゃべり出した。

 まさか…気にしてないって言うのかっ…!そ、そんな…これじゃ僕が異様にミナの事を気にしているみたいじゃないか!

 ※その通りです。

 うるせぇ天の声!


「え…いや、そんなことねぇよ。ただミナが恥ずかしがるかな~って思っただけだ。じゃ、の…飲むけど…僕先でいい?」

「い、いや!僕が先に飲む!」

「なんだよ!恥ずかしいんじゃねぇか!」


 結局ミナも恥ずかしがってんじゃないか!

 なんでそこまでして間接キスをしようとするんだよ!僕の事が好きなのか!?

 そんな訳…ない…よな?


 頭に思いついた一抹の疑問、それは今日4回目の聞き飽きた声に吹き飛ばされた。小春が、いた。


「…はぁ…お前らにはほとほと呆れる。何故お前らもここに居るんだ?アカバネェ?」

「っ!このストーカ魔人!来やがったな!」

「なんだその物言いは!そろそろ京都に行かないと時間に間に合わないぞ。

 私はこれから東大寺に残ってる馬鹿たれ共を連れ出しにきたんだ。ほらっ、他の班員は?」

「あ…奈良公園にいます…ほら、ここから見える位置です」


 ギリギリ見えなくもない位置に竹川と和泉さんがいた。よかった、小春に怒られないで済む。

 そう思った瞬間、ドスの効き過ぎた声が耳の中で響いた。


「…班別行動はルール違反だ。早く合流しろ」

「う…うっす…。お仕事お疲れ様っす…」

「早くしろ」


 怖い…めちゃくちゃ怖い怖すぎて、そそくさと退散した。

 その間、ミナはずっと黙ったままだった。

 そして竹川、和泉さんの所に戻る。もう鹿せんべいをばらまき終わったみたいだ。


「小春のドス声を聞いたみたいだな…クラリス、どうしたんだ?黙ったまんまで、体調悪いのか?」

「…あ、いや、なんでもないよ。それよりタピオカ飲んでしまおうよ」

「いや、そのストローでどう飲むかって話してんだよっ」


 絶対なんかあるけどここは無視。言いたがらない事を無理に聞く必要も無い。


「ちょっとそろそろ時間が不安だわ、歩きながらでいいからタピオカ飲んでしまって」

「あ、ごめん。えと…」

「よく分かんないけどストロー二本あるんだったら半分クラリスが飲んでストローを付け替えればいい話なんじゃないか?」

「「パイセン!?天才っすか!?」」


 ミナとシンクロする。思いつかなかった発想だ。


「思いつかないお前らが馬鹿だ」

「そうね、大馬鹿ね」


 バス停に向かいながらまずミナがストローを刺す。


「お先、頂きま~す。…っ!んぐっ…ゲホッ…ゲホッ…」

「大丈夫!?」


 飲んだ瞬間、目を白黒させて噎せ始める。危険な薬でも入ってるの!?

 慌てて背中をさすってタピオカを持ってやった。へへん、僕って凄い紳士。


「あ…いや…大丈夫。ごめん…甘ったるかっただけ。持ってくれてありがと」

「うん、ゆっくりでいいからね?」


 タピオカをミナに返す。ミナは吸いながら嬉しそうに頬を緩めた。


「甘くて美味しい…あ、ちょうど半分だね。ごちそうさま」

「もっと飲む?」

「いや、いいよ。割り勘で買ったやつだから。」


 ミナのストローを抜いてゴミ袋に突っ込み、今度は僕のストローを刺す。

 さっきまでミナが飲んでいたタピオカだと思うと変な気分だけど…別に間接キスでもなんでもない。


「頂きま~す」

「…ハッ…」


 口を付けて飲み始めた瞬間、ミナが息を呑む。視線で問うと、なんでもないと首を振った。


「ん~甘ったるい、けど美味しいね」

「そ、そうだな…」


 顔を真っ赤にして視線を逸らした。なんだろ?ちょっとからかいたいんだけど…。


「あ…あ~なるほどね。クラリスさん、お疲れ様」

「…?…あ、そういうことか」


 突然、二人がニヤつき出す。ミナは下手くそな口笛で誤魔化そうとしていた。

 全く分からない。分からないままタピオカを飲み干し、分からないまま奈良駅に着いていた。


「ねぇ、なんの事だったの?」

「さぁ?なんでしょうね」

「なんだろうな?」

「な、なんでもないよ?」


 そしてつい数時間前のように三人とも僕を虐めだした。

 僕は気づかない、このタピオカの中には……。



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