第3話 図書室ランデブー③
たまみの聞いた『姫の悲鳴』というものには、実は少しばかり心当たりがあった。
否、心当たりというより、誤解を生むならこれしかないだろう……という、私の心のなかに潜む秘密が。妙に引っかかって取れない。
私はあの夜、アンチスレを覗き見ながらイライラしていた。私がヒステリックになるのはいつものことなので家族は気にしていない。その日、私のアンチスレではいつもの如く下らない悪口影口噂話と女の嫌なところがひしめき合った、そんな空気が流れていた。
知らない誰かの悪口など気にしていない。だが、たまにポッと灯のように浮かんでくる信者の声が私は好きだった。SNSを辞めないのも、信者の女の子たちがいるから辞めないし更新を続けるのだ。
『佐々森めいりは、喫煙者。それを隠すために歯医者に通ってホワイトニングを欠かさない』
『ssmrが喫煙者ってマ? それって明るみに出れば、アイツ消されるんじゃね?w』
『ブスなうえに未成年で喫煙者って笑えねー、でも佐々森の性格悪そうな顔にはお似合いw』
『佐々森めいりは学校でも喫煙している。飲酒もしている。○○女学園では有名』
『ssmrはエンコウしている、でなければあんなブス雑誌で使わない』
『枕営業かよ、乙』
『佐々森めいりは幼稚舎から通っているから学園でも教師に優遇されている』
『高校生読者モデルが喫煙。拡散希望』
『てかロリィタモデルとかキモw どんだけ金使ってんだかw』
『明日からssmrmir観察するわ。証拠掴んだら写真で脅そう』
まるで蟲毒のようだ。悪虫がひしめき合って、うじゃうじゃしている。
この日一番引っかかったのは、私を喫煙者と決めつけ学校名までバラしているだれか。誰なのかは分からない。こういうのは身近な人間かもしれないし顔も名前も知らない誰かなのかもしれないから何とも言えない。
「くそがっっっ!!! お前らになにが分かるんだっっっ!!!」
手元にあった何か……いつものことなので思い出せもしない……をなぎ倒し、その音が酷く空しく響いたのは覚えている。
確かに私は、あの日、とても苛立っていた。
得体のしれない誰かよりも身近な、佐々森めいりと同じ学校に通っている女子がリークしているのだ。学校名と喫煙は本当なのだ。エンコウや枕営業は全くの嘘だが、噂が流れているのは否めない。
私には親しい友達などいないので、全く見当がつかない。だからこそ、不気味で、その悪意がありありと感じられた。気持ちが悪かった。……やるせなかった。
私はブスではないしむしろ美しい、そして当たり前のように体形にも人の何倍も気を遣っている。歩いていたらスカウトされて読者モデルになった、ので決してコネではない。
なのに。どうして人は私に辛く当たるのだろうか。
一部の人間なのは分かっている。しかし、このご時世悪意が露見するのは当たり前なのだ。ちょっとばかし調べれば、そんな悪意は容易に引っかかる。
たまみの言っていた、私の悲鳴とやらは、きっとこのヒステリーのことだろう。多分窓のそばにいたから余計はっきりと聞こえたのかもしれない。
「金剛さん」
「およ? なんですかめいりどのっ」
「わたくしは決して弱音など吐きません。あなたの勘違いですわ。……心配してくれるのはありがたいですけれど、このように騒ぎになってしまっては元も子もありません。わたくしは静かに暮らしたいのです。……分かって、くれますよね?」
「はいっめいりどのっ!」
そう元気よく答えるたまみ。
そしてびしっと敬礼のポーズを取る。
「めいりどのの生活は、たまみがお守り致します!」
「はぁ」
「悪の組織からお姫様をお守りするのがたまみの使命なのですよ!」
「……だから、お前が邪魔だっつってんだろ!」
「およっ!? どうしましためいりどの!? たまみ、なにか怒らせるようなことを……」
「お前みたいな頭イカれてるやつがわたくしに付きまとうなッ! わたくしの視界に入らないでくださいましっ! 金輪際邪魔もするな、馴れ馴れしくするな、近寄るんじゃない!」
「め、めいりどの……」
「それでは、失礼」
課題のテキストを手に取り、わたくしはエスケープ致しました。
たまみが後ろでなにかを喚いています。が、わたくしにはなんの関係もありません。
わたくしの人生に、金剛たまみというものは必要ないのです。
私が死ねと言ったら死になさい! 六条さかな @rokujyosakana
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