私は、諸事情により、本作の読了に時間が掛かってしまいました。
先ず、連載が始まったのは昨年令和二年九月、完結は十一月と、毎日の真面目でこまめな更新で達し得た十四万文字もの大作です。
サブタイトルをご覧いただければお分かりになると思いますが、にしんの一から四、かくげんの一から四と言う風に、章立てをしないでさり気なく一話のものもあわせて十四に区切っております。
次に、主人公の若蔵竜弥くんが地方の駐在所で警察関係者からのパワハラを受けることもありながら、何とあやかしとは既知の仲だとも言うのです。
本作で登場する主だった脇役ですが、守塚彩芽さんがとても魅惑的です。
竜弥くんの親切心を世の中がそれ程性善説に満ち溢れてはいないと言う趣旨を伝えるのですが、彼はあたたかい人柄ですので、中々上手く行かないこともありました。
そして、竜弥くん自身ですが、本来は、制服を着てお仕事をする警察官です。
しかし、一方であやかしとニンゲンのバイプレーヤーを果たします。
あやかし駐在さんとお呼びしてよろしいのでしょうか。
本作で、一大事が起きました。
或る方が、どうにかなってしまったようです。
その方を巡って、方々であやかしと出会い、また、彩芽さんや馳大くんに助けられつつも二人の不思議にも触れて来ました。
綿密に練り込まれた構成にうなされます。
作者様の描くキャラクターはいつも瑞々しいのですが、本作では、ストーリーを補完する為に役割を持って動いていると言う感じがいい意味でいたしました。
キャラクター文芸的作品だと思いますので、そのジャンルのコンテストへ参加な
されては如何でしょうかと言うのは、個人の見解です。
社会派の要素も含まれております。
仕掛けられたバロメーターで、私の心は上がったり下がったりと折れ線グラフになりながら、ドキドキしながら拝読することになるでしょう。
今後、別作品の未来篇、タイトルは異なると思いますが、それを拝読できますならば、竜弥くんと彩芽さんに馳大くんのその後も知りたいですね。
もし、過去篇でしたら、出逢いを知りたいと思います。
個人的には、彩芽さんに興味がありますので、掘り下げて欲しいと思いました。
あやかしや人間模様に機敏な話をお好みの方にお勧めです。
それから、広島の方言大好きな方には、これは垂涎です。
是非、ご一読ください。
人と違う部分があって『普通』の輪からはみ出てしまうと、自分のあるべき姿や居場所を上手く見定められなくなりがちです。
本作の主人公・竜弥くんも、そんな青年でした。
幼い頃からあやかしを見ることができた彼は、警察官という職に就いていますが、どうにもしっくりきていない様子。
ある日、相談を持ちかけてきた付近の住民にあやかしが憑いていたことで、人生を揺るがす事件に巻き込まれていきます。
大人と子供、人間とあやかし。常に何かの境界線上にいる竜弥くんの側には、二人の頼れる大人がいます。
謎の占い美女・彩芽さんと、神出鬼没の伊達男・馳大さん。
何となく不思議な印象の彼らと共に「警察官として」事件を追う先々で、ちらちら見えるあやかしの影。
人間の本性を映すあやかしたちに触れるうち、竜弥くん自身の真なる心が見えてきて……?
心理描写がとにかく丁寧です。
竜弥くんの生い立ちや周囲の人間模様にリアリティがあり、そこへあやかしが入り込んでいるのも彼目線として自然でした。
彩芽さんや馳大さんとの関係が素敵で、この二人は特に魅力的です。
数十年前の日本という時代の舞台も、現代とは違う良い味がありました。
あやかしだろうと人間だろうと、相手とどう関わるのかは、自分自身の在り方次第なのだなと思います。
さまざまな悪意や善意に触れ、竜弥くんがこの先の人生をどう生きるべきか心を定めたラストは、清々しくて前向きな気持ちになりました。
しっかり作り込まれた、あやかしヒューマンドラマ。面白かったです!