宇宙クジラ

チタン

第1話

 真っ暗な星の海を宇宙クジラが泳いでいく。

 悠然と、荘厳に、粛々と。

 惑星ほしを、太陽を、銀河を超えて。


 彼の主食は鉱物だ。その太陽すら飲み込めるほど大きな口で、星々を喰らい自らの糧とする。


 今日の食事はアステロイド・ベルトだ。無数の小惑星をその夜空のような体内に取り込んでいく。


 そして彼は時々、潮の代わりに背中から小惑星群を吹く。

 今日は先ほど飲み込んだアステロイド・ベルトの残骸を宇宙に向かって吐き出していく。

 その星々の残滓は遥かな宇宙の旅に出る。この小惑星群が降り注ぎ、粉々になった惑星は数知れない。

 けど、そんなことを彼は意にも介さない。


 彼は宇宙に向かって鳴いた。

 その声は大気の振動ではなくγ線バーストだ。

 矮小生物にはおよそ理解が及ばない声だが、それは矮小生物で云うところの'欠伸'にあたる行為だった。



  ♢♢



 ところで地球人の君に一つ話をしよう。

 なに、大した意味はない。ほんの世間話さ。

 今、僕は君たちの星から遠く離れた場所から、君たちの星を見ている。


 一つの例え話を聞いて欲しい。

 例えば君が道を歩いているときに、気付かずに小さな虫を踏み付けてしまったとする。

 君にはそんなつもりはなかったんだ。けど気付かなかった。わざとじゃないし、仕方のないことだ。

 虫は体をグシャリと潰されて、苦しむ間も無く死んでしまった。

 けど、君はきっとそんなことには意にも介さない。そもそも気付いてもいない。

 死んでしまった虫は君を怨むことをできないし、そもそも人間きみのことを認識出来てさえいないかもしれないね。

 けど、それが自然の摂理なんだ。


 もうすぐ地球に小惑星群が降り注ぐ。

 宇宙クジラが吐き出した星屑たちさ。

 君たちは死んでしまうだろう。なんでそんなことになったのか知りもせずに。

 けどそれは仕方のないことだ。

 だってそれが自然の摂理なんだから。

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宇宙クジラ チタン @buntaito

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