境界のまにまにゆられて
渡利ちさ
第1話 高機能型境界性パーソナリティ障害
「ボーダー」だったらしい。私は。
生まれてはじめて心底から軽くなって、しばらくたったころに
ふと聞いた。
「境界性パーソナリティー障害」
「境界性人格障害」
通称「ボーダー」
一昔前に「境界例」などとも言われていたもの。
「あの人、ボーダーじゃないのかな。見てたらそう思うんだよね」
「え、なにそれ」
「うちの姉がそうでさ、ビリーミリガンを読んだ時に
最初は本気で多重人格を疑ったんだけど…知らない?」
「うん?ちょっと調べてみるよ」
こんな友人とのやりとり。
ー衝撃が走った。
そこに書かれていたもの。
調べれば調べるほど過去の私だった。
ずっと自分が狂っていると信じ込んでいた。
それからの私は夢中で境界性パーソナリティー障害について調べることになる。
やはりどう考えても、これだったとしか思えない。
それから本当に三日間熱を出して寝込むはめになった。
ショックとうれしさ
過去のことが竜巻のようにぐるぐるとまぶたの奥でかけめぐり
あっというまに脳内容量オーバー。
要は大人の知恵熱だ。
しかし、の部分。
医学的にはどうなんだろう。
特にこだわりがあったわけではなく単なるギモンが浮かぶ。
よくいう「グレー」ということなのかもしれない、と
私なりに可能性を広げてみた。
心の方向はどこをどう調べてもコアな部分はまったく同じ。
だけど私の場合はわかりやすい自傷行為もしないし
ある一定の人の前でしか症状がでない。
精神科にはお世話にはなった経験はあるが
こういう話が通じるとも思えなかった。
概念として、心の方向としての「ボーダー」
私にはこの方がわかりやすいかもしれない。
そんなことを考えていた矢先に
「高機能型」のことを知った。
まんま、私のことだと思ったが
ざっと見たところ「まだまだ研究が進んでないらしい」とのこと。
だったら、ちょっと書いてみよう
そんな気になった。
幼少のころから
生と死を意識していた。
なのに日々をどう過ごしていいのかずっとわからなかった。
なにをしても怒られる。
なにもしないと怒られる。
違うかたちで、ほめられたりすることもあった。
それらがどう違うのか、実際の私にはいつも理解できないままだったが
求められているものに気づきはじめたころからきっと狂っていった。
たとえば、朝起きる、学校へ行く。
たったこれだけのことでさえ。
見渡せば他の人はそれをこなしながら
なおかつ、笑っていたり楽しそうにしている。
劇団の演者のように私の中ではそれをみんなが口に出さずに
がんばってしていることだと思っていた。
朝起きて日常を過ごして夜に眠る。
そんなちいさなことも、私には毎日のおおごとであったし
できたときの方が少なかったかもしれない。
けれど他の人もみんなそうなのにがんばって
いわゆる「日常」をこなしているんだ。
だから私もがんばらなくては。
そう考えていたことに、今、言葉をかさねられる。
この世に生まれて
生まれつきの感覚が他の人と大きくちがっていた。
それに気づくものだったとさえ感じる。
逃れたくても逃れられないから雨宿りをせざるを得ない。
その寄り道がいつのまにやら精神疾患の入り口になった。
自分でおかしいと気づいたもの、そうでないものもきっとある。
それでもそういうものだとずっとずっと勘違いしたまま
見えない大嵐の中をあるいていた。
「高機能型境界性パーソナリティ障害」
未診断、未治療のうえに
治りづらいと言われるそれらが治っていると今私は思っている。
あの夏の夜中に突然
私のすべてがひっくり返ったような体験をした。
喜びにとても似たものが体中をかけめぐった。
そのときから私の中でのものの見方や受け取りかたが
ぐるんと変わり、この世での私の一部分の世界で
ずっとあがいていただけだと思い知った気がした。
ソースなんてあるわけがない。
だから「持論のみ」という体で展開していこうと思う。
少しかわった人がなにか言っている。
それぐらいで読み流してくれたら幸いです。
私のあしあと。よろしければお付き合いください。
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