第3話 療養
後に兵器となる子供達が交流の場として昼間過ごす、とても広く白くて無機質な部屋
そこで私は部屋の隅で1人、積み木を積み上げては壊してを繰り返していた。時々、力の加減ができなく掴んだ積み木をへこませてしまう、そうした時は周りに捨て、別の積み木で積み上げる。
何も考えず何も感じずに、ただ部屋を移動するまでの時間を潰すための作業。
感情があまり豊かでもなく、力があるがまだ幼く制御しきれず、怪我をおわせやすい火力型もである私の周りには人が寄ってくることは少なかった。
別に1人でいることには何も抵抗もないし嫌でもない。でも、ある日…
「ねぇ、何やってるの?」
サリアが話しかけてくれたんだ。
「別に…時間を潰しているだけ」
見向きもせずに積み木を積み上げながら、単調な声で話す。
「じゃあさ、私と一緒に絵本読まない?まだ文字が読めないところがあって教えてほしいんだ!あなた文字読める?」
身を乗り出し、背中で隠していた透明な板を私に見せるように前にだし、データを表示させる。
「…絵本くらいの文字なら読める、それで時間がつぶせるなら構わない」
サリアは私の左にひっついて座り、2人で見えるように絵本を置く。
そうして私は文字を読み上げ、サリアはページをめくりあげるのいう役割分担で絵本を読んだ、
『昔、ある村に心優しいピエロがいました。
ピエロは毎日広場でジャグリングなどの練習をしており、村の人も時々足を止めてピエロのパフォーマンスを見て楽しんでおりました。
この地域では冬になると食糧となるものが無くなるのでお冬を越す準備をしなくてはなくそれはお昼時しか行うことができません。
ピエロが今日は練習をせずに冬の準備をしようとすると、村の1人が「今日は見せてくれないのかい?」と寂しがります。
心優しいピエロはそんな顔を見たくなく冬の準備は後回しにしてパフォーマンスをしました。
そのようなことが何回も続き、ついに冬が来てしまいました。
当然準備をしていなかったピエロは食糧がなく村人に少し分けてもらうようお願いにいきます。
しかし事情も知らない村人は「冬の準備は自分ので手一杯だ、それに準備もせず遊んでいたピエロが悪い。」と口を揃えていいます。
何も食べるものがないピエロはついに死んでしまいました。』
確かこんな感じの内容だった。
心優しいピエロが損をし、死んでしまう物語
今思えば統率力や残忍さを高める絵本ばかりだったがサリアは熱心に私が読み上げるものを聞いていた。そして次の日、また次の日もサリアは絵本をもってきて2人で絵本を読んだ。
「…どうして毎日私と絵本を読んでるの?」
サリアの方を向いて問いかける。初めて目線を合わせてくれたことに笑みを浮かべ、答える。
「えーとねっ、文字を早く覚えたいのもあるけど、あなたの声が大好きだから!あなたの声は透き通っていてきれい。聞いているとね毎日やなことがあっても忘れちゃうんだ。それだけじゃないよ、真っ赤な水晶のような目も赤みがかかってて絹みたいな柔らかい白い髪も他の所も含めて大好き。だから一緒にいる機会がほしくて毎日絵本持ってきているの。だめ…かな?」
サリアは首を傾げてながら言う。
そして私は首を横に振った。
「別に……前言ったけど時間が潰れるなら私は構わない」
そう聞いたサリアは嬉しさでその場を飛び跳ねる。
「ほんと!?よかったぁ、そういえばあなた名前なんて言うの?」
「…No86」
「ちがう、番号じゃなくて名前!」
サリアは首を振り、口を尖らせる。
「そんなの、私たちには必要ない…」
無表情のまま、わずかに目線を下げる
「必要あるの!…ほら、敵兵と戦闘の時に無線をハッキングされても番号じゃなくて名前なら敵も分かりにくいでしょ?」
両手を床につけ、私の目線にあわせるように顔を動かす。
「……無線をハッキングされるなんて無能がすること」
「いいから、名前がないのなら私が決めてあげる。そうだなぁ…あ、あなたの魔石の名称ってなに?」
ポロリと呟くように答える。
「…火力型Ⅲレドル13-α、ラズルカーロフ」
「じゃあ、あなたの名前はラズルね!」
「…単純では?」
「別にいいの、だって大抵は私達の間でしか使わないし。私はサリアっていうのよろしくねっ!」
サリアはそのままの勢いで私の破壊することくらいしかできない両手を手に取って優しく握り、私に笑いかける。
そしてそこにあるはずのない光を感じ、景色が白いもやで見えなくなり意識がその場から離れていく。
目を開けると少し前に見たことがある、木でできた天井が見える。
体はまだ痛く、それに加え傷による発熱がおきているのか体が熱く、息が荒い。熱を出すなどいつ以来だろうか。
クシアが看病してくれていたのか生温くなった濡れた布がおでこの上にあった。ベットのすぐ隣にある机には木出てきた水桶みずおけがある。
(………夢…か。)
目を閉じ、数少ない幸せの記憶の夢をみた事により懐かしさを感じる。サリアがあの時、話しかけてくれたから3色しか無かった日々にいろんな色が生まれた。
………サリアは本当にこの世界にいるのだろうか、前よりも幸せに暮らしているのだろうか。
もう一度会うことは許されるのだろうか。
懐かしさから一転、もやもやとした不安が心の中を埋める。上半身を起こし、布がぽとりとベットの上に落ちる。膝を抱えながらブレスレットをみつめる。また死ぬことができなくなり、罪を他の人を救うことで償えと言われても破壊しかしてこなかった自分にできるとは思えない。
でも許されるのならば…またサリアに会いたい……会って謝りたい…あの頃みたいに笑いあいたい。
これまでの積み重なった絶望による死なないといけないという強迫観念と、生まれたサリアにまた会うことができかもしれないという希望の相反する2つの感情が胸の中をぐるぐると回り、張り裂けそうになる。
発熱の息苦しさもあり息がさらに荒くなり、額に汗が滲み、目がぼやけ、座るのもきつくなるくらい頭が重くなる。
すると突然ドアにある上側の扉が強い風により内側に開く。
その風が耳に届くと共に息苦しさが和らいでいき、そして子供の声が聞こえた。
((まだ、あんせいに、してないと、だめ、))
いつの間にか、8歳くらいの私と同じく耳がとがった薄い黄緑色の長い髪を持っており、白いワンピースのようなものを身につけている少女がベットに手をつけて立っており、こちらを心配そうにする顔をして、私の顔を覗き込んでいる。
そして、ベットの上にのり、私の前に倒れている肩を掴む。私は振り払うために身を捩ろうとするが体が熱により思うように動かず、その少女のされるがままに上半身がベットの背にもたれる。
私の具合の様子を見たあと、ベットの横にある水桶に両手を突っ込み、中にある白い布を外にだし手を震わせながら絞り、その布を持って再びベットの上にのり、今度は私の額の汗を拭く。
何分か経った後に、ガチャりとドアが開き、皿載せたお盆をもったクシアが部屋に入り、私へと歩み寄る。
先ほどの少女はクシアに気づくと姿が解けるように消え、どこからかきた風がクシアの方に向かい、クシアの後ろの方から同じ少女がこちらを覗き込む。
少女が持っていた布はいつの間にか水桶の縁にぶらさがっていた。
息がしやすくなったおかげか思考が戻ってきて初めて見る黄緑色の長い髪の少女が何者なのか考える。何かの力で姿が消えているようではなく少女が風に溶けているような、もともと風であったかのようにも見える。
「エルルがこの部屋に飛んでったと思ったら起きてたのか、お主9日間も眠ったままだったのだぞ?」
クシアはベットの横まで来て、バケツが乗っているのと同じ机にお盆を置くと少し心配しているような口調で話した。
私は肩をすくめ、体にかけてある布団に手の力を少し入れる。
「申し訳、ありま、せん……」
謝罪したあと、先程の謎の少女のことを見つめた。その視線をクシアは気付きエルルの方に視線を向ける。
「あぁ、まだ紹介していなかったな。こいつはエルル、第4ヴィールの風の妖精だ。エルルには私の補佐をしてもらっておる、こやつは人見知りをするが優しくて世話好きだ。お主が寝ている間、こやつも看病していたのだぞ?そうだ、お主は妖精という言葉はしっているか?」
クシアは簡単な紹介をすると、恥ずかしそうではあるが私に向かってぺこりとお辞儀にした。
ヴィール…?、妖精はたしか絵本で読んだことがあるような気がする。妖精達が湖の上で踊っているのが印象的だったのを覚えている。妖精など仮想上なはずだが…。
「言葉だけは…知って、ます…」
「そうか、この世界には妖精が沢山いる。むしろ妖精がいるからこそこの世界は存在できているんじゃ。火、水、風などの属性が妖精1匹に対して1つどれかの属性をもつ。自然現象いや、自然そのものが妖精とその数に密接に関係しておる。風属性の妖精が多い地域では強い風が吹き、少ない所では自然現象では風は吹かない。各属性の妖精はある地域ではいないというのはまずなく、少なからず存在している。もしも、存在していなかったとするとそれに纏わる現象も存在しないことになのだ。妖精は主に第1《エト》、第2《ヴィラ》、第3《レル》、第4《ヴィール》、第5《フェレム》、5段階で分けられておりその数が高いほど個としての自我をもち、数としては第1《エト》はそこらじゅういるのに対して、第4《ヴィール》はこの世界に100いるかどうか、第5《フェレム》に関しては1桁しかいない。その段階によっても………、なんじゃ人が話しているというのに」
とクシアが話している時にエルルは口を咎させながらクシアの服の裾すその部分の引っ張っている。エルルからまた風が起こり、風にのり声が聞こえる
((はなし、ながすぎ、それは、あとでいい))
「そうか?…まぁよい、詳しい話は後々話そう今は風を操る少女とでも思っておればよい。長く睡眠してたからお腹が空いただろう、久しぶりの食事だ、いきなり固形の物を食べると胃の負担になるだろうからスープを作ってきてやったぞ。」
そう言って、クシアはスープというクリームに少しグレーの液体が入ったお皿をもち、なぜか自分でスプーンでスープをすくい息をふきかけ少し冷ましスプーンを私の口に近づける。
自分の口に運んでいないので毒味をするわけではないようだ。一体、何をしているのか、何をしてほしいのかが分からずクシアの方を見つめる。
「ほれ、さっさと口を開けんか」
口を開かず、ただ見つめる私に言う。
何をしてほしいのかが分かって行動しようとするが、何かを口にすることは生きたいとする行為そのものであり、毒物が混入している可能性のある得体の知れない物ばかりの物を安易に食べようとすることを心の中の私が拒む。
「い、いりません…」
私は目を逸らし、首を振る。
その様子をみたクシアは私に差し出されていたスープが入ったスプーンを自分の口に運び、私の目の前でスープを飲んだ。
「このスープには毒物は入っておらぬ。お主に毒物を飲ませてもお主を治療している儂にはなにも利益がないじゃろう?さぁ、早く食べぬか」
クシアは再びスープを冷まし、私の口の前まで運ぶ。
それでもまだ口を開かない私にクシアは再び口を開く
「作った料理は食べなければ廃棄するしかなくなる。私は食材が無駄になるのが嫌いだ、ほら、作ったものを食べるのも手伝いのうちだぞ?」
手伝いという単語にピクリと体を動かし、先程の私とは真反対の私が湧き上がった。恐る恐る口を開けスプーンに口をつけ、口に含んだ瞬間いつもと違う味に驚き、目を見開く。
生前に食べていた無機質な味ではなく、単調な味なことには変わりないが新鮮な塩分がスープの中にぽつんとあることを舌で感じることができる。ただの液体だと思っていたが何かをすり潰した舌触りもある。そして胃がそれを欲しているのを感じ飲み込む。
「ほら、まだまだあるぞ」
味に浸っていて気づかなかったがクシアは既にスープをスプーンですくっていて次に口にするものを準備し終えていた。
長い間食をしていなかったことに加え、初めての味があるものを入れた口には唾液が溢あふれ、次はまだかという頭の要求を体では表現せず、無言のままだが、そのまま行動し、再びスープを口に入れる。
その後もクシアが掬うスープを飲み、全て飲んだ時にはお腹がいっぱいとなり満足感に浸っていた。
「食欲はあるようだな、まだ熱があるからベットの上で横になって安静にしておれ、すまないがしなければならないことがあるのでずっとはここいることができないんだ。また食事の時間が来た時に食事を持って会いにいく。」
と言って微笑みながら、私の頭をくしゃっと雑に撫ででから部屋の外に出ていく。
部屋にはクシアと付き合いが長いであろうエルルと呼ばれているよく知らない少女と私だけとなった。
ふと体が、私から離れてゆくクシアに手を伸ばそうとしているのに気づき、重力に従い手を下ろし元あった位置に戻す。
エルルという少女が再びベットに近づき、ベットに手をのせて床に膝をつき、上目目線で私を見ると再び風が起こる。
((いき、もう辛くない、?ちょうせつ、できてる、?))
調節?、先ほどの急に息がしやすくなったのはこの子のおかげなのだろうか
「…あなたが…してくれたの?」
そう応えると少女はコクッと顔を下に振り、頷き、口角と眉毛を上げる。
((風のながれはもちろん、空気のながれも、ちょうせつできる、))
この子は自身で大気の流れを操れるようだ。先ほどのクシアの説明では妖精の数が多いと自然現象の強さが高まるということだが、自然現象はすべて、その場にいる妖精が自ら行なっているということなのだろうか?その限界は段階別であるのだろうか?
それに、操る際に魔石がもつエネルギーのような力の消費や術式などの展開などが行われているのか、など今持っている情報では理解できない疑問が増えていく。エルルに害はなさそうなので情報を聞き出すのもよいかもしれない。
少女がじっと、こちらを見つめていることに気づき、思考を一旦停止させる。
「ありがとう…ございます。」
そう聞くと、エルルはぱっと笑みを浮かべ、ベットの上に座る
((ベットに、横になって、寝て、))
肩を掴み前に出し、私を横にしようとするが、私はその力に逆らおうとする。
((びょうにんは、ねるの、げんきに、なったらお話、しよ?))
逆らう私を無視し、ぐいぐいと力を入れ、寝かせようとする。
逆らうことを諦め、横に促されるのに従い横になると、エルルが布団をかけ、整えてくれる。そして、ベットの上に座り、頭を撫でる。
撫でる手が温かい。横になっているとすぐにお腹が満ちた満足感と体の疲れで眠気が来て、時間があまり経たずに眠りについた。
人間兵器だった私が異世界で生活するお話 しらつめ @Clcr_27_mel
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