第2話 出会い
黒髪の少女は15歳ぐらいの容姿をしておりシンプルな白い上着に七分丈の黒いズボンを履き渋い深緑色をしたフード付きの長めのコートのようなものを羽織っている、肩にかかるかかからないかの長さをした混ざりけのなく艶やかな黒髪の上半分を赤い細紐で後ろに結っている。私の耳とは違い人と長さは変わらないが横に尖っている耳をしており、魔石が瞳に入っているような鮮やかに輝く銀の瞳をもっている少女が部屋に入ってきた。
「目覚めたようだな、体の調子はどうだ?」
淡々としているが優しさを含んだ口調で少女はいった
意味の分からない状況も加えてか、自分自身の同じく見たことのない容姿をした少女がただ者ではないと感じ、少女のこととこれからどのような行動をとればよいのか思考をめぐらせる。
この少女は何者だろう?帝国軍でも組織の人間でもなさそうだ。にわかに信じがたい今の私の姿が変わったことと何か関係があるのだろうか?しかし、少女には何故か心が安心できる"何か"があり、その銀の瞳は私の心の内を見通されている感じがした。
「そんなに警戒しなくてよい、わしはクシアだ。近くで妖精達が騒いでいると聞いてな、そこに向かったらお主が瀕死の重症をして倒れていたのでな、急いでわしの家で治療しただけよ。とりあえず意識が戻ったようで何よりだ。改造とかそういう趣味はもっとらんのでな、お主に危害を加えることはしていないしこれからするつもりもないので安心してくれてよい。そういえばお主、名前は何というんだ?」
妖精…?知らない単語を当たり前のようにいうことに不思議に思う。
私の素性を知らなさそうな少女に対してここで名前を言わないのは向こうの警戒を買うことになるが正式名称や呼称は広く知られており素性がばれ、兵器だと気付かれるかもしれない
…私の、兵器としての名前ではない名前はひとつだけある。今はもう呼ばれることのない、昔あの子から私の魔石の名前を取ってつれてもらったあの名前が。
「………ラズル、です」
普段連絡事項は通信だけで済ませていて言葉を発することが少ない上に頭が重いせいか、たどたどしい口調となった。
返事をしてくれたことに安堵したのかクシアと名乗る少女は少し微笑み
「ラズルか、良い名前だな。ラズルよ、もう1回聞くがまだ体の調子は大丈夫か?」
「はい……」
「そうか、上手く体に定着できたようだな。だが慣れない体の上にその傷だから完全に回復するには時間がかかるだろうからそれまでは安静にしておれ」
「??」
体に…定着…?組織で思念、いわゆる魂と呼ばれるものの移植,デジタル化の研究が行われていると軽く耳に入ったことがあるがそれは移植は愚かデジタル化も完成されていないはずだ。移植よりデジタル化の方が進歩しているのだが、記憶領域のデジタル化が成功しているだけであり、AIに記憶を追体験させた仮人格の生成は成功しているが記憶が同じでもその時に感じる感情が異なるものとなることが多く、思想が全く別のものとなり完全な人格のコピーが難しいという。
クシアという少女はそれに関する知識を習得、または完成をさせているのか?先程の妖精といいこれまでの知識と違い困惑する。
「ん?あぁ悪い。説明、今いる世界はお主がいた世界とは別の世界だ。そしてお主は元の世界からこちらの世界に魂のみの移動をし、こちらの世界にあった魂のない仮死状態である体、言い換えると死んだ直後の死体へと入り込んだ。
つまり転生というやつだな、この世界に迷い込む魂は数少なく、全部の記憶を持ったまま転生するものはもっと少ない、記憶を維持できているお主は珍しい存在だ。
お主が何に脅えているのか分からないが危害を加えようとするものは無いに等しいのでな安心してよいぞ。」
転…生……?死体…?では私は無事に死ぬことができた…のか?組織から逃れることが…自由になることが出来た…のか?いや、でも………
動揺はしたが今1番知りたかった現状を知ったのと同時にあることに気づき顔を曇らせ、うつむかせ呟く。
「……それだと、意味がない、じゃないかっ。」
昔、あの子と約束した。一緒に組織から逃げ出して2人でひっそりと自由に、幸せに過ごすという2人の願いを叶えること。
あの子を殺しといて、他のたくさんの人達を殺しといて私だけ自由になるなんて、幸せになるなんてあってはならない事だ、死ぬだけでは許させることのない行為だ。私自身が私を許せない。
死ぬことは出来た、がこれまでの罪を償うことができずましてや、あの世界からその私だけ解放され自由の身になったことに自責する。
胸に魔石がなく自害できることを思い出し、後ろにある鏡の破片で自分の首を引き裂くためにすぐに後ろにある鏡を割ろうと、鏡を左前に力めいいっぱいに投げ倒す……しかし。
鏡は一瞬倒れるのを止め、すぐにどこからかきた柔らかな風によりもといた場所にもどる。
「まぁ、まずは話を最後まで聞け」
クシアは柔らかい声で言う。今起こった現象よりも死ぬことを邪魔され、クシアの方を振り向き睨みつける
クシアは鏡の方向に手をかざしており、その手の周りには黄緑の光が薄く光っていた。そして睨みつけられていることなど気にせずに再び口を開ける
「サリアという名を知っているか。」
!!?、サリア…それは私が先程からあの子と言っている私が殺した……親友の名前だった。サリアは私が元いた世界の人物なのだから知る由もないはずだ
「なぜ……その名前を…」
驚きを隠せないまま呟くように話す
「以前、お主らの世界に行ったことがあってなそこでサリアと出会い、サリアとお主をこの世界に転生できるよう魔法をかけた。少し前にお主の力の波長に似たものが別の世界から来たのを確認している。今いる場所は分からないがお主と同じようにサリアも転生に成功しているはずだ」
「サリアも…この世界に……?」
「あぁ」
そう言い、クシアは頷く。
サリアがこの世界にいる、あの子とまた会うことができるかもしれないという嬉しさと安堵がある反面、親友を殺しその後も多くの命を奪ってきた自分が会う資格、それ以前に生きてていい資格があるのだろうかというこれまでの罪が自分の望みから遠ざけようとする。
「今の…私には、あの子に会う資格なんてないです……だから、死なせてくださいっ……。」
ただただ自分が死ぬことを切望する
「だめじゃ、お主はまだ死ぬべきではない。それでもなお、罪悪感に苛まれて死を望むというのならば…」
私へと歩み寄り手を私の左手の上あたりでかざし銀色の淡い光が左手首の辺りに出現し、手首へと集まりブレスレットの様な形となる。
「お主にはこれから私の手伝いをして過ごしてもらう、今お主にかけた魔法がある限りお主は死ぬことができない自身を傷つけることもな。死で罪を償うことができると考えるのは浅はかな考えだ。過去にしてきたことは未来でしか償うことができない、その未来を無くし死ぬことはその罪を償うことを自分から逃げるということと同じとなる。まだその力と知恵を持っていなくともこれから身につければよい。それにはまずは手伝いぐらいできないとな?」
クシアは私と同じ目線になるまでしゃがみ、真剣に、最後だけからかっているような口調で少し笑いながら言った。
「罪を償う力……でもたくさんの命を奪っておいて、なにをいまさら…」
「たくさんの命を奪ったのならその分、命を救え、不幸にしたのならその分誰かを幸せにすればいいのじゃ」
そういい、クシアは私を抱き寄せ、右手を私の頭の上にのせる
「大丈夫じゃ、つらい経験をしたお主だからこそできる、お主にはその力があるのじゃからな」
…いつ以来だろう、温かな人肌に触れたのは、優しく抱き寄せてもらえたのは
何か温かいものが胸の中で湧き上がり、右頬に暖かい液体が流れる感触がした。
それを涙だと認識するには時間がかかった。
これまで負の感情でしか流して来なかったもの、それを表に出すことができなかったもの。今感じている感情では流れることがなかった涙ものが瞳から溢れでていた。
そして、気が緩んだ私は体の疲れもありそのまま寝てしまった。
「おや、寝てしまったか…まぁよい、今はゆっくりと休め」
私が眠ってしまったことに気づいたクシアは私を持ち上げ先程まで寝ていたベットに下ろし、薄い絹の掛け布団をかけた。
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