【13-34】老人と気象 下

【第13章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429616993855

【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625

【絵地図】ドリス城塞都市

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330652163432607

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 長年ドリスに住んでいたという老を、帝国軍参謀部の面々が緊張感をもって囲んでいる。


「吹くッ!」

 先ほどまでのボケた様子など感じさせぬほどに、彼女は強く言い切った。


 間もなく、強き西風が吹くと。


 秋も終わりにさしかかる頃、ドリスのあたりでは、断続的に小雨がぱらつく。


 その小雨がおさまった後、3日間は、西からの強風が吹き荒れるのだという。


 その風は風雪となり、季節は冬へと向かうのだそうだ。



「今年は、いつ頃吹くのか」

 爺さん――じゃなかった婆さん。耐えきれず、セラ=レイスも直接ヴァナヘイム語で問いかける。この1カ月における、ドリスの天候を記録した書面を差し出しながら。


 老婆は、まるでまぶしいもののように書面を眺めていたが、この勢いなら小雨も間もなく止むじゃろうて――と前置き後、先任参謀に向き直る。

「数日のうちに吹き始めるじゃろう」


 その眼光は、老人のものとは思えぬほどの凄味を帯びていた。


「――!!」

 紅髪の青年は、押し黙った。




 ドリス上空に西風が起こる日は近い。


 風が生じれば、敵の総司令官が企図する「火殺の計略」も発動することだろう。


 アシイン=ゴウラ少尉に負ぶられて、老婆は退室した。思考に沈む先任参謀を除き、参謀部一同の敬礼によって見送られながら。


 少尉の広い背中の上で、彼女は入室した時と同じく、小刻みに揺れていた。



 参謀部のカンファレンスは続く。室内の空気をよりいっそう重苦しくして。



 先任参謀・レイス中佐は、部下たちに問う。

禿げ頭には伝わっているか」


 ドリス城下街に滞在する帝国軍第7旅団・8,000名は、いつ噴火するか分からぬ山の火口に居るようなものだ。


「それが……」

 言い訳がましい返答を口にしかけて、参謀・アレン=カムハル少尉は、力なく首を振った。


 生意気な紅毛の小僧の部下、しかも小娘のなど、禿げ頭……第7旅団長・コナン=モアナ准将は、取り合おうとしなかったらしい。


 何か命令があるならば、同旅団が所属する中央軍・第2師団本部を通せという。猛将退治に精魂尽きた彼らは、これ以上のはごめん被りたいらしい。



 やむなく、ソル=ムンディル参謀見習いは早馬をもって、絵地図をこちらに送ってきたのである。


 ドリスでの異臭騒動おいて、参謀見習いに将校クラスを付けるべきだったと、カムハルは悔やんだ。


【13-28】異臭騒動 上

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16817330651467919356



 すると、紅髪の先任参謀は、カムハルの猫背をリズムよく叩いた。並の将校を送り込んでも、どちらにせよ禿げ頭には相手にされなかっただろう、と。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


お天気ばあちゃん、カッコよかったと思われた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「カイサにて 上」お楽しみに。


エドラ城塞を出立したレイス一行は、カイサの町に入った。


レイスは宿に入るなり、ベッドに倒れ込んで動けなくなり、レクレナは空腹に耐えきれず、街道沿いの出店でみせに漂うかぐわしい香りにつられ、落伍したのであった。

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