【13-28】異臭騒動 上

【第13章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429616993855

【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625

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 コナン=モアナ准将麾下、帝国軍先遣隊がドリス城塞に入り、数日が経った頃――その将兵を悩ませる事象が、ひそやかに発生していた。


 異臭騒動である。


 ヴァナヘイム軍は撤退の折、住民も避難させたことで、城塞内の店舗や民家は、すべて空き家になっていた。


 そこで、モアナ准将は、それら家屋等を寝泊り用として、麾下の第7旅団各隊へ割り当てようと、所属先たる帝国中央軍・第2師団本部に申し入れたのである。


 そして、将校・下士官・兵の優先順位付きではあったものの、それは裁可されたのであった。


 この決定は、長らくテント暮らしだった者たちから、拍手喝采をもって歓迎された。屋根付きの建物での疲れの抜け具合は、野営の場合とは比べ物にならないからだ。



 ところが、である。


 割り当てられた家々のいくつかで、異臭がするらしい。


 すべての建物ではないものの、ひどい部屋になると悪臭――腐乱した死体のような臭い――が漂うそうだ。


 野営生活を脱し、ようやく屋内の宿泊地にありつきながら、そこで寝食に影響を来たしてしまう――帝国軍の兵卒は、そのような本末転倒の事態に陥っているという。


 地面に遺体でも埋まっているのではないか――兵士たちが、ツルハシやシャベルを手にしても、そうした物騒な代物は発掘されなかった。


 悪臭充満する家屋を割り当てられた――ハズレを引いた――者たちは、己のクジ運のなさに悲嘆にくれた末、テントでの寝泊り生活に戻り始めていた。



 そのような事態は、エドラの帝国軍参謀部の耳にも入った。先任参謀の方針により、彼等は些末さまつな事象まで情報収集にいそしんでいるからだ。


 部の方針として、誰かを現地に派遣し、調査を進めねばならない。


 情報収集も担務とするアレン=カムハル少尉は、周囲を見回すも、部下たちの姿が見えない。そこで彼は周囲の従卒たちに尋ねる。


「ニール准尉はどこに行った?」

「ヨータ城塞で拘禁こうきんした敵将校の取調べに向かわれています」

 ――そういえば、通訳の追加派遣を求めらていた気がする。


「ロビンソン軍曹は?」

「先刻、敵の通信を傍受したため、その解読に追われています」

 ――なるほど、通信兵が参謀部に出入りしていたのはそのためか。


「ムーア曹長は手が空いてなかったか?」

「部隊配置表の作成や行軍日程表の修正に取り組まれています」

 ――ああそうだ、週末が締切と時間なく、自分が命じたのだった。



 結論、みんな忙しい。カムハルは左目にかかる前髪を指先に巻きつけた。


 かくいう彼自身も、紅毛の先任参謀からのリクエストに応え、タスクに備えるのに、体が3つあっても追いつかないほど、多忙を極めている。


 帝国軍は、いよいよ反転攻勢に打って出ようとしている。その頭脳チームに、平和な悪臭騒ぎに応対できるような、暇を持て余している者はいない――いや、いた。1人だけ。



 嘆息したカムハルの視界には、ニアム=レクレナ少尉がいる。



 




【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


異臭の原因が気になる方、

え、カムハルさん、レクレナを送り込むつもりですか、と突っ込んだ方、

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カムハルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「異臭騒動 中」お楽しみに。


アレン=カムハル少尉は、後輩・ニアム=レクレナ少尉の奇行を見つめている。


この女参謀は獲物を見つけた肉食獣のように、抜き足・差し足で歩を運んでいた。彼女の視線の先には、別の従卒がいる。


正しくは、従卒の制帽制服を身にまとったソル=ムンディルであった。資料が詰まった木箱を一生懸命運んでいる。

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