【12-31】花びら ②
【第12章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429613956558
====================
軍務次官・ケント=クヴァシルは、農務大臣・ユングヴィ=フロージの心づくしたる護衛付き馬車に身を委ねている。
しかし、街道先での事故により、乗用・運搬用問わず、馬車群は
――これから、どうしたものかね。
自問し、クヴァシルは自嘲気味に口端を
農務相と共に、この数カ月かけて築き上げてきた対帝国停戦・講和の流れは、完全なる徒労に終わった。劇的な再登板を果たした軍務尚書によって、すべて
そればかりではなく、独断と専攻を繰り広げてきた軍務次官とその部下たちは軍政から遠ざけられることも決まった。
――アルベルトのヤツに合わせる顔がないな。
彼は、総司令官に抜擢したアルベルト=ミーミルと約束をした。帝国と講和を結んでみせる、と。ミーミルはその言葉を信じ、彼から要求された「引き分け手前」以上の戦況を作り上げてみせたのだ。
【4-8】消し方 中
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816927860139622159
この先、軍務省は、尚書とその取り巻きたちによって、政務を執り行っていくそうだ。他の省庁とも緊密に連携して。
――お払い箱となった俺に何が出来るのか。
馬車の速度が再び落ちた。その動きのように、クヴァシルの思考は行き詰まる。
冴えない車内の空気と己の境遇に、彼は
しかし、窓を開けることを同乗の衛兵から禁じられていることを思い出し、やむなく断念する。
手持ち無沙汰をごまかすには、やはり窓外を眺めるしかなさそうだ。それにしても、大半を鉄板に塞がれている車窓は、ただただ視界が悪い。
クヴァシルの視線の先――車窓の向こうでは、往来を微速で進む馬車に、物売りの子どもたちがすがりつこうとする光景が広がっていた。
帝国との戦闘で親を失ったのだろうか――このように日銭を稼ぐ貧民の子の姿は、いっそう増えたように思われた。
どの子も
赤色の髪を持つ女の子が1人、小さな花束を抱えていた。
どこにでも生えていそうな、貧相な花であった。
しかし、この子にとって、いやこの子の家族にとって、その日の糧を得るための貴重な財産なのだろう。
大切に、大切に……という言葉が聞こえてきそうなほど、両腕で抱えて運んでいる。辻馬車の乗客にわずかな金銭で購入してもらうまでは、1輪たりとも落としてはならないのだ。
そこへ突然、後ろから年長の男の子が押し掛け、力任せにその花束を奪い取った。
白い花弁が飛び散る。
何が起きたのか、女の子は
「……とめてくれ」
クヴァシルは、御者に指示を出した。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
クヴァシルに煙草を吸わせてあげたいと思われた方、
生きようとする子どもたちに手を差し伸べたいと思われた方、
ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758
クヴァシルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「花びら ③」お楽しみに。
クヴァシルは片膝をつくと、泣き止まない彼女に、優しく微笑みかける。
「お嬢ちゃん、このお花をおじさんに譲ってくれるかな」
彼の片手には、泥のついた花弁が数枚乗っていた。
女の子は驚いた様子で、こちらを見上げる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます