【12-14】ケニング峠の戦い 6

【第12章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

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 帝国軍総司令部付き参謀部は、中央第1師団宛にグラシル城塞へ5,000以上の兵馬をめておくよう命じていた。


 ところが、参謀部からの合図に応じて、同城塞から飛び出したのは、わずか1,500に過ぎなかった。


 第1師団では、どうして参謀部の指示どおり、予備戦力を割かなかったのか。



 今朝方、城塞から出立する折、師団長・リア=ルーカー中将は、自軍がズタズタに突破された挙句、敗勢に追い込まれることなど、夢想だにしなかった。


 アルベルト=ミーミル何するものぞ――ルーカーは自らが有する豊富な麾下きか軍勢と戦場経験をもって、片を付けるつもりでいた。


 そうした腹積もりでいたこともあり、片眼鏡の宿将は、小生意気な紅毛の若造に従うことを良しとしなかった。


 この第1師団の指揮権にまで介入してくるとは何様のつもりだ――査問会にて論破されて以来、「キンピカ」呼ばわりしてくる紅髪の小僧に対し、ルーカーは嫌悪感すら抱いていたのだ。


【3-4】査問 ④

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 どうせ、予備戦力など活用する機会は来るまいて――当初の階段型陣形をより重厚なものとすべく、戦力のほとんどを前線に配置してしまったのである。


 こうして、グラシル城塞からの別動隊は、総司令部から命令された数の3分の1以下にとどまることとなったわけである。


 結果として、帝国軍先任参謀・セラ=レイス中佐による、南北挟撃戦術は不発に終わった。



 グラシル城塞から突如として打って出た帝国別動隊――それに後背を急襲され、ヴァナヘイム軍は一時、動揺の色を見せた。しかし、その別動隊の戦力がたかの知れたものだと分かるまで、大して時間を要さなかった。


 ヴァナヘイム軍1万8,000は、背後に帝国別動隊1,500を振り払うと、予定どおりルーカー師団の始末に取り掛かったのである。


 別動隊は、ヴァ軍の後背を襲撃したまでは良かったが、数の差はいかんともしがたかった。相手に致命傷を与えることなく、あえなく霧散する。



 ここに来て、ヴァナヘイム軍は、いつの間にか再び陣形を改めるほどの余裕も生まれていた。胴体2カ所を貫かれた帝国軍本体は、それを傍観することしかできない。


 ――ミーミルの野郎やっこさん、見せつけてくれやがる。

 レイスは鼻から下を歪めながら、ヘッドフォンを外した。


 彼は空いた片手で、青い凸型駒たちを動かし、もう何度目か分からぬ敵勢の変形を図上に再現する。


 ほかにやることがなくなっていた。いま仮にこの紅髪の先任参謀が戦場に居たところで、出来ることなどない。


 ヴァナヘイム軍は、やじりから美しい鷲翼しゅうよくへ――帝国将兵を逃がすことなく、押し流すつもりなのだろう。


 ケニング峠の崖下、奈落の底へ。



 レイスは、青・赤の駒が配された図上にヘッドフォンを叩きつけた。




 帝国暦383年9月14日22時30分、ケニング峠における勝敗は決した。


 帝国軍は、鱗型の陣形構築もままならないまま、2カ所を貫通されていた。それに伴う混乱に継ぐ混乱の状態のまま、背後からのヴァナヘイム軍の猛攻撃に追いまくられている。


 帝国兵馬は、右往左往している間に多くが背後から射殺され、蹂躙じゅうりんされ――う這うの体で背後の峠道に逃げ込んでいく。



 同日23時30分、ヴァ軍指揮官・アルベルト=ミーミルは、深夜に至っても追撃の手を緩めようとはしなかった。


 松明たいまつ煌々こうこうと焚かせ、躊躇することなく峠道へ乗り上げ、帝国将兵を追い込んでいく。闇夜の山岳戦は、自軍の被害も危惧されるはずだが、ミーミルはやってのける自信があるようだった。


 これには、帝国軍もたまらなかった。多くの者たちが足を踏み外し、崖下へと転がり落ちていく。


 ヴァナヘイム軍のあまりの手際の良さに、どうして自分たちが敗れたのか理解が及ぶ前に、帝国将兵は終焉しゅうえんを迎えていった。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


レイスとルーカーの折り合いの悪さが、帝国軍の作戦不発につながったことをご理解いただけた方は、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「【イメージ図 ⑨ ⑩】ケニング峠の戦い」お楽しみに。


帝国軍・セラ=レイスによる、南北挟撃戦術は不発に終わりました。

長い戦闘は夜戦へと突入しますが、形勢はヴァナヘイム軍の「勝勢」へ――ケニング峠の戦い最後の図説をご覧ください。

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