【3-4】査問 ④
【第3章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816927860003776772
【査問会 席次表】
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927860241110695
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「机上の空論ですな」
レイスは、キンピカ少将からの質問を彼の武勇伝もろとも一蹴した。
厚化粧――ゴテゴテとした飾り物――の先にある表情が不愉快そうに歪む。
ゆったりとした鷹揚さはたちまち影を潜め、せわしなく狭量そうな様相が見え隠れする。これがキンピカの素顔なのだろう。
今作戦の
敵司令官・ヤンネ=ドーマルの性質は、非常に慎重で、事あるごとに斥候を派遣していた。
【2-8】庭師将軍 下
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816927859941147387
そのようななか、A村落に多数の所属不明の部隊が潜み、無電が飛び交っていたら、ヴァナヘイム軍は警戒し、足を止めてしまったことだろう。
まして、競馬場のように伝騎が行き来し、博覧会のように伝書鳩が飛び立っていては、ヴァ軍は指揮官がドーマルでなくとも回れ右したに違いない。
「……」
押し黙ったキンピカ少将は、その装飾物も輝きが鈍ったように感じられる。
「過度に飾り立てた衣服を、店頭のショーケースに展示したところで、袖を通そうとする客はなかなか現れんでしょうな」
レイスによる駄目押しの一言には、侮蔑の成分が多量に含まれていた。
キンピカのけばけばしい出で立ちと、同少将が理想とする馬駆け鳩舞うやかましい通信体制を同時に皮肉ったこの表現には、査問委員のなかからも苦笑が漏れたのだった。
「総司令部は、我らが撤退を終えていないことを知りながら、砲撃開始を命じたんではないかッ」
突然、キンピカと入れ替わるようにして、左端の包帯少佐が噛みついてきた。
「総司令部は、斥候部隊から『マグノマン准将の部隊、撤退完了』との報告を受けている」
レイスは泰然と受け流す。
「そのような話はでたらめだ!我らはしばらくのあいだ、A村落に逗留していたのだ」
「とうりゅう……」
つぶやきながらレイスはその
中央に鎮座するブリクリウの口元が、わずかに曲がる。
「……逆に問うが、我らが立てた作戦では、A村落に敵部隊を誘導したあとは、ただちに同村落を放棄するよう、貴隊に指示していたはずだが」
「そ、それは……」
たちまち包帯に動揺が走る。
「貴官らは、我らの指示に反して、A地点でいったい何をやっておられたのかな」
――黒狐よ、包帯をこの席に置いたのは失敗だったな。
紅毛の先任参謀は、底意地悪い笑みを浮かべながら続ける。
「貴官らは、村落に残された軍需物資の運び出しに、専念されていたとの報告を聞いているが」
帝国軍紀では、自国軍の物資の横領は重罪を課される。
「そ、そんなことはしていない……」
出撃前にオーナーより下賜された物資に対する貴族将軍たちによる独占や、戦場での他国民に対する兵士たちによる略奪――それらを黙認していながら、自国の物資についての着服を禁じているのであった。
阿呆らしいかぎりだが、軍紀は軍紀である。
「A村落から50キロ先の田舎町で、帝国軍が降ろしていったとされる軍需物資が回収されているが、貴官には心当たりがおありなのでは」
「し、
沈黙した禿頭大佐の前まで
「おかしいな、輜重隊がその町に立ち寄るような輸送計画にはなってない……」
「……」
目を見開いたままうつむく包帯に、レイスは追い打ちをかける。
「……作戦命令違反に続いて、兵糧弾薬の横領。そのような者たちが、我らを批判するとは、お門違いも甚だしい!」
包帯少佐はうなだれたまま停止した。
――この男、角度によって顔つきがころころ変わるのか。
レイスは処置済みとなった包帯男など、もはや見ていない。
中央の席では、黒狐が苦々しげな表情を浮かべている。不思議なもので、それは一見、笑みを噛み殺しているようにも見えるのだった。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
レイスの弁舌による大立ち回りに、
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758
レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「懲罰人事 上」お楽しみに。
現場確認から当事者の聴き取りまで、一通りの調査を済ませると、「査問会議」は「懲罰人事会議」に名を改めた――。
査問会を終えて、いよいよ帝国東征軍の新体制へ……。
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