【12-12】ケニング峠の戦い 4

【第12章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429613956558

【地図】ヴァナヘイム国

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

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 9月14日14時に至ろうとする頃、敵総司令官・アルベルト=ミーミルは、意外な手を繰り出してきた。


 ヴァナヘイム軍は、戦闘と後退をこなしながら、陣立てまで改めつつあるという。


「これは……」

 帝国軍先任参謀・セラ=レイスは、絶句していた。


 現地からの報告に基づいて、キイルタ=トラフがヴァ軍の陣容を図上に再現する前に、彼の脳内には戦場の光景が広がっているのだ。



 敵の陣形は、2つのやじり型に生まれ変わろうとしている。


 こちらを突き崩そうという算段に違いない。


「いかんッ」

 帝国軍が採用している階段型の陣容は、消極的な相手を押さえ込むには向いているが、逆に積極的な相手では、その長大な構えがあだとなる。


 レイスは、慌てて前線の味方へ指示を飛ばす。


 副官・トラフが通信兵に代わり、素早く的確にトンツーを撃ち込んでいく。


 敵ニ鋒矢ホウシノ備ヘアリト認ム。タダチニ迎撃ノ準備ヲサレタシ。



 レイスもじっとしていられず、無電器にかじりついた。通信兵からヘッドフォンを奪い取るや、自らの耳に当て、戦線から送られてくる暗号を復号し始める。



 現場の指揮官・リア=ルーカー中将は、総司令部からの指摘を受けるや、ただちにうろこ型への陣形変更に着手するという。


 トラフも賛同の意を唱えるように、小さくうなずいている。


 鱗型の陣形は守りが厚い。鏃型の陣形をもってしても、おいそれとは突破できないはずだ。下手をすれば、鏃の先端がもげる。


 あとは、これまでどおり、ヴァナヘイム兵をじっくりと弱らせていき、しまいには峠の下にでも突き落とせばよい――。



 しかし、紅髪の先任参謀は、厳しい表情を崩せずにいた。


 戦闘を継続しながらの陣立て改めなど、普通の指揮官では不可能だ。


 帝国第1師団は、いったん兵馬を下げ、現状の階段型陣容を整えたのち、改めて鱗型への変更について伝騎を各隊へ走らせねばならない。


 しかも、2万以上の軍勢による陣形変更である。帝国軍は鱗型完成まで、少なくとも2時間以上は要するだろう。



 ところが、相手のミーミルは普通の指揮官ではない。


 繰り返すが、銃火を交わし、後退しながらそれらをやってのけていた。むしろ、帝国軍が階段状の陣形をもって仕掛けてくることすら、読み切っていたかのようである。


 結果として、彼は帝国軍の半分の時間もかからずして、鏃型の陣を構成し終えてしまった。



「……例の件、すぐに動けるようにしておけ、とグラシル城塞に打電しろ」

 レイスは、低い声で副官に命じた。


 先刻耳打ちされたを発動するように、とのことだ。


 【12-10】ケニング峠の戦い 2

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16817330648717933319



「かしこまりました」

 トラフも最終局面は近いことを察したようだ――手のひらをハンカチで拭うと、美しい指先を電信機に添え直した。




 15時30分頃、戦場でのは、決着がついた。


 帝国第1師団は、階段型を崩し鱗型陣形を目指していた。しかしながら、その完成などおぼつかない、「雑然」とした集団に成り果てている。


 一方、ヴァナヘイム軍は、触れた先から切り裂くような、2本の鋭い嚆矢こうしが完成していた。


「速すぎんだろ……」

 通信室ではレイスがうめいていたが、その声が二十数キロ先の戦場に届くわけもない。



 ミーミルの2つの矢が弓につがえられたとき、ルーカー麾下は、「鱗」型のよろい形成には程遠い状態であった。鋭い鏃にさらされ、混沌こんとんに拍車がかかるだけであった。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


レイスは、二十数キロという戦場までの距離が、ハンデになっているなと感じられた方、

レイスの奥の手が気になる方、

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レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「【イメージ図 ③ ④】ケニング峠の戦い」お楽しみに。


レイスが気が付いたヴァナヘイム軍の蠢動しゅんどう、ミーミルの巧みな陣形改変――ケニング峠の手前で繰り広げられる、帝国・ヴァナヘイム両軍の「陣立て合戦」について、図面をもって解説いたします。

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