【プレイバック⑩】アシイン=ゴウラの小休止

【第6章 登場人物】

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【組織図】帝国東征軍(略図)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927862185728682

【イメージ図】囮作戦

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927862491118468

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 レディ・アトロン率いる第3連隊は、敵の主力を引き受けている右翼――しかもその最前線であった。


 総司令部を罷免された時、自分も連れて行って欲しいと泣いて願った少女・ソルを、が突き放した理由――この地に立つとそれがよく分かる。


 ヴァナヘイム軍最強と名高いアルヴァ=オーズ隊が、指呼の間に望まれるほどである。


 が赤髪の少女をどれほど可愛がっていたのかを、俺は知っている。普段は、素っ気ないふりをしていたことも。


 それを手放したのは、余程の覚悟の現われであったのだ。ひるがえせば、俺たちが向かったのは、それだけ危険な区域であった。




 新しい所属長は、女王様だった。


 「奴隷使い」「味方殺し」等々、悪名てんこ盛りの我らを引き受けてくれたレディ・アトロンは、圧倒的な存在感を誇った。


 「猛撃の女連隊長」の渾名あだなは、伊達じゃない。


 彼女は、副長殿とはタイプの異なる美女だった。猛々たけだけしい美しさだった。


 鍛錬によってつちかったたくましくしなやかな体躯たいくは、サイズ違いではないかと思わせるほど、胸部を中心に軍服を内側から押し上げていた。


 俺は、どうしてもその1箇所に目が行ってしまう――情けない男のさがである。


 普段、レクレナとソル――蜂蜜色のワンちゃんと赤色のお猿さんによる取っ組み合いを仲裁してきた身には、刺激が強すぎた。


【3-1】査問 ①

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 それにしても、前面に連隊長殿、後背に副長殿と挟まれながら、泰然とチェスを指し回す――には、心底感心する。


 連隊長殿のなまめかしい肢体に当てられ、俺やカムハル以下、健康な男児たちは、たまらなかった。


 ヴァナヘイム商人による慰安所が出来たのは、渡りに舟であったと言えよう。


 さぞや、かと思い、副長殿とレクレナ不在の合間に、お声がけしたのに、まさかの禁欲モード……これは如何いかに。


【6-9】慰安所 下

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 俺も負けていられない。煩悩ぼんのうを振り払うためにも、走り込みでもしようかな。



 レディ・アトロンととは馬が合った。


 彼女は、彼の識見を認めるや、自らの連隊における参謀役就任を申し付けただけにとどまらず、砲撃訓練の指南から斥候兵の差配までも任せるまでに至った。



 俺たちの斥候隊は、ヴァナヘイム軍の様子を着実につかんでいた。


 敵は、渓谷を利用しつつ布陣を劇的に改めつつある。このままでは、帝国東征軍の圧倒的な兵数をもってしても、甚大な被害を余儀なくされるだろう。



 だが、気の早いことに、東征軍上層部は戦後の取り分についての内輪揉めに忙しく、こちらの意見具申など相手にされなかった。


 各隊の高級将校たちは、麾下きかの兵馬をほったらかしにし、連日自軍と総司令部との間を馬車で往復した。それは慌ただしいものであった。


 際限なき停滞に、下士官や兵士たちは退廃的な空気に包まれていく。


 各隊では演習や訓練を課されたが、先の見えない行軍停止による軍紀のゆるみは、末端の兵士たちに顕著に見られた。



 彼らの間では、酒に酔った戯れに「度胸試し」が流行りだしたのである。それは、「丸腰のままヴァナヘイム軍の陣営に、どこまで近づけるか」を競い合うというものだった。


 その単純さと低俗さのなせる遊戯は、帝国兵士たちのなかにあっという間に広まった。そこへ賭博とばくの要素も絡み出したのは、自然の流れであると言えよう。



 初夏にしてはいささか強い陽光を浴びて、帝国兵士たちがだらしなくうたた寝をしている様子は、俺たち右翼第3連隊の斥候部隊も度々目撃した。


 帝国軍の尊厳も何もあったものではない姿に、憤りを覚えたが、それは説得力に著しく欠くものとなった。


 俺たちの場合、軍紀が最も緩んでいたのは、であったからだ。


 この日も、彼は副長殿に耳を引っ張られ、軍服がはだけた状態で引き戻されてきたばかりである。乗り気でなかった慰安所通いだったはずだが、いまや隊内で最も熱を入れているのは彼だった。


 女性士官に引きずられる姿は、過日、砲兵主導の革新的作戦を立案した人物とは思えぬほど、冴えないものだった。


【6-11】弛緩 下

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 と駒を進めるに従うべく、俺も手綱を引いた。


 慰安所に入りびたるのは、馴染みの相方が出来たからだろうか。彼がその気になれば、連隊長殿でも、副長殿でも振り向いてくれるだろうに――。


 後者はもはや言わずもがなだが、前者も最近、に憎からず想いを抱いている様子が伝わってくるのだ。


 よじくれたままのえりの上で、緩慢に揺れる紅髪を見つめながら、俺は溜息をついちまった。






【作者からのお願い】

この先も「アシイン=ゴウラの小休止」に、もう少しだけお付き合いください。


赤髪の少女ソル推しの方、

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ゴウラたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「【プレイバック⑪】アシイン=ゴウラの小休止」お楽しみに。


レディ・アトロン主演と?、レイス演出の「囮作戦」を、ゴウラが振り返ります。

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