【10-4】 猛訓練 上
【第10章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429411600845
【地図】ヴァナヘイム国
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644
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バー・スヴァンプでは、ケント=クヴァシル軍務省次官等の酒宴が続いていた。注文した料理も出揃い、宴もたけなわな頃合いである。
「ろくな食材が入ってこなくてね、今日はこんなもので我慢してちょうだい」
ヒューキ=シームル・ビル=セーグ両少佐は、アルベルト=ミーミル大将の左右を固めたまま、上官へのお酌と、自らの手酌を行き来している。
ヴァナヘイム国は冬夏の寒暖差が激しすぎるため、葡萄の栽培に適していない。葡萄酒は帝国からの輸入に頼ってきたが、それも途絶えて久しい。
昨今では専らこの国伝統の芋酒――発酵ジャガイモを蒸留させ、香草で味付けしたもの――がテーブルに並ぶ。
「それにしても、ずいぶんと懐いているじゃないか」
クヴァシルは紙巻の煙を頭上へ短く吐き出して、階段将校たちに問う。戦場働きを除けば、糞真面目で面白くもないこの男を、どうしてそんなに気に入ったのか、と。
何だか
代わりに憤ったのは階段将校の2人だった。
「教官とぅおいえども、そのお言葉はいただけませんぬぁ」
「そおうです。そうです。撤回なさってくだすぁい」
両名とも酒に弱いようだ。早くも目は据わり、
「なんだぁ、また降格するか」
元教官の言葉には、元生徒への愛情たっぷりである。3人のやり取りを前に、ミーミルはくすりと笑う。
「俺たちの総司令官は凄いんすよ」
「そうそう、この御方は、俺たちの英雄なんすから」
杯を握りしめた元生徒たちは、いまから3カ月ほど前、敬愛する総司令官との出会いから、じっくりと語り出した。
***
帝国暦383年5月12日、王都・ノーアトゥーン西の塔において、新総司令官・アルベルト=ミーミルによる将校一同に向けての所信表明が終わった。
突然4階級を飛び越えた若造に対する不満は、いまだ古参の将官たちのなかにくすぶっている。たちまち、前者と後者との間で舌戦が繰り広げられる。
【4-12】舌戦 上
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一方で、そうした不平・陰口に同調しない者たちもいた。
「へぇ、ずいぶんと物分かりの良い総司令官様だな」
「これまでの奴らとは、ちょっと毛色が違うな」
ヒューキ=シームル大尉とビル=セーグ大尉は、その筆頭格である。
将官以上の発言を禁じるといった、この部屋の理不尽な空気など、どこ吹く風であった。
己の信念・方針と合わない上官たち――それらと衝突すること数知れず。その度に降格させられながらも、戦場での活躍ですぐに昇格することから、2人は「階段将校」と
繰り広げられた舌戦について、新総司令官の主張に分があると、彼等は見ていた。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
ミーミルが高級レストランよりも、バー・スヴァンプを選んだ理由が分かった方、
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階段将校たちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「猛訓練 下」お楽しみに。
時計の針は、もう少しだけ
階段将校たちの語りは、渓谷内での訓練の様子に及びます。
「あの総司令官殿、めちゃくちゃだ……」
「俺たち、帝国軍じゃなくて総司令官殿に殺されるぞ」
シームルとセーグは、肩で息を弾ませたまま、仰向けに倒れた。崖の間から夏の濃い青空が垣間見える。
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