【10-5】 猛訓練 下

【第10章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429411600845

【地図】ヴァナヘイム国

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

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「それでは聞くが、どうして卿らは『必勝の信念』とやらを持ちながら、ここまで帝国軍に追い詰められたのか」


「……」

 新総司令官の言葉に、猛将・アルヴァ=オーズは二の句が継げず、赤面したまま緘黙かんもくする。



「へぇ、ずいぶんと物分かりの良い総司令官様だな」

「これまでの奴らとは、ちょっと毛色が違うな」


 新任の総司令官と古参の将官たちとの間で繰り広げられた舌戦について、前者の主張に分があると、ヒューキ=シームルとビル=セーグ両は見ていた。


 辻褄つじつまが合わなくなると精神論に逃げ込む将官など、掃いて捨てるほど見てきた。そんな輩の下で、彼等は帝国軍の強さを身に染みるほど体感させられてきたのだ。


 そいつらが立案した「思考停止」ともいえる戦術のおかげで、どれほどの部下たちを失ったことか。


 根性論など糞食らえだ。


 これまで2人が抱え込んできた鬱憤うっぷんを、新総司令官は代弁してくれた。爽快感すら覚えるほどに――。




「あの総司令官殿、めちゃくちゃだ……」

「俺たち、帝国軍じゃなくて総司令官殿に殺されるぞ」


 シームルとセーグは、肩で息を弾ませたまま、仰向けに倒れた。シャツは汗のために体にへばりついている。


 崖の間から夏の濃い青空が垣間見える。


 ケルムト渓谷の谷底は、ヴァナヘイム軍の練兵場と化していた。


 そして、アルベルト=ミーミル大将の名の下に、各隊に布達された訓練メニューは、苛烈を極めた。



 季節は盛夏を迎えようとしており、日の出は早く日没は遅い。連日、夜明けから日暮れまで、ヴァナヘイム軍将兵は、さして広くもない渓谷の底を駆けずり回らされている。


 次々と補充されてくる新兵は、どこの馬の骨だか知らないが、ほとんどが銃を手にしたこともないようなド素人だった。


 それらを短期間で物の役にたつようにしなければならないことは分かるが、限度というものがある。人間の体力は有限なのだ。


 尉官まで含めた全員での筋トレ各500セットを準備運動に、上流までの往復15キロを走り込み。そのまま両岸間の匍匐ほふく前進10往復。息つく間もなく、紅白に別れての白兵戦闘術だ。


 この格闘術では、相手を本気で組み伏せ、殴り倒すことが求められた。手を抜いていれば、階級に関わらず監督官にたちまちぶん殴られ、投げ飛ばされる。相手を叩きのめさなければ、こちらが痛めつけられるのだ。


 その直後に膝射訓練といっても、膝も腕も言うことを聞かない。だが、的に当たらなければさらに罰走に次ぐ罰走になる。



 そのような訓練が、月月火水木金金――毎日続くのだ。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


ケルムト渓谷にて、ヴァナヘイム軍はここまで激しい訓練をしていたのかと、驚かれた方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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階段将校たちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「部隊運動訓練 上」お楽しみに。

ミーミルの巧みな用兵術がどのようにして生まれるのか――その一端がうかがえます。


たちが所属してきたさまざまな部隊では、ここまできめの細かい教練は行われなかった。


軍楽の音色により、生き物のように陣形を変えられるようになっていく様子は、まるで魔法をかけられているかのようであった。

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