【7-10】東へ西へ 上

【第7章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700428974366003

【世界地図】航跡の舞台

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927860607993226

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 ――例え間接的に力を借りるとしても。


 ブレギア国を引き込むことは、非常に難しい交渉となろう。



 ヴァナヘイム・ブレギア両国は、後者の建国時から、否、それよりもはるか昔より、戦い続けてきた記録が残されている。


 歴史書など紐解かずとも、前者の軍籍に身を置く者は、誰しも剽悍ひょうかんな騎馬民族との戦いに手を焼いてきた。


 それらからも分かるとおり、両国は「帝国に追い詰められたから、助けてください」などと、おいそれと相談できる間柄ではないのだ。



 ヴァナヘイム国は、南西は帝国、北東はブレギアに挟まれている。


 むしろ、ブレギア側としても、帝国に蹂躙じゅうりんされる前に、少しでも多くヴァナヘイム領をかすめ取ってやろうと考える方が順当であろう。


 すなわち、ヴァ国から中途半端な外交員など送り込んだら、交渉決裂どころか、騎翔隊による侵攻も招きかねないのだ。


 こうした事情から、軍務省次官・ケント=クヴァシル本人を使者として起用することは、ヴァ軍の新任司令官であり、ブレギア参戦の発案者たるアルベルト=ミーミルたっての希望なのであった。



 軍務省次官が使者となることに、当初はクヴァシル本人も戸惑いはあった。


 いくらこの国の外務省が事実上、軍務省の外局に過ぎないとはいえ、彼は外交官ではない。


 軍務省ナンバー2が国交交渉の場にしゃしゃり出るなど、越権行為もはなはだしいというものであろう。


 しかし、ブレギア国の参戦、しかもその矛先を自国ではなく帝国へ向けることは、ヴァナヘイム国生存にとって不可欠であった。


 是が非でも、ブレギア国を口説き落とさねばならない。


 ミーミルからの説明を聞き終える頃には、クヴァシルとしても、腹は決まっていた。


 この大役を自分がやらねばどうするのか、と。国が滅んでしまえば、越権行為もクソもないのだ。



 ――フォルニヨートのヤツが居てくれたら、自分がわざわざ草原の国に行く必要もなかったのに。

 クヴァシルは、外務省に居た同志のことを思わずにはいられなかった。


【5-8】少女の冒険 ② 新聞

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816927860844395438



 同時に、淡い赤髪の少女の姿が脳裏に浮かぶ――。


 しかし、いまそれらに想いを馳せている時ではないと、彼は思考を切り替えた。


 ――せっかくならブレギアの「小覇王」と「貴婦人」を間近で拝んでみたい。


 このような物見遊山ものみゆさん的動機も、ブレギア行きについて、軍務次官の背中を押している。


 国家存亡の危機に、そうした個人的な遊び心を忘れないクヴァシルの姿勢は、会見の折、泰然とした印象を相手に与えることとなる。


 たとえ、道中がいかに焦慮に支配されたものであったとしても、会談に臨むにあたっては、彼は切り替えることができた。



 ミーミル総司令官の人物眼の証左ともいえよう。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


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クヴァシルたちが乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「東へ西へ 下」お楽しみに。


クヴァシルは、ブレギアの首都ダーナにて「小覇王」との会見に挑みます。

しかし、彼に対する草原の国のもてなしは――。

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