【16-7】手違い 1

【第16章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国 (16章修正)

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 丘上に集結した数多の軍勢――後方において、大帥旗に刺繍された獅子が黄金色に輝いている。


 その旗本には、馬上パンをかじりながら、眼下の戦況を眺めている将校がいた。


 特徴的な紅い頭髪が、初夏の陽に映えている――帝国軍先任参謀・セラ=レイス中佐である。


さすがは、やっこさんだなはふがは、ひゃっこふぁんだの

 レイスは咀嚼そしゃくを繰り返しながら、感心しきりであった。


 傍らの馬上では、副官・キイルタ=トラフ中尉が、怪訝けげんそうな表情を浮かべている。上官が何を言っているのか、分かるようで分からないからだろう。


 彼女の細められた灰色の瞳は物語る――食べるかしゃべるか、どちらかにしろ。



 眼下の戦場では、反乱軍ミーミル麾下6,500が、A砦にてオリアン率いる3,000を粉砕し、B砦にてベルマン率いる2,000を一蹴したところだった。


 B砦の周囲は、そこらじゅうに大地の亀裂が見受けられる。銃弾の節約だろうか、「勝勢」――勢い破竹の反乱軍は、「必至ひっし」――抵抗もままならぬ討伐軍を、崖下に追い落としている。


 彼等は勢いそのままに、残る7,000の討伐軍伏兵アヴァロン隊を側面から突き崩し、関堤にしようとしていたに違いない。


 オリアン麾下の降伏した元特務兵等を傘下に加えたのだろう、ミーミル麾下はさらに数を増やしたように見える。関堤に迫る頃には、アヴァロン隊を上回る規模になっていたはずだ。



【イメージ図 ② ③】ノーアトゥーン郊外の戦い 終

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 そのような矢先での帝国軍の登場は、反乱軍を手足のごとく操るミーミルにとっても、予想外だったようだ。


 反乱軍は関堤へ向けかけた足を止め、ひとつにまとまると、来た道をA砦に向けて、整然と後退していく。


 帝国軍の出方が分からない以上、作戦の継続――関堤前のヴァナヘイム軍攻略着手は見合わせた方がいい。そのようにミーミルは方針を改めたようである。


 機にのぞみ変に応ず――口にすることは容易たやすいが、実戦でやってのけることは難しい。



 レイスは、パンをすべて嚥下えんげし終えた。軍支給のそれは、最後まで堅く味気なかった。


「討伐軍の連中は苦戦しているみたいですな。少しだけ手伝ってあげましょうか」

 彼は双眼鏡を当てつつ、言葉を発した。


 すぐ後方に馬を進めていた老司令官・ズフタフ=アトロン大将は、先任参謀の献言に静かにうなずく。



 各陣営、複数発に及ぶ試し射ちが、しばしの間まばらに続く。


 試射を担った砲兵は、諸元を押さえたのだろう。砲声は鳴りをひそめていった。


 各隊の合間を縫うように行き来する伝騎――複数の馬蹄の音だけが響く。


 しばらくの沈黙――発射諸元が各砲へ伝達されていった。



 長いようであり、短くもあった深閑しんかんの末、レイスは参謀長兼総司令官へ報告する。

「全砲門、発射準備整いました」



 アトロンは、馬上、白手袋をはめた片手を高々と上げた。



 その手がゆっくりと振り下ろされる。




 「撃ち方はじめ」の合図だった。







【作者からのお願い】

「航跡」続編――ブレギア国編の執筆を始めました。

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


宜しくお願い致します。



「航跡」第1部は、あと少しだけ続いていきます。


帝国軍による効力射の行方が気になる方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「手違い 2」お楽しみに。


アルベルト=ミーミルは、馬上からゆっくりと周囲を見回した。


丘の上から降りそそぐ砲雨は、弱まることを知らない。


土砂が勢いよく巻き起こり、兵の体が四散する。馬は狂奔し、旧式野砲はうずくまる。灼熱の波濤はとうは、容赦なくそれらに覆いかぶさっていく。

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