雪ウサギ

ミュウ@ミウ

雪ウサギ

 雪ウサギ

 一羽の鳥が雪の積もった枝に止まって羽を休めておりました。鳥の下からは少年と少女の話声が聞こえてきます。

「ねえ、雪合戦しようぜ」

「いや。今日は遊ぶために来たんじゃないんだから」

「ちょっとくらい遊ぼうぜ。どうせすぐに帰るんだし」

「嫌ったらいや。あ、それよりこのウサギ可愛くない?」

「お前だって遊んでるじゃんか」

「あなたがノロノロ歩いているからよ」

 少女が少年に見せたのは、ウサギとは到底思えないほど歪な形をしたまん丸いに五センチほど角らしきでっぱりができた、雪の塊です。目にはナンテンの実を二つ張り付け、鼻は小石。ひげは木の枝のひっかき傷があります。

「は? 何それ。ウサギっていうより猫? 犬には見えないし。ウサギはもっと耳が長いよ。それだとやっぱり猫だな」

「はぁ? 可愛いウサギに何言ってんの? これのどこが猫よ。その辺に転がっていた赤い木の実でつけた瞳に、その辺に転がっていた手ごろな小石に、このかわいいひげ。どう見てもウサギでしょう」

「あのな。ウサギだったらもうちょっと耳を長くしろ」

「こんなものじゃない?」

「いやもっと長いね。俺がお手本を見せてやる」

 少年はしゃがみ込むと、雪をかき集めて見事な楕円を作ります。そこに落ちているナンテンの実を二つ取りつけて少女に見せました。

「どうだ」

「色々足りなよ」

「あ、忘れてた」

 少女の指摘はもっともです。

 少年は慌てて雪をかき集め、ナンテンの葉の形を模造して再び少女に見せました。

「これでどうだ」

「確かに可愛いけど、私は嫌いだわ」

「なんだよそれ」

少女はもう雪ウサギに興味がないようで、先ほどまで両手に持っていた歪な形をした雪ウサギを後方三メートルにある、葉一つもない樹の根元に置いています。 

「おい」

「良いの。どうせすぐに忘れるんだから」

「それもそうか」

 少年も少女に納得した様子で、少女と同じように樹の根元に寄り添う形で置きました。

「なあ、こいつら寒くないかな?」

「寒い? 雪ウサギなのに?」

「だって周りを見てみろよ」

 少女は少年が言ったように周囲を見渡しました。

 辺り一目雪景色。

 空を見れば厚い雲が太陽を覆いパラパラと雪を降らせて、どこからともなく吹いてくる冷たい北風が少女たちを痛めつけています。

「それもそうね」

 少女はしゃがんで言いました。

「だろう」

「確かにここは寒いわね」

 少女はしゃがんだまま雪をかき集めて、お山のようなもの作りました。少年が後ろから覗き込んで少女に尋ねます。

「なんだそれ?」

「この子たちのお家」

 高く盛った山の中心部分に人差し指と中指で穴をあけて、内側と外側から固めていくと小さいかまくらが出来上がりました。

「どう?」

「良いんじゃないか?」

「問題はこの子たちが入るかだけど」

 まずは歪な形をした雪ウサギをそっと両手で持ち上げて、お尻の方から中に入れています。

「入ったね」

「入ったな」

 少年が作った方を持ち上げて、同じように中に入れます。入り口が小さかったようで、少しだけ削れたものの、見事に二人の雪ウサギは寄り添う形でかまくらの中に入れられました。 

「これで大丈夫だよね?」

「大丈夫じゃないかな?」

「じゃあ、そろそろ行こうか」

「そうね。目的地までもう少しだから」

 少女たちは歩き出しました。

夜。

 日がすっかり暮れて、辺りが闇に覆われました。

 昼間の厚い雲はすっかり風に流され、まん丸お月様が中天に張り出されて青白い光を放射状に放ち、金、銀、赤、といった星がまばらに輝いています。

 少年少女は体を寄り添わせて、空をぼんやりと眺めていました。

「ねえ、今日は冷える」

「そうだね」

「ねえ、目的地までもうすぐなんだよね」

「そのはずだよ」

「この景色が最後だと良いな」

「最後になるよ」

「う……」

 少女は眠たいようで、返事が曖昧になってきました。

「寝るなよ」という少年の注意も意味なく、少女は眠ってしまいました。 

 ×××

 昼の事です。

昨日とは違い晴天に恵まれ、昨日の雪はほとんど溶けてしまい山肌がほとんど露出していました。

一羽の鳥がえさを求めて、朝から活動していたのでしょう。木の枝にとまり羽を休めています。

 鳥がたまたま止まった木の下には、溶けきっていない雪の山がまだ残っており、その山の隙間から赤い木の実が見えたので、鳥はそれを咥えてどこか遠くに飛び出しました。

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