第35話 脅威との接触
リセフテューネに持ちかけられた提案。
それはアルヴァンに蘇るチャンスを与えるものだった。しかし、直後に話される運命転換の話を聞きアルヴァンは1度踏みとどまる。
だが、仲間のため、世界のためにアルヴァンは蘇ることとなった。
**********
アルヴァンとスヤキは宿の上で夜空を眺めていた。
「貴方は今後どうしますか?」
そう聞くとアルヴァンの顔から笑顔が消える。
答えることが出来ない。
まだ心の中で迷いが残っている。
「...貴方らしくありませんね」
アルヴァンが黙っているとスヤキが小さくそう言った。自分自身もわかっている。
「死にかけたことが原因ですか? それとも、他に嫌なことが?」
「...夢を見たんだ。嫌な夢を」
話すかどうかは迷った。だが、このまま答えられずにいるのが嫌だった。
「(リセフテューネ、聞こえるか? スヤキに話してもいいか?)」
心の中でリセフテューネの名を呼ぶ。
『(自由じゃよ。全て話すもよし、いくつか伏せるのも自由じゃ。ただ、後悔はするなよ)』
「(そうか。ありがとう)」
アルヴァンはスヤキに夢として話した。
リセフテューネのことは話さず、仲間が死んだ夢を見たと。
「なんとも現実味のある夢ですね」
「俺は...みんなに」
「死んでほしくない。そう言いたいことくらいわかります。正夢になったらって考えてますね」
スヤキは起き上がり、アルヴァンの手を優しく握った。
「もし、貴方が何も話してくれなかったらと考えていました。私は...いえ、みんな死にませんよ。話してくれてよかったです」
スヤキは宿の中に戻ろうと歩き始める。
宿の中に入る直前で立ち止まり、こちらを振り返る。
「今後どうするか、明日までに決めてください。私はそれに従いますから。外、見張っていますね」
スヤキは宿の中に入った。
「明日か...」
1人になるとアルヴァンは一度自分自身に問いかけた。
なぜ蘇ったのか。仲間を助けるためだ。
勢いだけで蘇ったわけではないが、合成兵のベリオンに対し対抗策が思い浮かばない。このまま挑めばどうなるかはわかっている。
時間はたっぷりあるようで少ない。
静かにため息をついた。
「(死の未来は変えてみせる。死を回避するだけならこのまま皆でここを離れればいい。だが、合成兵を野放しにすれば大勢の人間が死ぬ。なんとかして....何かいい方法を)」
大勢の人を守りたい気持ちは消えたわけではなく、戦いたいという考えも消えていない。勝機がまるで見えないでいた。
「(相手は正直言って無敵。隙なんてまるでない)」
ベリオンが能力を見せたときに感じた力は強力なものだった。
そんな相手とどう戦えばいいのだろう。
アルヴァンは起き上がり、宿の中へ戻った。
部屋に戻るとナズナはベッドの上で布団に包まっている。
その近くではガウディアが頭を抱えている。
「おー、アルヴァン戻ってきたか」
「ナズナの状態は?」
「見ての通り引きこもり状態だ。今は寝てるみたいだけどよ。それよりもアルヴァン、ちょっと話がある」
二人は部屋から出て廊下で話し始める。
「ナズナはもう限界だ。あんな様子じゃ戦えない。戦うどころか普通に生活すら怪しい」
「みたいだな。無理もない」
今のナズナの状態は不安定だ。
ほんの少しの刺激でさえ苦しんでいる。
「そこでよ....提案がある」
ガウディアは握りこぶしを作り壁に打ち付ける。
廊下で話してはいるが部屋にも僅かだが声が聞こえる。
包まって震えているナズナの耳にも彼らの話が聞こえた。
「ナズナを.....村に帰らせようと思ってる」
ベリオンとの戦いがナズナの精神を破壊してしまった。
そんな状態で戦うなんててきるはずもない。
「ガウディア...」
ガウディアは悔し涙を流した。
自分で言い出してはいるが自分自身が一番避けたい結果ではあった。
「俺はナズナとこのままずっといたい。だが、俺達といたって危険にさらすだけだ! 俺は死んでほしくないんだよ....。これが一番最善の選択なんだよ!」
「本人はなんて言ってた?」
「話すらできてねえよ。仮にナズナが話せたとしても結果なんてお前もわかるだろ」
ガウディアの言う通り、ここでナズナと話したとして帰ってくる返事は容易に想像できる。ガウディアは何度も壁に拳を打ち付ける。
「アルヴァン、お前はどう思ってる」
「俺はしっかりと本人の口から聞きたい。お前だってそうだろ?」
「ははは...。そうだな。どのみち、返す場合は朝にここを出る予定だ。でもよ、一晩寝て回復する状態じゃねえぞ」
ナズナを返す場合、本人一人だけではあまりにも危険だ。
誰か付き添いが必要な場合、残るは2人。
ただでさえ希望の見えぬ中、そんな戦力で勝てるはずもない。
「ガウディア、お前はこれからどうする?」
「....どうなんだろうな。さっきまで勢いで動いてたのに考えれば考えるほど自分が不安に思えてくる。けど、俺は戦いたい」
「それは俺も同じだ。だが、対抗策がな....」
その件についてはガウディアも頭を抱える。
無策で挑んで勝てる相手ならとっくに勝っている。
必死で知識を絞るがまるで浮かばない。
「バカ二人が知恵絞っても意味ねえな。朝スヤキを混ぜて考えるか。俺はしばらく一人になりたい....」
そう言いガウディアは部屋に戻った。
部屋からは微かだがガウディアのため息が聞こえる。
「(もし、俺が死んでいたらガウディアは戦っていたんだよな。そして....)」
あくまで回避したのは一時的な死だけだ。
このまま戦えば運命は変わってはくれない。
そのためには何かいい対抗策を考える必要があった。
「...そうだ。確かこの国は資料館があったな。なにか情報があるかもしれない」
そう言いアルヴァンは宿を出る。
外にはスヤキが周囲に警戒しながら立っていた。
「アルヴァン? 見張りは私がやりますから体を休めてください」
「少し資料館に行ってくる。なにか合成兵の対抗策がないか探してくる」
「でしたら私も」
「スヤキは二人を見ててほしい。ナズナだけじゃなく、ガウディアも少し心配だ。何かあったら二人を守ってほしい」
「わ、わかりました。何かあったらすぐに宿まで逃げてください。絶対ですよ!」
「わかった。じゃあ、行ってくる」
アルヴァンは周囲に警戒しながら資料館を目指す。
この国があの日来た時と変わっていないならそう遠くはない。
壁を背に物音もなるべく立てないように歩いていく。
しばらく進むと遠くに資料館が見える。
他の建物と違い外から見る限りでは被害は少ない
「多少壊されてはいるが倒壊はしてないな」
入口は壊れているが、屈めば入れそうな隙間がある。
中に入ると外とは違い、本棚が倒れていたり天井が一部崩れているなど荒れていた。
「のんびり探す時間はない。素早く情報を...」
そう思い足元に落ちている本を手に取った瞬間、ふとアルヴァンは止まった。
「(....気のせいか? 人の気配が)」
静寂に包まれた資料館のどこかから人の気配を感じる。
しかし、ベリオンのように強い力は感じない。
「(合成兵じゃないな。合成兵ならもっと強い力を....かといって一般人がここに避難するとは)」
呼吸も最小限にし、周囲の音を聞く。
すると微かだが本をめくる音がする。
アルヴァンは静かに剣を構え音のする方へと近づく。
「(こんな状況で本を読んでる人間なんて....。俺と同じ合成兵の対抗策を探してるのか?)」
進むたびに音は大きくなる。
ゆっくりと進んでいると天井が壊れ月明かりが差し込み、その月明かりに照らされた場所に立ったまま本を凝視している一人の男がいた。
「(あいつ...まさか)」
姿を見て少し戸惑ったがすぐに思い返す。
本を読んでいる男はライウン城でアルヴァンとガウディアを一瞬にして片付けた男だ。
「(ご、合成兵....)」
わからなかった。
まるで力を感じず、気配は一般人と変わりはしない。
男は黙々と本を読んでいる。
「(どうする。見つからないうちに外に逃げるか)」
幸い男はこちらに気づいていないようだ。
本に集中しているようで、こっそり引き返せば気づかれることなく逃げられる。
そう考えた時だった。
突如男がアルヴァンの隠れている方を向いた。
『レイア、その男は殺すな』
男がそう言うとアルヴァンの背後から少女の声が聞こえる。
「はい」
アルヴァンが急いで振り返ると背後でレイアが剣を今にも振り下ろそうと構えていた。
「(い..いつのまに!?)」
男に集中していたため周囲の警戒を怠っていた。
『確か一度あったことがあるはずだが、覚えているかな?』
男は本を投げ捨て、アルヴァンに近づく。
「誰が忘れるか!」
『ありがたい。よし、まずは挨拶から始めよう。私の名はリシオスだ』
レイアは武器を下ろし、後ろに下がった。
とてもじゃないが逃げられそうにない。
アルヴァンは剣先をリシオスと名乗る男に向け睨みつける。
『随分と血の気が多いな。目から察するに目的は私たちか。偶然立ち寄ったというよりもあの時から私たちを追っていたな?』
落ち着いて周囲を見渡す。
ここにはレイアとリシオスだけのようでベリオンの気配は感じられない。
奇妙なことに男からは何も強い力を感じない。
『そちらも挨拶したらどうかね? 挨拶とはすべての始まりにおいて基本中の基本。それができぬ人間は価値などないな。少し待ってくれるのならお茶でも入れようか。それとも...戦う気か?』
「お前たちをこのまま野放しにしていいなんて思わない。俺はお前たちを止めるためにこの国に来た!」
『勇敢だな。一度負け、力の差も理解したというのに挑んでくるとはな。ますます名前が聞きたい。名はなんという?』
「アルヴァンだ!」
名乗るとリシオスは嬉しそうに笑いその場に落ちている本の1ページを破り名前を書いた。
リシオスからは戦う意思を感じない。
まるで仲良くしたがるように動いている。
『争いは好まない。私が殺す者は自ら挑む者だけだ』
「嘘をつくな! ライウン城でたくさんの兵士が死んでいた。ベリオンやレイアの仕業とは思えない。お前が殺したんだろ!」
『私は大人しくするなら殺さないと言ったが彼らは攻撃してきた。ならば当然の行動だと思うがな。....まあいい、今はアルヴァン、お前が気になる』
全身隙だらけでベリオンよりも弱く感じる。
罠とも思えず、仕掛ければ勝てそうに思えてくる。
それほどリシオスからは強さを感じない。
「オウタイ王国に来た理由はなんだ。お前たちの目的は復讐なのか?」
『聞いてどうするつもりだ』
「お前たちの過去を知ってる。もし、お前たちの目的が復讐ならライウン王国の兵士を殺すのはまだ納得できる。....だが、それ以外の人間を殺すことは間違ってる!」
アルヴァンの発言に対し、リシオスは黙った。
約2分ほど沈黙が続き、いつでも戦えるようにレイアとリシオスが両方見える位置に静かに移動する。
『この世で最も難しいことは理解し合うことだと思っている。ほとんどの人間は理解しようとするのではなく、理解させようと考えている。なぜ相手が理解してくれないのか考えず、無理やり理解させようとする。だから争いは消えない』
「なんの話だ!」
『私はある夢を追い求めているだけだ。それを邪魔するなら排除するだけだ。....さて、私は戦うつもりはないがお前はそのつもりはないようだな』
それまで落ち着いた表情をしていたリシオスの目つきが変わる。
相手も戦闘モードに切り替えたようだ。
「お前たちの目的がなんであれ、人を殺し続けるのならここで止める!」
『これはこれは。若き英雄のような発言だな。いいだろう。向かってくる刃は容赦なく叩くつもりだ』
「リシオス、私がやる」
『レイアはベリオンにそろそろ出発すると伝えて来い』
レイアは頷きその場から立ち去る。
資料館にはリシオスとアルヴァンが残され、両者見つめ合う。
アルヴァンは相手の出方を待った。
『ベリオンが言っていたな。少し強い者がいたと。ただ、名前は聞いていない。アルヴァン、お前か?』
リシオスはアルヴァンに向かって歩き始める。
まだベリオンのような強い力は感じない。
「(落ち着け。仮にベリオン以上の強さを持っているなら、1回の行動ですべてが決まる。しっかり考えて行動を...)」
アルヴァンは落ちている本をリシオスの顔に投げつける。
リシオスが本を振り払うとアルヴァンは視界から消えていた。
アルヴァンはリシオスの背後に回る。
「(目で追ってきた素振りはない。こいつ、弱いぞ!)」
アルヴァンは地面を強く蹴り、剣を構え突撃する。
すると、リシオスの周辺に無数の青い蛍のような小さな光が出現する。
「(こ、この光は...まずい)」
アルヴァンは方向を変え、横に移動する。無数に浮かぶ光が一斉にアルヴァンに襲い掛かる。矢のごとく速いスピードで向かってきており、アルヴァンは走って避けたり剣で弾き回避する。
光は壁に命中すると少しめり込んでいた。
攻撃が治まり、命中した場所を確認するとそこには窪みしかなく飛ばしてきた青い光は消えている。
『これが私の力だ。そして一つ言っておこう。この力はな多少集中力はいるが自由に動かせる。....この意味がわかるかな?』
アルヴァンの足元にある床の割れ目が青く光ると、その割れ目から無数の蛍のような青い光が飛び出し、アルヴァンの体を貫いた。
「ごはっ...」
アルヴァンはその場に倒れる。
そんなアルヴァンを無数の青い光が取り囲む。
「(な、なんとかして動かないと....か、体が動かない)」
攻撃を受けた感覚としては鋭い小さな矢のように思えた。
しかし、実際に見た物は青い光を放つ小粒の石のような物。
『お前は面白いな。正義の塊のような男だ。若き英雄の最後....せっかく少しだけ仲良くなったからな。苦しむことなく殺してやろう』
青い光はアルヴァンの頭の心臓近くに集まる。
必死に動こうとしているが、どうしようもない。
『さらばだ。....ん?』
「ファイアーボール!」
突如リシオスの横から火の玉が飛んでくる。
『なんだこれは、ぐおっ』
反応できずにリシオスは命中し吹っ飛ばされる。
火の玉が飛んできた先からスヤキが現れ、アルヴァンの元に駆け寄る。
「心配で来てみればここからレイアが出てくるのが見えました。まったく、無茶はやめてください。泣きますよ」
「スヤキ...悪い」
スヤキはリシオスに向かってファイアーと唱え火炎を放つ。
煙が立ち籠っている間にスヤキはアルヴァンを担ぐ。
『新手か。同時に始末を』
その時、すぐ近くで爆発音が鳴り、すぐ後に走る音が聞こえた。
資料館の壁に大きな穴が空いており、人が立って通れるほど大きい。
『逃げたか....』
リシオスがその穴から外に出る。
しかし、スヤキとアルヴァンは資料館の中の倒れた本棚の下に身を隠していた。
静かにアルヴァンの傷を治しながら様子を窺う。
「アルヴァン、彼は何者ですか」
「名前はリシオス。恐らく、合成兵のリーダーだ」
「リーダー.....」
「青い光を放つ無数の小石を飛ばしてきた。恐らく、リシオスの能力だ」
リシオスが消え一安心していたが、外から足音が近づいてくる。
先ほど資料館を出たリシオスが戻ってきた。
『一人は負傷している。そう遠くには行けない。壁を壊したのは外に逃げたと思わせるためだな。まだ、ここに隠れているな』
二人が緊張している中、リシオスは中を歩き回る。
見つかれば無事では済まない。
「アルヴァン、二人で戦えば勝機はありますか?」
「.....底知れない強さを持ってる。ベリオンよりも強いかもしれない」
リシオスが二人の所へとやってくる。
どうやら避けられない。
『....探すのはやめるとするか。どこかに隠れているなら聞くがいい。アルヴァンよ、お前が今の気持ちを変えるつもりがないのならお互い近いうちに出会うことだろう。始末はその時だ』
リシオスは静かに資料館を後にした。
5分ほどその場から動かず確実に安全を待った。
「もう行ったか?」
「どうでしょうか...。私が出てみます」
スヤキはゆっくりと出ると辺りを窺う。
本当にいなくなったようだ。
「急いで戻りましょう」
「待ってくれ。一つ気になることがある」
アルヴァンは先ほどリシオスがいた所へと向かう。
そこには1冊の本が落ちていた。
「リシオスはここを出発すると言っていた。何かはわからないが、目的地が決まったらしい。恐らくその目的地は」
アルヴァンは本を拾い上げ、タイトルを見た。
「.....氷の大陸」
アルヴァン英雄伝 @pukurun21
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。アルヴァン英雄伝の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます