アデル・モンドヴィルの物語
Wassy
プロローグ~今日も彼女は上機嫌
カツン・・・
カツン・・・
真っ暗な夜の裏路地にヒールの音がこだまする。
まるでステップを踏む様な、軽く楽し気な足音。
暗い暗い裏路地で
不釣り合いに楽し気に。
今日も彼女は上機嫌。
だってお化粧がうまくいったから。
だってお気に入りの洋服を着ているから。
ちょっと派手目なゴスロリ風。
ピンクのリボンがアクセント。
胸元だってざっくり開けて。
頭のてっぺんからつま先まで今日は本当にお気に入り。
こんなに暗い裏路地で
こんなに危ない裏路地で
輝いているのは彼女だけ。
ネオンなんて大嫌い。
夜に輝くのは自分だけで十分だもの。
路地の暗がりを4人の男が歩いて来る。
ガラの悪そうな4人の男が肩で風を切って近づいてくる。
ニヤけた表情で彼女をなめる様に値踏みする。
ねっとりと上から下まで値踏みする。
「ねーちゃんちょっと遊ぼうぜ」
彼女に声をかけるなんてお目が高い。
彼女はちょっと恥ずかし気。
髪で口元をちょこっと隠す。
頬が桜色にふわっとそまる。
「私なんかと遊んで頂けますの?」
ニヤリと笑う男たち。
これはいいカモを見つけたと。
今夜は楽しくなりそうだ。
彼女はスカートの裾を掴んで
どこかのお嬢様の様に持ち上げた。
なんとスカートの真ん中が
薄いピンクの半透明。
あらわになったレースのパンツに男共は興奮を隠せない。
「こいつはとんだビッチだぜ。」
男はもっと見ようと近づいた。
その時半透明のスカートの中で
彼女の太ももがキラリと光る。
最初に気づいたのは先頭の男。
続いて残りの三人の顔が強張る。
「私と遊んで頂けるんでしょう?」
彼女は楽しそうに微笑んでいる。
楽しくて嬉しくて仕方がないという表情で
はにかむ様に笑っている。
男共の顔から血の気が引いていく。
真っ青に
さっきまでのニヤケ顔が嘘のよう。
今では路地裏の暗さにお似合いの
怯えた顔に変わってる。
彼女はそれを見て不満げな表情。
「私を見て青ざめるなんて、なんて失礼なのかしら。」
彼女はそっとスカートの中に手を入れる。
シュッ
鋭く風邪を切る音が響く。
ひらりと鈍い銀色の光が
暗い路地に蝶の様にひらめく。
先頭の男が狂った様な声を上げる
他の男は何が起こったのかからない。
「男の人はきれいな女性を見たらそうやって頬を赤く染めないと」
彼女は少し満足気。
男の頬は真っ赤に染まる。
ぱっくり開い切り口と
彼女の右手にある小さなナイフ。
男たちもようやく気付く。
彼女はワルツでも踊る様にくるりと回る。
太ももにぶら下がった複数のナイフがキラリと光る。
ひらり
ひらり
彼女は踊る。
汚泥に舞い降りた白鳥の様に
男はどんどん赤く染まる
真っ赤に染まってバタリと沈む。
残った男は半狂乱。
まるで喜劇のピエロの様。
奇声を上げて
手振り足振り戦闘態勢。
震える足で回れ右
ヨタヨタ
ヨタヨタ
一目散。
糸の切れたお人形
どさりと尻もち
間抜け顔。
三者三様のピエロでござい。
迫る男をひらりと躱し。
カツンとかかとを鳴らす。
ピタリと止まってちょっとお辞儀。
真っ赤な雨を背景に
スカートの裾を持ち上げて。
彼女が今夜のプリマドンナ。
そのまま彼女はスカートに左手をするりと入れる。
さっと左手を振り上げる。
逃げる男の向かって
ますっぐ素早く振り上げる。
生暖かい路地裏に
静かに冷たい風が吹く。
一直線に鋭い風が
逃げる男を追いかける。
男の後頭部がキラリと光る
走っている勢いのまま前のめりに
転ぶように男は倒れる。
男の頭には銀色の王冠が生えている。
彼女はとても不機嫌そう。
「私を見て逃げ出すなんてありえない。」
だって男と女は触れ合って楽しむものよ。
ナイフを投げたら何も感じられないじゃない。
最後の男は動かない。
震えもせずに石の様に固まった表情で
ただただ彼女を見つめてる。
彼女は彼に目を向けて
天使の様ににっこり笑う。
「さぁあんな人は忘れて私たちは楽しみましょう。」
彼女の目が暗く輝く
路地裏の闇よりも
暗く暗く
夜の闇に光を灯す。
ひらりひらりと腕を振る。
彼女はオーケストラのマエストロ
流れる様に腕を振る度
男の叫びと鋭い風切り音が鳴り響く。
靴音も高らかに
彼女は踊る。
自分の奏でる音楽で
火照った体が炎の様。
舞台は真っ赤なワイン色。
カツン・・・
カツン・・・
真っ暗な夜の裏路地にヒールの音がこだまする。
今日も彼女は上機嫌。
ステップを踏む様に楽し気に
真っ暗な路地裏を真っ赤に染めて。
「次はどんな素敵な出会いがあるかしら」
今日は頭の上からつま先までお気に入り。
今日も彼女は上機嫌。
アデル・モンドヴィルの物語 Wassy @0415wassy
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