占技神技狂奔

電咲響子

占技神技狂奔

△▼1△▼


 高名な占星術師、すなわち私は悩んでいた。


 なぜなら、最近まったく占いが当たらなくなり客が減り続けていたからだ。

 理由は不明。星の運行が変わったわけでもない。


 眼前を歩く女子学生に話しかける。星占いをしてみませんか、と。そして無下むげに断られた。

 もう駄目だ。廃業だな。そう考えた矢先、


「お困りのようですね」


 私の前に男が現れた。謎の男が現れた。


△▼2△▼


「必ず当たる水晶、いかがです?」


 そいつは言った。私は答える。


「必ず当たる、だと? そんなものは存在しないし、なにより私の占いは九割の確率で依頼者の運命を当て続けてきたんだぞ」

「……確かに、あなたは今現在最高の占い師だ。僕があなたをとしても」

「どういう意味だ」

「そのままの意味ですよ。あなたは僕の術にかかり、簡単に言えば洗脳された状態で占業をやっていた。だが、その状態ですら最高の結果を残した。的中確率九割という数字は苦情ありきの数字でしょう。実質完璧に近い。しかしそれを差し引いても素晴らしい成果です」

「術、とは?」


 私は最も気にさわった点を質問した。


「おっと、これは失礼。僕はあなたの学生時代から精神に触れ続け、占い師になるよう誘導しました。ああ、もちろん強制ではありません。ありませんが、あなたの未来に重大な影響を及ぼしたのは事実です」

「……だろうな。クラスメイトがそれぞれ〝まともな〟道を歩むなか、私だけ占星術専門学校に行ったのだから」

「だがあなたは占い師として成功した」

「だが今や廃業寸前だ」

「ですから次の商売を薦めているわけです」


 手元に凶器があれば、即座にこいつを殺していただろう。それほどまで私はていた。


「ご安心ください。この水晶は」

「消えろ」

「……はい?」

「消えろ」


 男がたじろぐ。超常の存在が人間相手にうろたえるなどあり得ないことは百も承知だ。つまりこれは演技。


「あ、あの、これを、買っていただかないと、僕の立場が」

「いいだろう。値段は?」

「おおお! はい、はい、この商品の値段はですね。XXXXXXXX円でございます!」


 私はため息をついた。予想通りの金額だったからだ。そう、私の全財産。


「うん。……買おう」


△▼3△▼


 それから二十年。


 私は百パーセント的中の占い師として巨万の富を得ていた。水晶に映る未来はすべて現実のものとなる。そのような状況下で私は身もだえていた。なぜなら、私の経歴はのだから。


 魔性の道具を頼った時点で私の人生は破綻していたのだ。私は。自分自身の才能を自分自身で潰してしまった。


 今日も我が店には大勢の客が訪れる。


<了>

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占技神技狂奔 電咲響子 @kyokodenzaki

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