5-4

イノシシが覆い被さってくる。星人は反射的に腕で顔を守った。


そのとき、瞬間的にイノシシが怯んだ。


「なぜだ――?」


僅かな時間を利用して星人は後方へ逃げる。イノシシはついてこない。


星人が顔を覆い続けていたからだ。星人は全身宇宙服。全身が白い特殊生地の宇宙服で覆われているが、顔だけが透明のガラスのようなカバーに覆われている。イノシシは星人の顔に反応したのだろう。顔を覆えば、イノシシは獲物を認知できない。


視覚認識の仕方が、地球とは違うのかもしれない。地球の動物は動くものに反応する。しかし火星の動物はそうではないのかもしれない。色、匂い、音――何かに反応するが、どの器官が発達しているのかも分からないのだ。相手には地球の常識は通用しない。


そうだ。相手の世界が未知で、恐れることであっても、それは相手も同じ事なのだ。相手は地球のことを知らない。


自分も相手もお互いのことを知らない。アドバンテージはどちらにもない――いや、そうでもない。もしかしたら、地球人の方が有利だ。地球人なら惑星としての火星のことを知っている。毎日天体観測することだってできるのだから。しかし火星人はどうだ?地下に住んでしまったのが災難だ。


星人は跳躍した。


イノシシは大口を開けて天を仰いだ。星人は一メートルほど跳躍し、枝木に捕まった。それからまた跳躍し、木を軽々と登る。


「どうだ!追いかけてこいよ?」

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異世界じゃなくて火星に転生して、モテた 朝楽 @ASARAKU

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