彼はまだ、
都村シノ
大切な人
君には大切な人がいるだろうか。
君の友達、家族、恋人でも。君の周りにはいるだろうか。
大切な人というものは難しい。どうすれば出来るものだろうか。そんなことをいくら考えたって答えは出てこなかったよ。
普通に生活できていればそういう人達は自然とできていくものなんだろうか。
確かに普通に生きてれば家族ぐらいは大切な人になっていたと思うよ。
だけど俺は普通に生きてこれなかったから、
俺には大切な人がいなかった。
信用できる友達も、共に過ごす家族も、守りたい恋人もいなかった。
こんなクズ人間でも一応は人間だから。それが寂しくて寂しくて仕方なかった。
だからもっと人との距離を置いた。距離を置くと言っても、もともと俺の周りには誰もいないから気分の問題だけだけど。それでも少し楽になれた気がしたんだ。
人を見たくない。声を聞きたくない。人と話したくない。この条件が揃ったら、本当に俺は社会不適合者なんだなと思ったよ。
でも当時はそれでもいいと思ったんだ。
この世界は理不尽で、価値のないものだと思っていたんだ。しかも俺の周りには誰もいない。だから誰かのために頑張ると言うことが出来なかった。
いつ死んでもいいと思っていた。
これが17になるまで思っていたこと。
実は言うと、俺はあのまま死ぬかと思ってたんだ。
なぜ死にそうか、とかは今は置いておくけど、あの時の俺は本当に酷かった。
寒い冬に路地裏で、もう1ヶ月はまともなものを食べてなかった。本気で死ぬかと思ったよ。
でもその時、ある人が俺を見つけてさ。本当はすぐに逃げたかったんだけど、走れなくてすぐに捕まったよ。
それでまあ結果から言うと、その人が僕の人生を変えてくれた人なんだ。
あんなに考えていたものが、すぐに出来るなんて思ってなかったよ。
運命は突然だな、人生は気まぐれだなって思った。初めていいものかもしれないと思ったよ。
君ももしかしたら俺と同じ考えを持っているのかもしれないね。もしそうだったら一緒に話そうよ。
俺は政治家じゃないから、たくさんの人のために、なんて大層なことは言えなけど君1人の為ならなんだって一緒に考えることは出来るよ。
そしてその最後にはね、俺が実際に体験した話をするんだよ。ちょっと不思議でおかしな話。
みんなその話を聞くと、なんだそれ、と言って笑ってくれるんだ。自分の話で笑顔になってくれるってとても嬉しいよね。
さっきまで生きる気力もなさそうな人が笑うんだよ。生きててよかったと思う。
だから君にも僕の昔話を聞いて欲しいんだ。それで今日はお終いにしよう。
それで今日は早く寝て、明日実家にでも帰ればいい。旅でもしたらいい。
早く寝るには早く話を始めないといけないね。それでは昔話をしましょうか。
僕が実際に体験した、
不思議でおかしな、そして少し悲しいお話を。
彼はまだ、 都村シノ @tumura___
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