少女とカオスとプロフェッサー
niwaka
プロローグ
プロローグ
SCP-1XXXXX 『ちょうどいい椅子』
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「あぁ、何もかも終わりだ!!僕の人生はここで終わるんだ!!」
「早く座ってください。」
「…分かったよ。どうせ僕は死ぬんだ。何処だって行ってやるよ、糞ったれ!!」
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犬や馬の描かれた壁、青空のような天井――――――――――――――――――。
『私』はいつも独り、研究施設に閉じ込められていた。
部屋は子供部屋のような形をしているが、入口は冷たい鉄の扉で、普段は固く閉ざされていた。そして、天井に取り付けられている監視カメラが、つねに『私』を監視し続けている。
時折、白衣を着た人やオレンジ色の制服を着た大人たちが入ってきて、「遊びの時間だ。」と言って、おもちゃを持ってくることがあった。
ベタベタするインク、人語を話すワニ、目を離すと動く石像なんかもあった。施設の生活は退屈ではなかったが、怖い思いもたくさんした。
友達を作る努力をしたこともあった。だけど、みんな友達になる前にどこかへ行ってしまうため、それが一番寂しかった。
今いる施設には、周りから『博士』と呼ばれている人がいるらしい。実際会ったことはないが、何度かカメラ越しに博士へ「自分は何故ここにいるのか」と聞いたことがあった。しかし
「君は、ちょっと変わった病気にかかっているんだ。だから、治るまで外には出られない。だけど、きっと良くなるから、早く元気になって外で待っている家族や友達に会いに行こうね。」
と、答えるだけで一度も外に出してくれたことはなかった。『私』は、博士の言っていることは嘘だと知っていた。自分は本当に病気だからここにいるのかもしれない。ただ、『私』は親の顔など知らないし、外で友達などできたことがなかったからだ。
ここに来て数日が経過し、自分は青空の天井を見上げ、ボーっと考え込むことが多くなっていった。「ここを出たら外の世界を見て回りたい」とか「できたら友達と回れたらな」ということ取り留めのないことばかりを考えていた。
だけど、誰も外に連れ出してはくれる気配はなかった。
虚ろな日々が続いた。
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「SCPの様子はどうだ?」
「はい、博士。今のところ、体温やバイタルは正常です。以前実施された定期健診の結果が出ましたが、身体のどこにも異常はないようでした。」
「そうか、引き続きこの少女の監視を続けてくれ。」
「あの、博士?」
「どうした。」
「いえ、何故この少女はこんなにも厳重に収容されているのでしょうか?」
「ああ、君は財団に採用されてからこの施設に配属されて間もなかったね。」
「はい!採用されてから1年くらいになりますが、この施設はまだ1ヵ月くらいです。」
「これまでSCPに関する報告書を読んでこなかったのか?」
「いえ、様々な報告書も読みましたし、研究もしてきました。ただ…、このSCPは他と比べて普通過ぎるというか、危険性が無いように見えるのですが。」
「SCPはな、どれだけ無害に見えても、一つ一つが核ミサイルのような危険性を孕んでいるのだよ。」
「それは理解しています。しかし、このSCPの報告書には『壊滅的な事象が発生しても、耐えうるほどの耐久性』と記載されているくらいです。ただ、筋力も知能も平均並みですし、出生やこの子の両親も至って普通です。それに要注意団体との関係性も否定されていますが。」
「確かに、こいつは特別な能力を持っているわけではない。保護されたときの状況が、ちょっとな……。」
「何かあったんですか?」
「こいつが保護されたとき、付近には世界が終わるほどの被害をもたらしたSCPがいて、周辺の国は壊滅的状況でな。そんな中、こいつだけは何の影響を受けることもなく生き残った。しかも、収容違反のあったSCPが沈静化したことで財団の目を引いて、保護されたとの事だ。」
「なるほど。とても運の良い少女、ということですか?」
「簡単に言えばそういう事だ。上層部の連中が言うにはSCPを無効化出来るのではないかとか、この子には致死性の毒も洗脳も効かないのではと、財団も躍起になって研究を続けていた。だが、研究すればするほど、普通の青年であることを証明する結果となった。今じゃ、こんな
「でも実験では一度も死ななかったのでしょう?」
「上層部が欲しいのは『SCPを無効化できる存在』であって、単に不死身なだけじゃそこらの奴らと変わりないってことなんだそうだ。
まあ、何もないものを観察しててもしょうがないし、近々上層部と掛け合って一般レベルまで落とせないか掛け合うつもりだ。」
「そうなんですね。この子も早く外に出られるといいですね。」
「そうだな。」
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ある日、それは突然に目の前に現れた。
いつもと変わらない一日。朝(といっても何時か分からない)、目が覚めて、ベッドを降りて、歯を磨いて、運ばれてきた朝食を食べた。いつもと変わらない一日の始まりだった。
朝食を食べ終え、いつもの考え事をしていると部屋の中に少し違和感を覚えた。
辺りを見渡すと、部屋の隅に見覚えのない椅子が一つ置いてあるのに気がついた。
博士が置いていったのか?そう思い近づいてみる。椅子の上には、上品な封筒に入った一通の手紙が置かれていた。不審に感じつつも、『私』は手紙に目を落とした。
『
拝啓 この椅子が届いた方へ
この手紙を読んでいる方が何処の何方かは存じ上げませんが、こんにちは。
私は世界中を旅し、珍妙な物や現象などを探している者です。
さて、急な話で申し訳ありませんが貴方は今お困りではありませんか?
貴方は今、”外に出たい”とお考えではないでしょうか。
もし、今すぐに何処か別の場所へ行きたいというのであれば、この椅子がとて
も貴方の役に立つでしょう。
この椅子は、貴方が望む場所へ何処へでも連れて行ってくれます。例えば、家
族が待つ故郷、逢いたいと思う人が住んでいる街、未来や過去。何処へでも行く
ことができます。
使い方は、ただ、椅子に座って行きたい場所や時間について話しかけてみてく
ださい。
この椅子が、貴方の役に立つことをお祈りいたします。
敬具
』
手紙の差出人が誰だかは分からなかった。それよりも、何故外に出たいなんて知っているのだろう。
「自分の行きたい場所か……。」
手紙を読み終えると、試しに椅子に腰かけてみた。椅子は座っただけで壊れそうだ。
天井を見上げ、しばらく考えてみた。この椅子は外に出たいという意識が強くなっていた自分には、まさに渡りに船だった。
しばらく考え込んでいると、突然部屋のドアが開いた。
外から白衣を着た若い男が入ってきた。
「や、やあ、君に会うのは初めてだね。僕はここで君の担当をしている研究員だ。
さて、突然で悪いんだけど、君をここから移送することになった。実は、君は病気じゃない。まあ、洗脳すら効かない君はすでに知っていたんだろうけどね。
もう、この研究所はだめだ。この施設に目を付けて要注意団体が襲撃してくるわ、他のSCPは外に出るわ、外は戦争状態さ。博士も死んだ。この研究所も核ミサイルに耐えるよう作られてはいるが、もう持たないだろう。ところで…」
男はため息をついた。気が落ち着かないのか、海藻のような前髪を弄っている。
「ところで、君は一体何なんだ?博士は君が何者か分かっていなかったようだが、僕は違う。君はSCPと接触しても、何の異常も示していないのだから」
急に男が大声で笑い始めた。
「は、あははは!!!もしかして、この厄災も君が呼び寄せたのか。それなら合点もいく!何が幸運の少女だよ。どんなものを呼び寄せたって、君には影響ないもんなぁ!なんで早く気付かなかったんだ!」
頭を掻きむしり始める。
「あーあ。なんでこんなことに気が付かなかったんだ!こんなことなら、初めからこの施設に配属されりゃあ良かったのに!もう……、手遅れじゃないか……。」
床に蹲り、そして嗚咽を漏らしながら泣き始めた。
「もうお前がどんな化け物かなんてどうでもいい…。
こんなはずじゃなかったんだ…。僕はただ、SCPの研究がしたくて財団に潜り込んだのに…。
もっと早く気付いていれば…。
ああ、
誰か
『誰』か助けてくれ…。」
男は床にうずくまるようにして泣いた。部屋の外では銃声が聞こえる。
「あの、ここで死ぬのは勝手ですけど、もし良かったら一緒に外に出ませんか?」
「そんなことできるもんか!!!」
「あの…、ちょうどいい椅子があるみたいなんですけど……。」
男が跳ね起きた。
「そんな都合のいいもんあるものか!あるんだったら苦労しねえよ!!あぁ、何もかも終わりだ!!僕の人生はここで終わるんだ!!」
外の足音が近づいてくる。
「時間がないので、ここに座ってください。」
「はいはい、分かったよ!!その椅子に座って死ぬのを待てばいいんだろ!どうせ僕は死ぬんだ。何処だって行ってやるよ、糞ったれ!!」
男は自暴自棄になっていた。男が色々と喚いていたが、なんとか椅子に座らせた。
椅子の大きさが想像より小さかったため、しぶしぶ『私』は男の膝の上に乗る羽目になった。
「どこか行きたいところはありませんか?」
「急にそんなこと言われても思い浮かばねぇよ。つーか、どけ!!」
「どこでもいいですから早く。」
「どうせ死ぬんだったら、財団設立前のサイト0に行きたかったな…。だけど、何処にあるかなんて分からないぃぃぃぃぃ―――…。」
それから間もなく、武装した兵士が突入してきた。
だが、部屋には誰も無く、静寂に包みこまれていた。—―—―—―—――—―—―
続く
少女とカオスとプロフェッサー niwaka @niwaka00
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