(???)〜蒼〜

まるで空の中に居るかのように何処までも蒼く澄んだ空間。


目を閉じても瞼が下りず、変わらず澄んだ空間が見える。


周囲は何も無く、ただただ広い空間せかいが遥か遠くまで続いている。



―――ここは一体どこだろうか。




そう呟こうと、私は声出そうとしたが口が動かず、口から音は出なかった。


しかし、空間に何処からか声が響く。




聞いたことのある声、それもそうだ、だってあの声持ち主はほかでもない私。


あれは私の声なのだから。



どうやら、声を出したいと思えばことが出来るらしい。


それを知った私は、とりあえずこの場から動くことにした。


しかし、どこを見ても蒼だけで、自分の身体が見当たらない。




言葉通り、だけが浮遊しているようだ。




ただ、声を時と同じように、歩きたいと思えば、ことは出来るらしい。


私は意識の中でゆっくりと




そうして、一体どのくらいたっただろう。


すぐだったような気もするし、途方もない時間だったとも思える。


蒼しか無いこの空間せかいをさまようようにいた私は、声を



『 寂しい、悲しい、辛い、憎い、哀しい、寒い、お腹空いた、苦しい……… 』






そんな言葉を繰り返す、迷子になった小さな子供のような声。


私はその声のする方へ向かっていく。




すると、蒼い空間に黒い埃のようなものが、幾つもふわりふわりと浮かんでいた。




『 寂しい、辛い、哀しい、寒い、……… 』




どうやらこれが声の主らしい。


私がそのひとつに


すると、まるでサラサラと砂が零れ落ちるようにそれに巣食っていた黒が溶け、残ったのは元の姿とは正反対の雪のように真っ白な綿のようなもの。


それが何なのか、尋ねる間もなく、真っ白になったそれは、


『ああ、温かい……ありがとう。じゃあね』


と言ってふわふわと蒼の中に浮かんで消えていった。




私がそれが消えた方を眺めていると、




『 ありがとう。やっとあの子は報われた。最後に温かさをありがとう。 』




どこからともなく声がした。




(あなたは誰?)




『 ボクら? 』


『 ボクらは「負」 』


『 君が封じて浄化している「もの」の欠片にして、核となるもの 』




相変わらず姿はないが、どうやら一人ではないらしく、幾つもの声が語りかけてきた。




『 君に提案があるんだ』


『 もし君がここから出たいなら 』


『 ボクらのお願いを2つ聞いて欲しい 』




(お願い?)


私は何を頼まれるのか、検討がつかず、首を


『 一つ目は、1日の内、君の意識がなくなる時 』


『 つまり眠る時にボクらと話をして欲しいんだ 』


『 そうしてくれれば、さっきの子みたいに 』


『 ボクらは「寂しく」なく、浄化されて消えて行く事が出来る 』




黒いモヤはチラチラと、無邪気な子どものように空間を駆け回る。




『 そして二つ目 』


『 二つ目は、君の抱えるその「負」をボクらにくれないかな』


『 「負」とはボクらの存在そのもの 』


『 君が抱える心の「負」 』


『 それはボクらに対する「憎しみ」 』


『 ねえ、お願い 』


『 少しずつ、少しずつでいいから 』


『 ボクらをそして、ボクらを「外」に生み出してしまった「あの子」を許して欲しいんだ 』


『 すぐに全てをゆるさなくてもいいから 』


『 君のペースでゆっくりでいいから 』




『 この2つのお願いを聞いてくれればボクらはこの余りある魔力を君が起きている間、ここの「外」で、人の姿を取れるようにするために使ってあげる 』


『『『 どうかな? 』』』




私はしばらく考えを巡らせていた。


私の中にある、心の「負」。


自覚はある。


確かに許せるかと聞かれれば、まだ許せないとは思う。


でも……私にはそれ以上に「外」に心残りがあった。




『分かった。今はまだあなたを許すことは出来ないけど、私はまだ彼に返事ができていない。だから、あなたのお願いは聞いてあげる』




『 ありがとう 』


『 これで「あの子」も救われる 』


『 じゃあ、いまから 』


『 キミを1度、「外」の世界に送ってあげる! 』




そう、声たちが言ったその時、


じわりじわりと魔力が全身を満たすように身体に流れ込んでくる。


気がつけば、さっきまで『蒼』しか無かった空間に、見覚えのある手や足、既に懐かしさすら覚える、お気に入りのワンピースといつも着ていたフードの付いたロングケープ。


そして、視界の端で肩口にサラリと揺れた、蒼に透き通る自分の髪。





『 じゃあ、また 』


『 君の意識が 』


『 この空間に 』


『 帰って来る頃にね 』






いたずらが上手くいった子供のように、クスクスと笑いながら無邪気に私に語りかけるいくつもの声に見送られて。






セレスタイトは、この『 蒼 』の世界からライゼが居る元の世界へと浮上したのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

少年と氷華の髪飾り シナ(仮名 シナ) @sina-5313-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ