第六夜 ドラゴンボール
今夜も夢が始まった。鷹見の視界には見られた景色、つまり自分の部屋の光景である。昨日と同じように自分の部屋の椅子に座っていた。しかし明確に違う点が一つ。床に昨日彼が使った日本刀が伝説の聖剣よろしく突き刺さっていた。鷹見は一瞬不審に思ったが気にしないことにした。夢に整合性を求めるなど無駄だと思っていたし考えてもわかるはずがない、きっとこの殺し合いを奨励している奴(ここからは便宜上主催者とさせてもらう)が気を利かせてくれたんだろうと彼は思った。日本刀を引っこ抜いてから二、三度軽く振るう。ヒュン、と空気を切る音がした。
(……昨日より大分手に馴染んできた気がする、良い感じだ)
鷹見は刀の柄をぎゅっと握りしめると外へ駆け出した。あの主催者の話によるとここでは人を殺せば殺すほど能力が強化されるらしい。つまり漁夫の利を狙うより積極的に殺しに行ったほうが良い。そう思いながら鷹見は自身から湧き上がる殺人衝動に折り合いをつけていた。
「夢の中で迄言い訳するのかよ、正直になれって」
また、鷹見の口がひとりでに動いた。鷹見は怪訝そうな顔をして自身の口に触れる、考えてはいけないことや考えてもわからないことに悩むタイプではないが流石に薄気味悪さを拭えなかった。自身の体を操られるような、自分で自分がコントロール出来てない感覚。自分という人格が侵されるようで言いようもない気持ち悪さを鷹見は感じた。
しかし思考は突如打ち切られる。
「やい!見つけたぞ、勝負しろ!」
と、まるでポケモンのたんぱんこぞうのような風貌かつ話し方の少年が鷹見に話しかけた。鷹見は子供が相手か、と拍子抜けしたもののすぐに気を引き締め刀を構えた。たとえ子供でもここにいる以上能力という武器が与えられている。故に鷹見は油断しなかった。
「よーし、行くぞ!」
少年は快活な声を上げると地面を蹴り二階建ての家を超えるほど飛び上がるとそのまま鷹見に殴り掛かった。それに対応するように鷹見は半歩下がり少年が着地する瞬間腕に刀を振るう。それにより少年の細い腕は無残にも切断される……のが鷹見の算段だったが深さ一センチ程度の傷がついただけだった。痛みをほぼ感じないここではかすり傷だろう。一方少年の拳は空を切りアスファルトにめり込んだ。ぐごっ!と鈍い破壊音が辺りにこだまする。
(身体能力を上げる能力か?腹に一発でも当たれば内臓ぐちゃぐちゃになりそうだな………けど、リーチはこっちが上だ。外から一方的に切り刻めば勝てる)
鷹見は冷静に相手を分析し、一旦距離を取ってから斬りかかる。それを少年は再び飛び上がり回避した。
「どうした?挑んできたのに逃げてるだけか?」
「へへん、そう言っていられるのも今のうちだぞ!」
少年は鷹見の挑発に見事に乗ってしまいブロック塀を蹴って鷹見の後ろに回り込み飛び掛かった。それを鷹見は体を捻り大きく腕を回して少年に斬りつける。少年の服が裂け血が噴き出た。
(体が小さくて体重が軽い分機動力があるのか、なら攻撃をかわして隙ができたら斬る。幸い攻撃は単調だからかわすのは難しくない)
鷹見はそう考え大きく距離をとり少年に対峙した。対して少年はネチネチとした鷹見の責めにイライラしたように地団太踏む。
「くそお!こうなったら取って置きを出してやる!」
「取って置き………?」
そういうと少年は両手首を合わせゆっくり腰付近に持っていきこう言い放った。
「か~~~~~」
「………………………おい」
「め~~~~~」
「……………おいおい待て」
「は~~~~~」
「おいおいおい待て」
「め~~~~~」
「おい待て待て待て待て」
「波ーーーーー!!!!!」
「おかしいだろ!!!!?」
その掛け声とともに少年は両手を突き出し蒼く輝く光線を放った。鷹見は慌てて避けようとするがかわし切れず左腕に直撃した。指がはじけ飛び腕が妙な形に変形している。
「かめはめ波じゃねーか!かめはめ波じゃねーか!」
「そうだかめはめ波だぞ!」
自信満々に言う少年に対し鷹見の顔は苦々しいものだった。
(こいつの願いわかった!漫画かアニメかしらんが悟空に憧れて、で成りたいと思ったんだ!単純か!)
誰もが幼いころごっこ遊びに興じ物語の住人に憧れたことがあるだろう、この少年もその例外ではなかったのだろう。ただ自身の願いを具現化して戦うこの夢では「強い人になる」というものはあまりにもかみ合いすぎているが。
鷹見の損傷は激しく刀を握れない、修復には時間かかる。しかし少年は容赦しない。
怪人が。
襲い掛かる。
夢中戦─夢の中で戦う話─ チラシ @syuu464
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