第356話 生徒会と準備万端

「氷野さん! 氷野さん!! そっちも準備があるんじゃねぇの!?」

 風紀委員長、一眼レフ片手に毬萌の撮影会続行中。


「氷野さんってば!」

「ぐへへ、大丈夫よ! 30分延長で!! いくら払えば良いの!?」

「そういうお店じゃねぇよ!! 毬萌、ちょっと一言頼む!」

「分かったーっ!」


 毬萌がニッコリと笑みを浮かべて、氷野さんに言った。


「マルちゃん、お仕事しないと、ダメだよっ!」

「んあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!」



 今の、俺じゃないから。

 氷野さんの絶叫だから。

 氷野さんでもあんな頓狂とんきょうな悲鳴を上げる事があるんだね。



「はぁ、はぁ……。桐島公平、毬萌の事、頼んだわよ。ああ、驚いたわ。メイド毬萌、とんでもない破壊力ね。ご褒美で蓮の花が見えたもの……」

「お、おう。なんつーか、無事で何よりだよ」

 毬萌の一喝は氷野さんにとって最上の褒美らしかった。


「文化祭も、風紀委員が警護と運営スタッフやるから、あんたたちも何かあったら言いなさいよね。特別に、私が行ってあげるから。でゅふふ」

「わーいっ! マルちゃんが助けてくれるなら安心だっ! ね、コウちゃん?」

「んあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!」


 そこはかとなく不安である。

 多分、呼ばないでもメイド姿の毬萌を見るために、氷野さんは来るな。


 とりあえず、松井さんに「大変だろうけど、何かあったら言ってね」と伝えて、俺と毬萌は被服室から生徒会屋台へと戻る。



「会長、可愛いー!」「キタコレ! 毬萌ちゃーん!」「メイドさん似合うよ!」

「こっち向いて下さい、会長!」「絶対に屋台行きます!!」「好きだー!」


 毬萌のヤツ、凄まじい人気である。

 確かに、元々の可愛らしさがメイド服で何倍にも膨れ上がっている。

 氷野さんの言うように、これは俺が気を付けていないとな。


「にははーっ。ありがとーっ! みんなも楽しんでねーっ!!」


 毬萌の笑顔を見た10数人の男子生徒がその場で悶絶して倒れたと言う。

 覇王色の覇気かな?



「ピコ太郎だ」「お、ピコ太郎だ」「ピコ太郎じゃん」「あれ、ピコ太郎」

「金色じゃないピコ太郎」「ピコ太郎だな」「え、いや、副会長じゃね?」


 ピコ太郎じゃねぇよ!!


 なんだ俺に対するリアクション!

 RPGの村人かよ! いや、村人でももうちょっとバリエーションあるわ!!

 もう、最後の発言者には俺、はしまきご馳走しちゃうよ?


「よそ見してっと危ねぇぞ! 特に火ぃ使うヤツら、気を付けてな!!」


 俺の注意喚起を聞いて、数人が「あいつピコ太郎の偽物だ、副会長だよ」と少しばかりざわついた。

 誰が偽物だ。俺は桐島公平だよ。



「わぁー! 毬萌先輩、どうしたんですか、その恰好! 可愛いです!」

「にへへっ、マルちゃんが着ろって言うからさっ!」

「ああ、桐島先輩、どうしたんですか、その恰好。いじめですか? 親御さんに連絡されますか?」

「流れで察して! 俺も氷野さんにこれ付けろって言われたの!!」


 俺の事を心配してくれる気持ちは嬉しいけど、秒で実家に電話かけないでくれ。

 鬼神チョンボ。


「とにかく、準備だ、準備!」

「毬萌先輩、汚れちゃうからエプロンしないとですよ!」

「花梨ちゃん、ありがとーっ」


「桐島先輩。こちら、りんご飴はすでに30個ほど完成しています。先輩?」

「おう。いや、メイド服ってエプロン付いてんのに、その上からエプロンするとか難儀だなぁと思ってな」

「そう言えば、そうですね。先輩もエプロンをどうぞ。銀ラメ振りますか?」


 俺は「おう。すまん」と礼を言って、エプロンを受け取る。

 銀ラメはいらない。


「花梨ちゃん、準備してくれたんだっ! じゃあ、わたしが先に揚げるから、休んでて良いよーっ!」

「ホントですか? ありがとうございますー」


「鬼瓦くん、俺らもはしまき焼いて行こう。俺が生地担当すっから、鬼瓦くんは仕上げを頼む。やっぱり、君のセンスの方が見映えは絶対良いからな」

「き、桐島先輩……! ゔぁい! お任せを! 先輩は、どうぞ椅子を使って下さい」

「おう。こりゃ助かる。あー。座れるだけでだいぶ楽だわ。……おう?」


 クレープの生地焼く要領で、はしまきのベースを量産している俺の前に、ちょこんとしゃがんでこちらを見つめる花梨。

 なるほどな。そう言うことか。


「花梨、お腹空いてる?」

「そう言うと思いました! 違いますよー!!」

「おう。何となく、俺も違う気はしてたんだ。でも、一応流れがな?」

「公平先輩って、お約束のネタ好きですよね」


「ほい、鬼瓦くん、5枚焼けた。……んで、花梨はなんで俺の前にいるのかね?」

「いえいえー。ただ、毬萌先輩だけメイドさんなので、ここは負けないようにと、先輩の視界に偶然を装って出来るだけ入っておこうと思いまして!」

「なんだ、そんな事気にしてたのかよ」


「気にしますよー! あたしだけ普通に制服ですもん!」

「いや、鬼瓦くんもいるじゃねぇか」

「この人は別です。鬼のお面かぶってるじゃないですか!」

「ええ……。ひどいよ、冴木さん……。あ、先輩、そちら受け取ります」


 開場と同時に客が来ると考えたら、はしまきもあと15くらいは欲しいな。

 ちなみに、俺が設計して鬼瓦くんが組み立てた屋台のコンロでは、はしまきが同時に30まで保温できる構造になっている。


「あのな、花梨。ひとつ良い事を教えてあげよう」

「へっ? なんですか?」

「可愛い女子が制服にエプロンしてるだけで、それはもう男子からしたらご褒美みたいなもんだ。前に自分でも言ってたろ? 制服にエプロンって萌えますねって」



「……公平先輩。もしかして、プロポーズですか!?」

「違うわい! どこの世界にはしまき焼きながらプロポーズするピコ太郎がいるんだよ! 前者と後者ならそれぞれ居るかもしれんが、合体させたらいねぇよ!?」



「あはは! すみませーん! でも、先輩が旦那さんになったら、毎日制服にエプロンで起こしてあげますね? せーんぱい! じゃなくて、あなた! って」

「ば、バカな事言ってんじゃないよ! おし、生地はこんなもんだろ!」

「あー! 公平先輩、照れてますねー? 素直じゃないんですからー」


 花梨のしてやったり顔を俺の脳内にある秘密のフォルダに保存したのち、俺は毬萌の様子をうかがう。


「どうだ、毬萌? 揚がってるか?」

「うんっ! アゲアゲだよーっ!」



 ああ、毬萌がアゲアゲでポテトを揚げている!

 立派になって……!!



「お前、ちゃんと料理できるようになって、偉いなぁ……!!」

「みゃーっ! コウちゃん、急に頭撫でたら危ないでしょ! 火を使ってるんだよっ!!」



 ああ、毬萌が調理関連でまともなツッコミを!!

 本当に立派になって……!!



 とりあえず、毬萌のやる気に水をかけることもなし、俺は再び椅子に戻って、今度はポテトのソースの補充に移る。

 すると、花梨も隣に座って「お手伝いします!」と言ってくれる。

 頼んでないのに気を利かせてくれる子って良いよね。俺は好きだなぁ。


「ケチャップはやっぱり一番人気だろうから、多めに用意しとかねぇとだな」

「あたしはマスタードが好きなので、たくさん作っちゃいます! そして、公平先輩のケチャップくんたちを食べちゃいます!!」

「なにをー。花梨って辛いの平気なんだっけか?」

「はい! パスタにはデスソースかけたりしますよ!」


 そう言えば、花梨の料理って基本的に刺激的だったわねと納得。

 納得し終わったのと時を同じくして、校内放送が響く。



「風紀委員長および実行委員長の氷野です。これより、開場しますので、一般のお客様も学園内に入られます。また、生徒もこの合図をもって、自由に模擬店を利用して構いませんので、皆さん、節度を持って楽しみましょう」



「おー。さすが氷野さん。気が引き締まるな。おっしゃ、3人とも、今日はやるぞ! 俺らの実力を知らしめてやるのだ!」

「みゃーっ! 任せてーっ!!」

「あたしも頑張ります!!」

「ゔぁぁあぁぁあぁっ!!」



 そして氷野さんが、その時を告げる。


「午前9時になりました。これより花祭学園、文化祭を開始します!」



 いよいよ本番。

 準備は上々。気分も高揚。


 さあ来い、お客! 何十人でも!!




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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よりぬき毬萌さん 毬萌と日常

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SS最終話 毬萌といつも一緒

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目次 またの名をお品書き

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