天才美少女な幼馴染のくせに、なんで俺の前でだけそんなにスキだらけなんだよ
五木友人/角川スニーカー文庫
第1話 毬萌と日常
俺の名前は桐島公平。高校二年生。
これでも学び舎である花祭学園では学年次席の秀才でとおっている。
今年から生徒会の副会長も務める、自分で言うのもアレだが、割と優等生。
そんな俺には同い年の幼馴染がいる。
「幼馴染がいるくらいでどうした」と思われるかもしれない。
確かに、世の中は広いゆえ、幼馴染がいる高校生だって結構な数いるだろう。
多数派ではないが、そこまで少数派とも思えない。
しかし、うちの幼馴染はちょいと特別なのである。
「コウちゃーん! 来たよーっ!!」
俺の部屋をノックもせずに入ってきたのは、神野毬萌。
そうとも、前述の幼馴染。
小柄でモフっとした人懐っこい柴犬のような雰囲気だが、天真爛漫で人を惹きつけ、成績も学年主席、おまけに顔もそこそこ、おう、まあそこそこ可愛い。
それだけかって? 違う、違う。
「あーっ、コウちゃん、その本買ったんだ!」
「おう。完結編。待ちきれねぇってくらい楽しみにしてたヤツだ」
毬萌は、俺が今読んでいる推理小説を見て、ニコニコ。
この推理小説は、作者の「犯人を言い当てられるものなら当ててご覧あそばせ」と言う挑戦的なスタイルが売りで、ネット上でも話題沸騰中。
実は俺、かなり予想に自信がある。
多分、犯人はお手伝いさんの——。
「犯人ってさ、最初の夜に被害者になったお屋敷の主人でしょっ!」
「おまっ! おまぁぁっ!! ネタバレすんなよ!! もう読んだのかよ!?」
「んーん。読んでないよー。コウちゃんが買ってた前編だけ読んだのだっ!」
「なんだよ。適当かよ。もうちょいで解決するから、待ってろ」
そして、俺は急いで読み進める。
作中ではクライマックス。
探偵が、お手伝いの節子さんを指さす。
そら見た事か。俺の予想はズバピタで当たって——。
——死んだはずの屋敷の主人が高笑いしながら出て来たんだけど。
全て読み終えた俺は、無言で本を閉じ、スマホを手にネットの海へ。
「この犯人は予想外」「死んだ人間とか反則だろ」「作者、ズルすぎ」などと、犯人を予想できなかった者たちの怒りの声でネットの海は熱海(あたみ)になっていた。
「ねーっ! だから言ったでしょ! にははっ!」
「……なんで分かったんだ?」
「簡単だよーっ! んっとね、前編の最初のページと72ページと、あとはね、163ページにヒントがあるよーっ!」
そのヒントとやらを読んだものの、サッパリ分からなかった。
そうなのだ。この、毬萌。
——超の付く天才なのである。
先日も、「むむっ、この製薬会社の株、上がると思うっ!」などと登校中に呟いたかと思えば、翌日新薬の開発に成功したとかでその会社の株は連日ストップ高。
もっと前、春休みには「工作したみたーっ! これ、すっごく速く走れるよっ!」と言ってキックボードを渡して来たので、河川敷で乗ってみたところ、ひと蹴りで川の中へすっ飛んで行った。俺ごと。
なんでも、太陽光を利用したターボエンジンを載せたとか。
それ、コナンのスケボーと同じ原理じゃないか。
女子高生の工作でアガサ博士に迫るんじゃないよ。
他にも例を挙げれば切りがないのだけども、こいつはガチの天才らしかった。
だが、話はそこで終わらない。
「コウちゃん、コウちゃん! 今日のわたし、絶対にスカートが捲れないのだ!」
「また訳の分からんことを言いやがる」
「見ててー! みゃーっ!!」
そう言って、毬萌はあろうことか、スカートのまま逆立ちをする。
「ひぃやぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁっ!!」
俺は咄嗟に目を閉じる。
何故ならば、俺は紳士であるし、紳士はたとえ幼馴染が相手でも、女子のスカートの中を覗かないからである。
叫び声を挙げたのは、アレがナニして自衛本能が働いた結果なのである。
「にへへっ、コウちゃん、見てーっ! ほらぁ、スカート捲れないでしょー?」
そう言われて、薄目を開けてみる。
断っておくが、毬萌のスカートの中を覗こうと思って見た訳ではない。
「……おう」
確かに、毬萌のスカートは捲れていなかった。
重力に逆らうように。なんだか光って見える。
奇跡を目撃しているのかしら、俺。
「よいしょっ、と! ねね、ビックリしたでしょー?」
「……まあな。一体、どういうカラクリで冷たっ!? え、なにこれ、冷たっ!!」
毬萌のスカートからやたらと冷たい雫が落ちている。
まるで、雪解け水の様な冷たさ。
——まさか。
「お前、そのスカート……」
「うんっ! 凍らせて来たよーっ!!」
「アホか!!」
「こいつ何で座んねぇのかな」ってずっと思ってた!!
ああ、毬萌の話の続き?
ちょっと脱線したけども、ご覧の通りだよ。
毬萌は天才だけども、とびっきりアホの子でもあるのだ。
「こ、こここ、コウちゃん……! ちょ、ちょっと寒いかも、だよぉー!」
「そりゃそうだろうな!? なんで今日は春先でちょっと冷えるのに、そんなイリュージョンしようと思ったの!?」
「こ、ここ、コウちゃんが喜ぶかと思って! に、にはははっ」
しかも、何故だか俺の前でだけ、それはもうスキだらけになるのだ。
理由は不明。分かった人は俺のスマホに電話して。
今ちょっとそれどころじゃないから。
「ああ、ちくしょう! ほれ、俺の服貸してやっから、早く着替えろ!」
「にへへー、ありがと、コウちゃん!」
「礼はいらん! 風邪ひくだろが!」
「んしょ、んしょ」
「おまっ! ばっ! 俺が外に出てからにしろよ! このアホ!!」
なにゆえ俺は、自分の部屋から慌てて飛び出さねばならぬのか。
さて、話がとっ散らかって恐縮だが、これが俺の日常であり、毬萌の日常。
質問がある? 悪いけど、それ、あとにしてもらえるかな。
今、びしょ濡れの床を雑巾で拭いてるから。
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