第33話 毬萌といつも一緒

「コウちゃん、コウちゃん! 延長コードに延長コード挿したらどうなるかなっ!?」



「コードがさらに延長されるだろうな!!」



 いつものように、俺の部屋で自分部屋よりくつろぐアホの子。

 俺のベッドに寝そべるのは許すにしても、手持ち無沙汰に俺の枕を抱きしめるのはヤメてくれないか。

 挙句「コウちゃんの枕、なんかくさーい」とか言われたら、俺が泣く。


「おい、こら! スカート、スカート!!」

 どうしてお前はベッドの上に乗るとバタ足をし始めるのか。

 水泳の実力も当然チートな毬萌ではあるが、そんなにバタ足を愛してやまない程の情熱を持っていた記憶はなのだが。


「にははーっ! コウちゃん、お父さんみたーい!」

「違う! 俺は良識を持った思春期男子だ!」

「でもさっ! わたしのスカートを注意するって言う事は、それ、少なくとも一回はスカートのことを見てるよね? コウちゃんのエッチー!」

「なんで急に天才的な切り返ししてくるんだよ……。俺ぁエッチじゃねぇよ!!」


 そもそも、勝手に足をパタパタやって、それを咎めたら「エッチ」とそしりを受けるなんて、いくらなんでも酷いじゃないか。

 言い掛かりだ。絶対に正義は俺にある。


「そう言えばさ、コウちゃん! 去年、わたしインフルエンザにかかったじゃん!」

「ああ、そうだったな。あの時は大変だった。せっせと看病したのは俺だぞ」

 中学校卒業を控えた時分だったろうか。

 俺は毎日、働きアリよろしく、せっせとポカリスエットと桃の缶詰を差し入れし続けた記憶がある。


 なんでも完璧に思える毬萌でも、体調を崩す時もあるのだ。

 そのあと、ちょうど一年前の今頃だったろうか。

 入学してすぐ、生徒会メンバーに選出された時期にも一週間くらい風邪をこじらせて学校を休んでいた時期がある。


「わたしさ、血液型B型なんだけどねっ! あの時のインフルエンザはA型だったのだ! ねね、これってすごくないかな!?」

「おう。すごい、すごい」

 普段はこうやって俺の前ではスキだらけになる分、毬萌が体調を崩すと、言葉では言い表せない寂しさがある。


 誤解しないで貰いたいのだが、大事に飼っている柴犬が具合悪そうだと、心をえぐられてような気分になるだろう?

 俺の言っているのは、そういうアレだから。


「花梨ちゃんと武三くん、生徒会に馴染んでくれて良かったねーっ!」

「そうだなぁ。二人は新入生だからなぁ。……って、おい! 俺も初入閣だぞ!? 俺に対する心配や安堵の意見を、そう言えば聞いた記憶がねぇ!!」

「にははーっ! だって、コウちゃんはコウちゃんだから、大丈夫なんだもんっ!」

「なにその理屈。ちょっと、分かるように言ってくれる?」


 時刻はそろそろ午後7時。

 腹が減ってくる頃である。

 夕飯のメニューはなんだろうか。

 毬萌がうちで飯を食っていく時は、おかずのグレードが上がるので嬉しい。

 いっそ、毎日うちで飯食ってくれたら良いのに。


 いや、それはちょっと言い過ぎか。


「コウちゃーん。わたし、海に行きたーい」

「おう。夏になったらな」

「あとね、あとね、花火も見たい! 浴衣も着たいなぁー!」

「まだ肌寒い日もあるってのに、気の早いことだな」


「良いじゃん! 計画を立てるのは有意義だし、計画を立てるだけならタダなんだから、どんどんスケジュール帳を埋めていくのだ!!」

 またこいつは、急に建設的なことを言う。


「そんじゃあ、俺ぁ修学旅行が楽しみだな。絶対に京都に行く」

「にへへっ、コウちゃん、一年生の時からそれ言ってるねーっ」

「良いじゃねぇか! 京都が好きなんだよ! 俺ぁ絶対に京都以外は選ばんからな!?」


 うちの学校は、私立らしく修学旅行が豪華。

 毎年、複数の候補地から好きな場所をチョイスできるシステム。

 心配なのは、京都は、北海道や沖縄に比べると希望者が少ないらしいので、候補地から漏れる事だけはあって欲しくない。


「仕方がないなぁー。じゃあ、わたしも京都で良いよー」

「ぐっ。なんか腹立つ言い方だが、希望者は確保しとかねぇと、京都行きそのものがなくなっちゃ困るからな。よし、絶対に逃がさんぞ?」

「みゃーっ! 捕まったぁー! コウちゃん、束縛するタイプだもんねーっ! にひひっ」

「人をヤンデレみたいに言うのはヤメろ! 俺ぁ正統派だ!」


 階段の下から、母が夕飯の支度が出来たと呼ぶ声がする。

 「すぐ行くよ」と答えて、俺は立ち上がる。


「コウちゃん、引っ張ってー! 一人じゃ起きれなーい!」

「ふんっ、じゃあずっと寝てろ! 俺が毬萌のおかずまで全部食っちまうからな! あと、俺に毬萌を抱き起せる力があると思うなよ!?」

「にははーっ、知ってるー!!」


「ねーねー、コウちゃん」

「なんだよ?」

「ずーっと毎日が、こんな風に続いていったら良いねっ!」

「どうした。なんか死亡フラグみてぇなんだけど」

「もうっ! わたしは本気なのにぃ!」



「……まあ、それも悪かねぇと思うけどな」



「あーっ! コウちゃん、わたしとずっと一緒にいたんだーっ!」

「んなこと言ってねぇよ! 何を意訳しとるんだ、お前は!!」


 とは言え、こんな毎日が、きっと続いていくのだろう。

 明日も、明後日も、その先も。

 なにせ、毬萌はスキだらけの幼馴染様だからな。

 俺が助けてやらねぇとしょうがないんだ。

 まったく、世話の焼ける。


 俺と毬萌は、いつも一緒。

 それだけは、不変的な運命のように思われ、俺は頭をかいた。



「ほれ、行くぞ!」

「はーい! 待ってぇ、コウちゃん!」



 さりとて、未来の献立よりも今日の夕飯である。

 食卓に並ぶ品は不明だが、食卓で並んで食べる相手は既に決まっている。

 それも、ずっと前から。

 まったく、不変的と言うヤツにも困ったものだ。

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天才美少女な幼馴染のくせに、なんで俺の前でだけそんなにスキだらけなんだよ 五木友人/角川スニーカー文庫 @sneaker

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