第357話 生徒会と商売繁盛

 土井先輩が言っていた。

 「生徒会の模擬店は立地に恵まれておりますゆえ、お客が途切れませんよ」と。


 校門が解放され、俺たちで作った入場門を通り、一般客が入って来た。

 え? お前入場門作ってないだろうって? ヘイヘイ、ゴッド。

 作ったよ! 覚えてないの!?

 ちょっとヤメて。戦力になったかどうかの話はしてない。


 ちなみに去年の俺はエンジョイ勢。

 部活にも所属していなかったし、特に目的もなかったので、生徒会の模擬店の見える位置で毬萌を見守っていた。

 豚汁は5杯くらい食べたかな。


 その後は、適当に学園内をぶらついて、体育館でコントとか軽音楽部のライブとかをボケーっと眺めて、また豚汁飲んで、気付いたら終わってた。

 おう。豚汁、6杯食べていたね。


 その結果、俺には昨年の経験と言うものがないに等しく、その点は花梨や鬼瓦くんと大差ないのである。

 そして、毬萌は去年の話をすると未だに3回に1回時候の挨拶を始めるので、積極的には聞いてこなかった。


 何が言いたいかと言えば、心構えが甘かったと言うお話。


「先輩! 桐島先輩! もうはしまきのストックがありません!!」

「マジでか!? 分かった! すぐに生地焼くから!」

「公平先輩! りんご飴もないですー! あ、はーい! 100円のお釣りです!」

「鬼瓦くん! りんご飴ないんだってよ! どうにかなりそう!?」

「今作っています! すみませんが、桐島先輩にはしまきをお任せしても?」

「よし来た。毬萌、ポテトはどうだ!?」


 俺は仕込み済みのタネを混ぜながら、毬萌の様子を確認。


「いっぱい出来てるよーっ! んっとね、30くらい!!」

「マ・ジ・か!! よし、花梨、ポテトをお客に勧めてくれ! その間に態勢をどうにか立て直す!!」


 毬萌にみっちりフライドポテト特訓をさせたのがこの場において唯一の正解だったらしい。

 冴木邸のシェフたちが「もう今年はジャガイモ食べたくない」と泣くまでポテトを揚げまくった結果、彼女の料理スキルは、ポテトの項目だけ伸び散らかしていた。


 そして、重ねて見積もりが甘かった。

 開場と同時にクライマックスが来るとは、思いもしなかった。

 お客の声が聞こえてくる。


「やっぱり、ここの生徒会さんは毎年美味しいわねぇ」

「本当に。子供も喜ぶから、うちもまずはこっちに寄るのよ」


 各ご家庭を守護する奥様方にまで好評が伝わっている生徒会の伝統。

 どうやら、俺たちの料理も評価されているらしかった。

 それは嬉しい。嬉しいのだが、これは参った。


 手が全然追いつかねぇ!


 そうか、これが『嬉しい悲鳴』ってヤツか!

 と、膝を打っている間に、新しく焼いたはしまきが売り切れた。


「今ならポテト、揚げたてですよー! いかがですかぁー?」

「おお、確かに美味そうな匂いだなぁ」

「これ、ソースは自由に選べるのかしら?」

「はい! 3種類からお選びできます! とっても美味しいですよ!」


 花梨のナイス誘導で、ポテトに注文が集中しているのがまだ救いである。

 その間に、鬼瓦くんがりんご飴の追加を作り出す。

 スイーツの鬼がりんご飴をチョイスした理由もここでようやく判明。

 りんご飴、思いのほか早く飴が固まるのだ。

 事前にリンゴの下ごしらえを済ませている分、瞬時に量産が可能。

 鬼神バッチリ。


「ゔぁ、りんご飴、よろじがっだら、どゔぞ!!」

「ひぃっ」

「あ、大丈夫ですよ! この人、声と見た目がアレなだけで、お料理はとっても上手ですから! 有名な洋菓子店の息子なので、味も完璧ですよ!」


 花梨のお客さばきも、なんと見事なものか。

 普段から朝礼やら集会の進行なんかをこなしてきた成果と見える。

 元々のハイスペックに加えて、勤勉な彼女に経験値が加われば、鬼に金棒。


「先輩……僕ぁ、僕ぁぁぁぁっ!!」

「おう! 鬼瓦くん、俺ぁ君の味方だぞ! おばさんに怖がられたからってどうした! 俺がその倍愛してやる!!」

「ぜんばぁぁぁぁぁいっ!!」


 こちらは泣いた鬼神。

 あとでいくらでも抱きしめてあげるから、はしまき焼いて。


「花梨ちゃん、ポテトの追加できたよーっ!」

「え!? ま、毬萌先輩、ポテトはもう大丈夫です!!」


 ちくしょう。

 本当に休む暇もありゃしねぇ。


「よし、毬萌! 調理は俺たち男子がやるから、花梨と一緒に接客頼む!」

「みゃーっ! 任せてーっ!!」


 これが本日一発目の俺の大失策。


「おいしいですよーっ! みなさん、食べてみてくださーいっ!!」

「会長! 自分、ポテト10個買います!」

「ふざけんな、お前! お、おれは、はしまき5個買います!!」

「会長、りんご飴あるだけ買いますから、握手して貰っていいですか!?」



 メイド毬萌の集客力がヤバい!!



「わわっ! あ、あの、押さないで下さい! ひゃあっ」

「おっと! 花梨、大丈夫か?」

 後ずさりする花梨をしっかりキャッチ。


「先輩、ありがとうございます!」

「おう。気にすんな。しかし、こりぁ悪手だったな」

「どうするんですか?」

「おう。俺に妙案がある。花梨、ポテト頼めるか? 鬼瓦くんは、悪いがりんご飴とはしまきを同時に頼む。パックに詰めさせるのは毬萌にやらせるから!」


 俺の指示がすんなり通る、この現場は得難えがたい環境である。


「分かりました!」

「ゔぁい! お任せを」


「毬萌! おい、こら! そこ、手ぇ引っ込めろ! 毬萌、俺と交代だ!」

「みゃっ!? 分かったーっ!」


 そして俺出陣。

 言ったじゃないか。俺には妙案がある。


「さあさあ、お客人! うちの3品、どれも極上の味だよ! 寄っててくれ!」


「ピコ太郎だ」「マジかよ、会長は?」「知らね。でもピコ太郎出てきた」

「書記ちゃんどこ?」「いや、ピコ太郎しかいねぇって」「嘘だろ」

「ピコ太郎だ」「ピコ太郎だな」「ピコ太郎じゃん」「エノキタケ」


 黒山の人だかりと化していた、主にうちの男子生徒が一気にいなくなった。



 ほらな! 妙案だったろ!

 ……べ、別に泣いてねぇし!?



「はしまき2つと、りんご飴2つ貰おうかねぇ」

「へい、ありがとうございます! 毬萌、袋に入れて差し上げて!」

「はーいっ! コウちゃん、できたよっ!」

「おっし。ありがとうございます。おばあちゃん、熱いから気を付けて下さいね」

「これはご親切にねぇ。ちょいと、みんなも買いなさいよ!」


「あらぁ、お兄さん、男前だねぇ」「うちの死んだおじいさんに似てるよぉ」

「うちのおじいさんにも似てるねぇ」「この手の感じ、懐かしいねぇ」


 俺、ご年配の女性からモテモテ。

 じいちゃんに似てるってのは、アレですよね。

 この付け髭のせいですよね?

 ……ね?



「だっはぁー。ようやく一息つけるな」

「はぁー。さすがにちょっぴり疲れましたねぇー」

「僕はまだ戦えます」

「あなたは一般人とは違うんですから、当たり前ですよ」

「さっきから、酷いよ……冴木さん……」


 嵐のようなお客の流れが途切れたのは、10時半を少し回った時分だった。

 つまり、俺たちは一時間半もの間、途切れる事のないお客を捌いていたのか。


「お疲れ様ーっ! でも、いきなり大繁盛だよっ! 凄いよ、わたしたちっ!!」

 疲労感を帳消しにする、毬萌の一言が飛び出した。


 そうとも、俺たちは、歴史に名を遺すべく準備をして来たのではなかったか。

 予想よりも客が集まった。結構なことではないか。

 まだ文化祭は始まったばかり。

 次のお客のピークは、12時前頃だろうか。

 飯時になると、再び店の前がごった返すのは間違いないかと思われた。


「とりあえず、みんな水分補給しとこう。腹減ってたら、適当に摘まんでいいぞ」

「わーいっ! 実はりんご飴を食べたかったのだっ! じゅるり」

「あたしもはしまき貰いますね。お腹空いちゃいました」

「僕は水だけで大丈夫です」


 鬼瓦くん、ナメック星人なのかな? 鬼はヤメたの?



 そんなしょうもない事を考えていると、思わぬ来客がやって来た。

 いやさ、ご降臨なされた。


「兄さん、姉さん! おっ疲れ様ですー! えらい行列でしたねー」

「はわわ! 公平兄さまー! 遊びに来たのですー!!」


 疲れが全快した。

 誰かがラストエリクサーでも使ったのかな?


 違う? じゃあ、天使の贈り物だね。


 ステキな出会いはセクシーを通り越してエンジェル。


 運命と言う名のディスティニーを巻き込んだ、淡い色のパステルカラーの淡い光がフラッシュと言う光になって俺の心と言う名のハートを撃ち抜いてディスティニー。



 心菜ちゃんと美空ちゃんがやって来た。




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よりぬき鬼瓦さん 鬼瓦くんと進路相談

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SS最終話 毬萌といつも一緒

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目次 またの名をお品書き

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