第349話 心菜ちゃんと花梨パパのよく分かる料理教室
「くっくっく。よく来たな、未来の息子よ。昨日の惨劇に懲りず再び立ち上がる姿!
ぶっちゃけて言うと、来たくなかった。
昨日は家に帰ってから目薬がなくなるまで両目にぶち込んだ。
それでも目が悲しむので、録画しておいたごちうさを見てどうにか持ちこたえた。
ちなみに、メシマズシスターズが生み出したフライドポテトの冒涜の極みは、俺と鬼瓦くんとシェフの方々で美味しく頂いておいたので安心されたし。
食品ロス、ダメ、絶対!
どんなものでも食えるものは食うのが鉄則である。
すみません。美味しくと言うのは嘘でした。
今日は協力してくれたシェフの数人が欠勤だとか。
重ねてすみません。商売道具の舌に大ダメージを。
「……鬼瓦くん。前向きに考えよう」
「はい。ちょっと視線が下がりつつありますが、先輩に付いていきます」
「昨日、俺たちは二つのものを得た」
「と、言いますと?」
「一つは、模擬店で提供するメニューの着地点が見えたこと。これは大きい。花梨のお父さんの助言を貰えたことが功を奏した。さすが、経営者は発想が違う」
「そうですね。僕もかなりイメージが固まりました」
「くくくっ! 貴様ら、ワシを褒めてもアレだ! 田中ぁ! 果汁100%のメロンソーダと言うものをこやつらに見せてやれぃ!!」
「はっ! すぐに!」
ツンデレに無茶振りされる田中さんが戻って来るのに10秒かからなかった。
「して、花梨ちゃんと毬萌ちゃんはどうした? 一緒ではなかったか?」
「俺らが先行してお邪魔してます。どうにか対策を立てにゃならんぞと」
「先輩。思うのですが、僕たちの助言、お二人は聞き入れてくれますか?」
鬼の一撃が、俺の持っていた希望の中でもとびきり大きいヤツを貫いた。
それを狙う事ないじゃないか。
「くくくっ。ちなみに、花梨ちゃんの独創的な料理には、磯部同様、ワシも手を焼いておる! この機会にどうにかなるならどうにかしたい! 協力は惜しまんぞ! ……もう、バレンタインデーが来る度に医者を待機させるのは辛いのだ!」
あ、花梨さん、ちゃんとパパ上にチョコあげるんだ。
やっぱり、なんだかんだ言って、そういう優しいところは良いね。
今日は強力な助っ人もいることだし、勝ち戦にしよう。
そして、明日、総仕上げだ。
何度も繰り返すが何度でも言おう。
時間がない。今日だって学校ではすさまじい量の仕事をこなしてきた。
この貴重な時間で、俺たちは何を得ることが出来るのか。
「ただいま! ささ、どうぞどうぞー」
花梨が帰って来た。
つまり、毬萌も来たということ。
今日と言う今日は容赦をしない。
スパルタ方式でいくしかない。
身も心も鬼に。鬼瓦くんにトランスフォームするのだ。
「こんにちはーっ! お邪魔しまーすっ!!」
毬萌の元気な挨拶に、俺たち3人はほっこり。
ただ、この後にまだ挨拶が続くとは、誰も予想だにしなかった。
「はわわ! おじゃまいたします、なのです!!」
いつもなら何をさて置きお出迎えすべき心菜ちゃん。
しかし、今回ばかりは場が悪い!
お料理地獄に天使が舞い降りちゃった!!
「公平兄さまー! さっき、そこで毬萌姉さまと花梨姉さまに会ったのですー」
「お、おう! そうかぁ、うん、そうかぁ」
「桐島先輩、どうなさるのですか!?」
「俺に心菜ちゃん追い払えってのか!? んな事するくらいなら、俺、死んじゃう!」
「し、しかし、その、心菜ちゃんに被害が及ぶ可能性も!」
「ああああああいっ!! そっちのパターンもあったか!」
俺と鬼瓦くんが内緒話をしていると、事態が更に悪化していた。
「じゃーんっ! 今日はエプロン三姉妹だよーっ! 見よ、この姿をっ!」
「心菜もお料理するのです!」
「とっても似合ってますよ、心菜ちゃん!」
あかんヤツー。それは一番あかんヤツやでー。ゴッドはーん。
「さあさあ、時間がないんですから、今日もキビキビ行きましょう!」
「か、花梨! ま、ちょまっ!」
「むふーっ。心菜、前より料理上手になったのです! 兄さまにも見せたいのです!!」
うん。ドヤ顔心菜ちゃん、可愛い。
俺が心菜ちゃんに心奪われている間に、一行が厨房へ。
ハメ技使うのはヤメておくれ。
だが、ここから話は思わぬ展開を見せる。
天使のパワーが発揮される時がついに来たのだ。
これまで散々
俺たちはこれから、天使の救世を目撃する。
「ふらいどぽてと、なのです?」
「うんっ! あのね、ハンバーガー屋さんとかで売ってるヤツだよっ!」
「はわ! 心菜、知ってるのです!」
「そうですかー! 心菜ちゃんは物知りですねぇー」
「むふーっ。心菜、作った事もあるのです!」
「おい、どうしたら良い!? 俺、泡吹いて倒れようか!?」
「先輩、落ち着いて下さい。それは最後に残しておきましょう」
あ、いよいよの時には俺、泡吹いて倒れるんだな。
鬼神クール。
「あれ? 心菜ちゃん、お芋、そんなに細く切っちゃうのっ?」
「はいです! なるべく同じ大きさに切って、火の通りを均一にする、のです!」
おや? と思った。
だが、それは些細な引っ掛かり。
「あの、心菜ちゃん? 揚げる前に辛くしないんですか?」
「はいです! 濃い味は、せいかつしゅうかんびょう、の、原因になるのです!」
引っ掛かったものが、大変貴重な品である事に気付く。
こいつら、心菜ちゃんの言う事なら素直に聞きやがる!!
そして、その好機を逃さない歴戦の
「任せるが良い、息子に鬼の者よ。ここは、ワシが一肌脱ごう!」
「お、お父さん!?」
「せ、先輩! 僕たちはどうすれば!?」
そいつは俺が聞きたいよ。
「心菜ちゃん! おじさんにお手伝いできることないかなぁー? おじさんね、心菜ちゃんの役に立ちたいなぁー! もう、心がピョンピョンしちゃってるの!!」
ロシア軍人みたいな
パパ上、一肌脱いだらえらいことになってますが、大丈夫ですか。
「じゃあ、おじさんは油の温度を見ていて欲しいのです!」
「おじさん、了解したよ! 泡が立ち始めるまで待つんだよね!」
「そうなのです! おじさん、物知りなのですー!」
「花梨ちゃん、花梨ちゃん。お芋って高温の油に入れないとダメだよねっ?」
「はい。あたしもそう思います。でも、心菜ちゃん一生懸命ですし」
「だよねーっ。ここは見守ってあげよっか!」
「ですね! 失敗しちゃったら慰めてあげましょう!」
メシマズシスターズ。あれが正しい方法なんだよ!
どうも、パパ上はフライドポテトの調理工程について熟知している様子。
心菜ちゃんの手伝いを隠れ
「はわ! タイマーが鳴ったので、一回お芋を取り出すのです!」
「危ないから、おじさんがやるね! 任せておいて!!」
なんだか、教育テレビでやっている料理番組みたいになってきた。
パパ上も、見方によってはゴロリくんに見えなくも……おう。
「今度は、熱い油でサッと揚げるのです!」
「どれくらいの温度で、何分くらいかな? おじさんバカだから、知らないよー」
「はわわ、180℃くらいで、3分なのです! タイマーを使うのです!」
「ねね、花梨ちゃん。2回も揚げたらお芋固くならないのかな?」
「なると思います。でも、ほら、心菜ちゃんはまだ中学生ですから」
もう、お前らときたら、料理に関しちゃどこまでもバカなんだから。
……バカな娘を、それでも愛そう!
そして、その時はやって来た。
「時間なのです!」
「よーし、おじさん、お芋を取り出しちゃうぞー」
「お塩を振って、完成なのですー!!」
俺と鬼瓦くんは「いゃっほぉぉぉぉぉう!!」と歓声を上げたかったが、我慢した。
「さあ、せっかくだから、食べてみようぜ」と俺は自然に二人を促す。
毬萌と花梨も心菜ちゃんを邪見にするはずもなく、笑顔で頷く。
メシマズシスターズよ、目から流す
俺はできてる。
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