第350話 天使の奇跡とメニュー決定
「いっただっきまーす! あーむっ」
「はむっ」
メシマズシスターズ、
それを見届けてから、俺と鬼瓦くんも実食。
心配はしていなかったが、それは完璧なフライドポテトであった。
『究極のフライドポテト』とは呼べないかもしれない。
しかし『食べたくなるフライドポテト』の要件は全て満たしていた。
丁寧に切り揃えられたジャガイモ。
さらに、二度揚げによって、ホクホクとしっかり火が通っていながらも、外側はカリカリに仕上がっており、食感も楽しめる。
「心菜ちゃんの事だから、それなりのものは作れるだろうな」と思ってはいたが、失礼ながら予想の上を行くマイエンジェル。
そうか、その真っ白な羽は、俺の愚考なんて軽々超えていくんだね。
「んーっ! おいしーっ! 心菜ちゃん、すごい!!」
「ホントにビックリですよー! お店で売っているヤツより美味しいです!」
とりあえず、味覚はまだ辛うじて
毬萌は遠足で氷野さんの作った
「わたしたちの創作ポテトとすごく良い勝負だよねっ!」
大丈夫じゃなかった。
行かせない。
その柵の向こうに行かせてなるものか。
「おう、お前らの創作ポテトも良いが、俺ぁ心菜ちゃんのポテトこそ、文化祭に相応しいと思うんだけどな」
方針転換なら任せとけ。
こうなったら、不本意ながら、
そして、認めたうえで納得させる。
大丈夫、俺ならできる。俺がやらねば誰がやる。
「まずな、第一に、お前らのポテトはコストがかかり過ぎるんだ」
「むむっ! そこを突かれると困っちゃいますなぁ、花梨ちゃん?」
「そうですねー。あたしたちのヤツは、ゴージャスが売りですから」
どの口が言うのか。
ゴージャス? 違うね、あれはデンジャラス。
まあ、良い。好きに言わせておこう。
不意に花梨パパと目が合う。
「花梨ちゃんの味覚と料理の矯正作業はどうしたのん?」と潤んだ目が訴える。
すみません、パパ上。それはまた今度で。
元から、3日でこの子らをどうにかする計画自体に無理があったんです。
花梨パパが全てを悟り、しょんぼりと心菜ちゃんポテトをサクサク食べ始めたのを見届けて、俺は話を続けることにした。
「第二に、置きに行くメニューである必要はねぇが、ある程度万人受けするメニューであるべきだ。通好みのメニューは通しか食わん!」
「おおーっ! 確かに、わたしたちのポテトはどっちかって言うと通だねっ!」
「はい! 公平先輩の言う通りです! せっかく作るんですから、たくさんの人に食べてもらいたいですよね!!」
花梨のセリフはとても良い。
『刺激が気化して目と舌を両方
あのポテトがたくさんの人に食べられたら、「バイオハザードを起こした生徒会」と言う汚名を末代まで着ていかなければならなくなる。
「第三に、これが一番理由としてデカいんだが、シンプルゆえに、アレンジがしやすい! 心菜ちゃんのポテトは、そのままでももちろん美味いけど」
鬼瓦くんの肩をタップ。
もう話は付いているのだ。
「ディップソースでバリエーションを付けたら、それだけで目を惹くと思いますし、ソースは作り置きができますので作業も苦になりません。実は、先ほど、冴木さんのお父様と一緒にいくつか作ってみたのですが」
鬼瓦くんは、3種類のソースをテーブルに置いた。
左から順に、ケチャップ、マヨネーズ、マスタードがベースになっており、当然美食家のパパ上と料理人の鬼瓦くんのステキアレンジが加えられている。
さっき俺も試食したけど、どれもむちゃくちゃ美味かった。
しかも、家にある調味料で簡単に作れると言うオマケ付き。
「みゃーっ……。コウちゃーん、からいーっ……」
「いや、マスタードだって言ったろ!? 辛いのダメなヤツ用に3種類もあるんだから、ほれ、こっちのマヨネーズのヤツにしろ!」
「……あーむっ。みゃっ!? これ、おいしーっ!」
まず毬萌を陥落させた。
「花梨は大人なマスタード、試してみねぇか?」
「えー? あたし、まだ子供ですし。大人な味ってなんだか敷居が高そうで……」
「そう思ってからの驚きが楽しいんじゃないか! ちょっと食ってみ?」
「はむっ。んー? んー! 辛いです! けど、なんですかこれ、止まらないです!!」
花梨も陥落。
俺たちは勝ったのだ。
いや、真なる勝利とは呼べない。
言わばこれは、一時的な停戦に近いものがある。
しかし、メシマズシスターズがメシマズの火薬庫にならない。
それだけで、もはや戦略的な勝利は収めたも同然。
俺は、その歴史的な握手の立役者になった、心菜ちゃんにお礼を言う。
言わない理由があれば、逆に聞きたい。
そして、俺はそれを鬼瓦くんに頼んで太平洋の向こうまで投げ飛ばすだろう。
「心菜ちゃんのおかげで、俺たちのメニューが全部決まったよ! ありがとう! 本当に心菜ちゃんはすごいなぁ」
「はわわ! 心菜、兄さまのお役に立てたのです?」
「おう! もうこの上なく、な! 何かお礼をしないといけねぇな!」
「だったら、えとえと、頭をナデナデして欲しいのです!!」
「ほぴょっ」
「兄さまー? ダメなのです?」
「ああ、いや、ちょっと心がほぴょってね。……良いに決まってるじゃないか」
「はわわー! 兄さまのナデナデ、気持ちいいのですー」
今、俺は生きている! 幸せだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
ネイマールがゴール決めた後みたいにはしゃいでたら、毬萌と花梨がやって来て、笑顔で脅してくるんだから、世の中って塩が効いてる。
「コウちゃんっ! 食べ物の計画はマジメにやらないとダメなんだよっ!」
「公平先輩! 食中毒出したらどうするんですか!? ちゃんとして下さい!」
そりゃあ、ちょいとはしゃぎ過ぎたかもしれんが。
お前らが言うのか、それ。
「鬼瓦くん、どこまで話した?」
「メニューの概要についてご説明したところです」
「おう。そうか。で、二人は異論あるか?」
俺と鬼瓦くんと花梨パパで考案した料理は3品。
ひとつは
2つ目は、はしまき。
九州や中国地方では屋台のお馴染みメニューだが、全国的にはマイナー料理。
むちゃくちゃ端的に言うと、箸のぶっ刺さった、片手で食べられるお好み焼きである。
客の回転率に重きを置いた結果、イートインとテイクアウトも出来る点と、物珍しさで目を惹ける点が大きな武器であると思われ、決定に至った。
3つ目、スイーツはリンゴ飴。
鬼瓦くんは、学園内で既に『洋菓子屋のせがれ』と言う情報が知れ渡っている。
だからこそ、敢えての和スイーツ。
当然、持ち運びの観点からも精査したのは言うまでもない。
「どれも絶対おいしーヤツじゃんっ!! 試食はいつにする? ……じゅるり」
「あたしも文句なしです! 早く担当決めましょう」
ここまで来たらこっちものだ。
「二人には、言ってた通り、ポテトを頼む。心菜ちゃんレシピにちょいとアレンジを加えて、ラードで揚げてみようかって事になってるから」
「お二人は、そちらを完璧に作れるようになって欲しいと思います。才能豊かなお二人ですので、そう時間もかからないと思いますが」
俺と鬼瓦くんの流れるようなコンビネーションアタック。
鬼神きっちり。
「うんっ! それで良いよ!」
「残りは俺らで準備するからな。で、放課後の作業もなるだけ俺と鬼瓦くんで処理するから、二人は花梨の家でしばらく特訓な! 試食役なら、ほれ、お父さんが!」
鼻歌交じりに今日のメロンを厳選していた花梨パパ。
突然知らされる大役に、全身が硬直。
その手から、メロンが力なく転げ落ちる瞬間を、俺は見逃さなかった。
「えっ、あの、ワシ、ちょ、む、息子……?」
何も聞こえねぇな!!
すみません。これも愛娘の花嫁修業だと思って、堪えて下さい!
あと、そのメロン、ちょっとくらい潰れてても全然平気なので!!
自分、ありがたく頂いて帰ります!!
今日と言う日を記憶に残そう。
メシマズシスターズに、ブレーキが実装された記念すべき日である。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【絶賛発売中! 不明な点はコメント欄にて仰って下さい!!】書籍情報公開中!
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894182669/episodes/1177354054921171298
角川スニーカー文庫公式、全33話『幼スキ』特別SS
よりぬき毬萌さん 毬萌と年賀状
https://kakuyomu.jp/works/1177354054919222991/episodes/1177354054921539893
SS最終話 毬萌といつも一緒
https://kakuyomu.jp/works/1177354054919222991/episodes/1177354054921539977
目次 またの名をお品書き
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます