第344話 生徒会は何をしようか?

「さて。どうしたもんか」


 こうやって皆で知恵を出し合うのは、久しぶりである。

 普段は各々が得意分野の仕事をこなして、それを俺が纏めるスタイルでやっている生徒会。

 こうして一つの議題で相談していると、やはりオリエンテーリングを思い出す。


 思い出しついでに、去年の事も思い出すのはどうか。

 我ながら、ナイスな発想である。


 え?

 それオリエンテーリング決める時に花梨が言ったヤツのパクリじゃないかって?

 平気、平気! 誰も覚えてねぇって、ヘイ、ゴッド!



「去年は確か、豚汁作って売ったんだよな。生徒会は。なあ、毬萌?」

末枯野うらがねの美しき晩秋ばんしゅうの候、肌寒さが身にしみる冬隣ふゆどなり。公私ともに年末に向けて慌ただしい時期に入りましたが」



 なにゆえここで時候の挨拶が!?



 毬萌の瞳からすっかり光が失せている。

 待て待て、落ち着け。

 なんか嫌な思い出でもあったっけか。

 記憶をたぐり寄せろ、俺。


 あ、そうか。

 こいつ、里芋が大嫌いなのに、天海先輩にむちゃくちゃ味見させられるって泣きついて来てたな。

 なるほど、天海先輩は平気になっても、嫌な思い出はそのままなのか。


「鬼瓦くん!」

「了解しました。毬萌先輩、マロングラッセです」


「……あーむっ。んー! 甘くておいひーっ!」

 毬萌、無事セーフモードから復帰。

 やれやれ。どうやっても俺に心配させやがって、毬萌のヤツ。


「つーわけで、去年もその前の年も、生徒会は飲食系の模擬店出してんだ」

「だったら、やっぱりそこは合わせた方が良いですかね? だって、卒業された先輩方もいらっしゃるんだったら、伝統は守った方が良いと思います」


 花梨から早速建設的な意見が飛び出した。

 さすがは優等生。

 こういう場で一番に声を出してくれる彼女の態度は、やはり好きである。


「そうだな。伝統の踏襲とうしゅうってのは、悪くねぇ考えだと思うぞ。どうだ? 会長」

「うんっ! わたしも賛成だよーっ! 美味しいもの作って、みんなをビックリさせてやるのだっ! 味見も楽しみだなぁー。じゅるり」

「あはは! 毬萌先輩ってば、あたしたち作る側ですよー!」

「にははっ、これはわたしとしたことが!」


 とりあえず、食い物を売るって方向は定まった訳である。

 ならば、次は何を売るのか。


 去年の豚汁は美味かった。

 しかも安価で、長蛇の列が出来ていた記憶がある。

 俺は試食の度に毬萌が泣きついて来るものだから、代わりに何度か前生徒会の商品考案の場に立ち会ったが、凄まじかった。


 食材の厳選はもちろん、野菜のカットする角度まで決める念の入れよう。

 発想の天海先輩。

 実行の土井先輩。

 完璧な布陣で特製豚汁が製作されていたのを思い出す。


「去年を超えるとなると、何かしらの工夫がいるよなぁ」

「あの、桐島先輩。何も去年の生徒会に対抗せずとも良いのではありませんか? 別に競争する企画でもないですし」

「ダメだ! ぜってぇ去年を超えねぇと!! じゃないと、あの、頭だけブルース・ウィリス野郎にどんな嫌味を言われるか、分かったもんじゃねぇ!!」


「公平先輩、本当に教頭先生が嫌いなんですね」

「ねーっ。わたしには優しいけどなぁー」

「あたしにも結構親切ですよ」



 なんであの野郎、うちの女子たちに好かれてんだ!

 ちくしょう、ぶっ殺してやる!!



「き、桐島先輩、落ち着いて下さい! 顔は鬼の形相ですが、体が追い付いていません!!」

「お、おう。そうか。これは、すまん。俺としたことが」


 鬼瓦くんの若干心をえぐりに来る制止で、俺は冷静を取り戻す。

 そうだ、あの森林伐採直後の山肌に、悔し涙と言う名の酸性雨を降らせてやるのは、拳であってはならない。

 料理のクオリティでなければならぬ。


「料理のプロとしての意見を聞きたい。鬼瓦くんはどう思う?」

「そんな、プロだなんて。やめて下さいよ、桐島先輩」

「何言ってんだよ、鬼瓦くん! 君がプロじゃなけりゃなんなんだ! ほれほれ!」

「ははは、先輩、くすぐったいですよ。やめて下さい」


「あれ? 毬萌先輩、また動画撮影してるんですか?」

「うんっ! 文芸部の子がね、年末に向けて薄い本作るから、資料に生徒会の男子がじゃれあってる動画下さいって言うんだーっ!」

「また厚い本じゃないんですね。不思議ですー。今度聞いてみましょうか?」

「そだねーっ。コウちゃんたちの動画持って行ってあげると、お菓子いっぱいくれるんだよねーっ! ぬふふーっ」



 気を取り直して、鬼瓦プロの意見を拝聴しよう。

 ところで、毬萌。何でスマホこっちに向けてんの?


「僕としましては、一つの料理に特化するよりも、いくつかのメニューで展開する方が良いように思われます」

「なるほど。ちなみに理由は?」


「はい。まず、一点の料理ですと、どうしても人間、好き嫌いがありますので。その点、複数のメニューを提供できれば、客足は伸びるかと思います」

「ははあ、さすがだなぁ。確かに、去年の毬萌みてぇな例もあるからな」


 毬萌が再び「残菊ざんぎくの候、皆様におかれましては」と、トラウマスイッチをオンにするので、すかさず口にマロングラッセを投入する。


「先輩、先輩! じゃあ、3品くらい用意するのはどうですか?」

「おう。3つもか。そんなに作れるかな?」

「それでしたら、事前に作り置きしておいて、1日品質が保てる料理を加えると良いかもしれません」

「武三くん、とってもステキな意見だねっ! それはスイーツにするのはどうかなっ!! わたしはそうした方が良いと思うなっ!」


 毬萌の復旧が早い。

 やっぱり、天海先輩本体を克服したからか、トラウマに対する耐性を覚えるのもスムーズなようである。

 あと2回もこなせば、この話題は平気そうだな。


「つーか、毬萌はスイーツ食いたいだけだろ?」

「そ、そんなことないもんっ! そんなことないもんっ!!」

「なんで2回言うんだよ! そんなことしかねぇだろ!!」


 そろそろ出揃った意見を纏めるとしよう。


「そんじゃ、俺らがやるのは飲食店で、種類は3品。これによって、客足を伸ばす作戦で行く!」

「時間によって値段を変動させたりすると、もっとお客さんの動きが途切れないかもだよ、コウちゃん!」


 ここぞとばかりに毬萌も天才モードへ。

 マロングラッセが効いて来たか。


「まあ、メニューについては、各々が考える宿題って事で。また何日後かに話し合おう。明日からは模擬店の申請期間に入るから、そっちも忙しいぞ」

「みゃーっ……」

「はい、毬萌! 露骨に嫌な顔をしない! お仕事だぞ!!」

「分かってるよぉー」


「あの、そんなに大変なんですか? あたしたちは、申請書受け取るだけなんじゃ?」

「おう。悪ぃ。そこんとこの説明が飛んでたな」


 花祭学園は、各部活、そして同好会に至るまで、平等に出店の権利を与えている。

 が、学園内の出店スペースには限りがあるため、どうしても審査が必要になってくる。

 その精査をするのが、俺たち生徒会役員。

 そして、それを全て確認して、承認、もしくは却下の決裁をするのが会長。


 去年の様子を見る限り、これがむちゃくちゃ大仕事。

 それをこなしながら、あれだけ見事な豚汁を作り上げた前生徒会の有能さたるや、まさに筆舌に尽くしがたいものがある。


 しかし、俺たちだって負けてはいられない。


「俺が全力でサポートするから、みんなでこの難局を乗り切ろう! 毬萌も花梨も、鬼瓦くんも、困ったら俺に言ってくれよな! この手の作業なら任せとけ!!」


「うんっ! コウちゃん、こーゆう時はすっごく頼りになるもんねっ!」

「ですね!」

「ゔぁい!」


 言葉にちょいと引っ掛かるものはありながらも、明日から始まる怒涛の日々に向けて、俺たちは結束を確認し合った。



「ところで、桐島先輩」


 帰り支度を整えていると、鬼瓦くんが内緒話モードで接近。


「おう。どうした?」

「料理を作る件ですが。毬萌先輩と冴木さんの腕前、お忘れではないですか?」



「ゔぁあぁあぁぁぁぁっ」



「わ、忘れてた……」

「……どうしましょうか」



 文化祭前にやるべき事は、本当に山盛りである。

 マシマシである。チョモランマである。


 二郎ラーメンかな?




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


【絶賛発売中! 不明な点はコメント欄にて仰って下さい!!】書籍情報公開中!

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894182669/episodes/1177354054921171298



角川スニーカー文庫公式、全33話『幼スキ』特別SS


よりぬき毬萌さん 毬萌と漢字

https://kakuyomu.jp/works/1177354054919222991/episodes/1177354054919223536


SS最終話 毬萌といつも一緒

https://kakuyomu.jp/works/1177354054919222991/episodes/1177354054921539977


目次 またの名をお品書き

https://kakuyomu.jp/works/1177354054919222991

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る