第345話 鬼瓦くんと群がる女子
「申し訳ねぇけど、一度に8人までしか中にゃ入れねぇんだ! 廊下に長椅子置いてあるから、順番にな!!」
予想通り。
と言うか、予想以上の忙しさ。
本日、文化祭の部活企画の申請がスタート。
放課後になったらスタートよと言っていたら、放課後になった時点で既に10人くらい生徒会室の前に並んでいた。
熱意は認めるけど、君ら、ちゃんとホームルームに出ようね?
某サブカルチャーの祭典だって徹夜待ちは禁止されているだろうに。
そして行列はさらに伸び、留まるところを知らないらしい。
誰か教えてあげて。留まるところを。
「おい、横入りすんなよ!」
「はあ? してねぇし! つか、文句あんなら列から出ろよ!」
「んなことしたら出店権利取れなくなるだろうが!!」
生徒諸君の熱の入りようは分かったから、それを外に出すのはヤメて。
「おい、待て待て! 喧嘩すんな! あと、出店権については別に先着順じゃねぇからな! 申請してもらった分を全部まとめて、会長が精査すっから!!」
「公平先輩! 次の8人、入室できます!」
ドアから花梨が顔を出した。
「おう。了解。んじゃ、次のグループ! 危ねぇから押すなよ! ちょっ、ばっ!! 押すなって! おい、ヤメろ! 特に運動部、押すな!! 振りじゃねぇんだぞ!!」
「ひゃあっ!」
「花梨、大丈夫か? ダメだな、こりゃ。仕方ねぇから、廊下でも受け付けするか」
「えー!? 先輩一人でですか!?」
「安心してくれ。てめぇの力のなさはよーく分かってる。俺は書類受け取る係をするよ。すまんが、鬼瓦くん呼んでくれる?」
「分かりましたー!!」
「桐島先輩。お待たせしました」
肩にテーブルと椅子を乗っけて、鬼瓦くんが登場。
鬼神ランボー。
「そんじゃ、やるか! はい! こっちでも受け付けしますんで、どうぞー」
………………。
「桐島先輩。誰も来ませんが」
「おう。知ってる」
聞こえなかったのかな?
「こっちでも出店希望の受け付けしてますよー! 今なら並ばねぇで済みますよー」
………………。
「桐島先輩。誰来ませんが」
「……鬼瓦くん。俺、知らないうちに死んだのかな?」
「聞いてきます」
確認しないと判断できないんだ。
「戻りました。こちらに人が来ない原因が分かりました」
「マジか。俺、死んでなかった?」
「はい。なんでも、副会長の方で受け付けしたらハズレそうでヤダ、だそうです」
死んでるね! 信頼が!! 結構大事な要素が死んでるね!!
「分かった。鬼瓦くん、代わってみよう」
「何をですか?」
「窓口役と案内役をさ。俺が立って誘導するから、鬼瓦くん、書類に不備がないかと、部活名や希望の種類に抜けがないか確認してくれる?」
「はい。僕は構いませんが」
そして俺と鬼瓦くんがジョブチェンジ。
「えー。こちら、存在感のある鬼瓦くんが受け付けやってますよー」
すると数人の女子が駆けてきた。
「タケちゃん! ウチら1年だけなんだけど、平気かな?」
「ええ。大丈夫ですよ。ねえ、桐島先輩?」
「おう。問題ねぇぞ。書類に不備がなけりゃ、受理しちまってくれ」
「タケちゃん、わたしらのとこ、部長が今日欠席でさ、代理で申請したいんだけど」
「そう言う事情でしたら、問題ありません。ねえ、桐島先輩?」
「そうだな。一応、代理申請した人の名前も併記しといてくれ」
その後も、主に1年女子を中心に、鬼瓦くんの前には短いながらも行列が。
「タケちゃん」と気軽に声を掛けられる鬼瓦くん。
うむ。すっかり人気者になっちまって。
先輩は嬉しいよ。
それ以上に悲しいけどね!!
もう、俺、ここに立ってる意味あるかな?
さっきから鬼瓦くんの「ですよね?」に「おう」としか答えてないんだけど。
「タケちゃんさ、お菓子屋だよね?」
「はい。正確には洋菓子店ですが」
「あのさ、うちの部トリュフチョコ作るんだけど、生クリームが高くてさー。どうにかなんないかな?」
「でしたら、牛乳で代用するのはどうですか。他にも、豆腐を使った変わり種もありますよ。上手く作れば見た目も味も遜色ないかと。ねえ、桐島先輩?」
「おう」
知らねぇよ!! トリュフチョコについて俺は何も知らねぇよ!!
とりあえずしたり顔で返事しといたけど、守備範囲外だよ!!
「では、簡単にレシピをまとめておきます。……はい、どうぞ」
「サンキュー、タケちゃん! 出来たら差し入れするねー」
「あ、いたいた! 鬼瓦くん。ちょっと良い?」
「はい。何でしょうか」
「あみぐるみ作ってるんだけどね。目とか鼻とか口が上手く出来なくて。いい方法知らないかなって」
「いっそ、手芸用ボンドを使うのはどうでしょうか? 手芸店で、さし目、と言う、目のパーツを売っていますから、それを使うと楽ですよ。ねえ、桐島先輩?」
「おう」
もう、何について確認取ってんのかも分かんねぇよ!!
ヤメたって! これなら無視してくれた方がいっそ清々しいから!!
「ここが僕の行きつけの手芸店です。地図を書いておきました」
「ありがとう! たくさん作ったら、鬼瓦くんの分も編むね!」
それからも、入れ代わり立ち代わり、女子が問題を抱えてくる。
その点に関しては良い。
生徒会は生徒の味方であるからして、困り事の相談はついでもウェルカム。
「せ、せんぱーい! こっち、パンクしちゃいそうですよぉー!!」
花梨の悲鳴が聞こえる。
「おう。分かってる。ちょっと待ってくれ。どうにかするから!」
でも、今日ばっかりは困り事、あとに回してもらえないかな。
さっきから、鬼瓦くんの花嫁修業コーナーみたいになってんだよね、ここ。
おかげで、受付としての役割が一切果たされていない。
近寄って来る生徒も「あ、なんかこっちじゃないみたい」と
その結果、さらに生徒会室へ行列が集中する本末転倒。
仕方がない。
助っ人を呼ぶか。
俺はスマホを取り出してスッスとタップアンドタッチ。
「あんたねぇ。私だって風紀委員会の出店準備で忙しいのよ?」
「……あの、武三さんが女子に囲まれているのはどうしてですか?」
僕らの姐御、氷野さんを召喚。
そしたら鬼の嫁が付いてきた!
それも、久しぶりの鬼モード!
勅使河原さんのセリフに淀みがないね!
怖いったらないね!!
「鬼瓦くんの所に女子の相談コーナーみたいなのが出来ちまってなぁ。……勅使河原さん?」
「ふふ、私、お手伝いしてきます」
触れない方が良さそうである。
これで鬼瓦くんの方は片が付くかな。
氷野さんを呼んだだけなのに、副次効果の方が先に仕事しちゃったよ。
「ほら、そこの図体デカいのに小っちゃくなってる男ども! ここでエノキタケも受付してんだから、こっちに並びなさい! 毬萌の仕事が増えるでしょうが!!」
氷野さん、一喝。
すると、文化部の女子に紛れて居心地悪そうにしていた、屈強な男たちが俺の前に順序良く、行儀正しく整列を始める。
俺はこの時をずっと待っていた。
「あの、サッカー部なんですけど。ボールは友達ゲームって言うのをやりたくて。食べ物以外の店でも大丈夫ですか?」
「おう。構わんぞ。ゲーム系の出店だな。じゃあ、申請書に具体的な内容を書いてくれるか。出来るだけ分かりやすく書いてくれると、審査通りやすいぞ」
「え、マジっすか」
「やっぱり食い物系に集中しがちだからな。体験型の企画は場所取る反面、運営する人も多くいるから、実は穴場らしいぞ」
そう土井先輩が言ってた。
「はい、そこ! 列を乱すな! ちょっと、あんた! なに割り込んでんのよ!! 女子だと思って好き放題してんじゃないわよ! ふんっ! せいっ!!」
氷野さん、今日も蹴りの調子は絶好調の様子。
もう二人も飛んで行った。
これで、生徒会室、鬼神夫婦分室、死神エノキタケ分室と、3つの申請所を開設するに至り、ようやく仕事も軌道に乗る。
申請期間が2日しかないため、8割以上の部活は今日来るらしい。
さあ、忙しくなってきたぞ。
続くんだね。分かったよ、ヘイゴッド。
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