第8話 花梨と質問
生徒会に待望の新メンバーがやって来た。
名前は冴木花梨さん。
今年の新入生総代であり、まだ少ししか彼女の事は知らないけれども、とても聡明で頭の良い子である。
凛とした声で堂々としていて、背筋の伸びた立ち姿はスタイルの良さが強調される。
俺は女子を見る際、別に胸部が大きかろうが小さかろうが気にしない。
だが、大きいと言うのであれば、それはそれで文句はない。
とは言え、である。
いくら頭が良かろうとも、いくら凛とした雰囲気だろうとも、いくら胸部が豊かであろうとも、彼女はやっぱり新入生な訳である。
ならば、色々と分からない事もあるだろう。
そんな時は俺を頼って欲しい。
俺は彼女にそう申し出た。
何故ならば、俺は彼女の先輩であり、生徒会の副会長でもあるからなのだ。
「桐島先輩! あの、少し良いですか?」
「おう、花梨。ちょっと待ってな。この書類印刷しちまうから」
俺は彼女の事を名前で呼ぶ。
言っておくが、俺は紳士であるからして、初対面の女子をいきなり名前呼びするような跳躍スキルは持ち合わせていない。
ただし、彼女がそうして欲しいと言う場合は別である。
「あ! それならあたし、取って来ますね!」
「いや、すぐそこだし、俺がやるよ」
「いえいえ! あたしは新人ですから! これくらいやらせて下さい!」
何と言う理想の後輩だろうか。
率先して面倒事を引き受け、しかも笑顔でそれをこなす。
なかなか出来る事ではない。
「先輩! どうぞ!」
「おう。ごめんな。ありがとう。……おっし、お待たせ。ご用件を聞こう」
「あ、はい! あの、質問があるんですけど、いいですか?」
「もちろんだとも。俺でお役に立てると良いが」
「そんな! 桐島先輩に質問させて頂けるだけで、あたしは幸せです!」
そして、不思議な事に、花梨は俺をやたらと立ててくれる。
誰に対してもそうなのかもしれないが、俺は人生でここまで女子に尊敬のまなざしを向けられた記憶がない。
どこかの幼馴染もこの優秀な後輩を少しは見習ってほしい。
「はははっ、まあそう緊張しないでくれよ。相手は俺だぞ?」
「えへへ、分かりました! あの、この学園って、お昼は皆さんどうされるんでしょうか?」
なるほど。基本的なところから攻めてきたな。
「うちは私立だけあって、その辺かなり緩いぞ。どこでも好きな場所で食って構わんらしい。中庭とか、あとは部室で食べるって生徒もいるな」
「へぇー。そうなんですね! あの、お弁当持ってきた方がいいんでしょうか?」
「おう、そうか、そこからだもんな」
俺としたことが、基本的な事の基本を忘れるとは。
今のは失敗じゃないから、敢えて説明の順番を前後させただけだから。
ん? わざわざ混乱させるようなことをした理由?
それがないから困っている。一緒に探してくれまいか?
「えっとな、基本的には3タイプだな」
「はい! お願いします!」
花梨はメモ帳を取り出している。
これは下手な説明はできないなと、俺は一つ咳払い。
「まずは、家で弁当作ってきたり、コンビニとかで食い物買って持って来るヤツら。こいつらのメリットは、早弁ができることだな」
「ふふっ、良いんですか? 副会長が早弁を認めちゃって」
「おう。実は俺もたまにやってる。皆にも、バレないようにやれって伝えてくれ」
「あはは! 了解です!」
「続いて、学食で食うヤツら。多分、こいつらが一番多いな。何故ならばうちの学食は、美味いし、量が多いし、メニューも豊富でオマケに安い!」
「わぁー! すごいですね!」
「ただ、それだけに難点があるんだよ」
「あ! もしかして、混むんですか?」
正解を先に言われてしまった。
せっかくもったい付けたのに。
「おう。4限目が終わった直後なんかは、むっちゃくちゃ混むな。日替わりメニューが当たりの日は、もう大変なことになる」
「そうですかー。一年生のあたしにはハードルが高そうです……」
少しがっかりする花梨。
これはいけない。
「そんじゃ、今度一緒に行ってみるか? 俺のガイドで良ければだけど」
「ええ!? 良いんですか!? ぜひ、ぜひぜひお願いします!!」
「おう。意外とグイグイ来たな。やっぱ学食、気になるよね」
「へっ? あ、はい! でも、桐島先輩と行けると思ったら嬉しくて!」
「お、おう。そうなの?」
この、ひたすらに先輩を立てる姿勢の見事さよ。
あっぱれだ! あっぱれをあげよう!!
「そんで、最後が購買でパンとかおにぎり買うヤツらだな。温かい飯は食えんが、それなりに種類があるし、味も悪くないから、急ぎの時はこいつに限る」
「なるほどー! じゃあ、しばらくあたしは購買組になりそうです!」
「まあ、学食が人気のおかげでそっちは割と空いてるからな」
こうして、花梨の質問を見事に捌いた俺であった。
「先輩! もう一つよろしいでしょうか?」
「おう。何でも聞いてくれたまえ」
「わぁー! 先輩って本当に頼りになりますね!」
「おいおい、よせやい!」
ちょっと天狗になっている俺。
そんな俺が不快なヤツは、喜ぶと良い。
伸びた鼻が、今からへし折れるゆえ。
「ママがですね、女の子は男の子のために時間をすっごく使ってるから、利益供与があってしかるべきだって言うんです! 先輩、どう思われます?」
「……Oh」
ちょっと、アレがナニしたので、アレである。
一旦、その質問は持ち帰る事にした。
優等生の後輩に頼られる先輩への道のりは、果てしなく遠いようだ。
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